第2話
「もちくーん!おもちさわらせて♡」
「や、やだよー」
休み時間のたび、クラスメイトの女子が僕を触りにくる。
こう書くとヘンタイじみているけど、もちもちプニプニしに来るだけで、決してエッチな意味じゃない。
特に、幼なじみのゆずちゃんは毎日休み時間になるとからかいながら触りにくるのでムカツク。
「もぉち♪もちもち!カッコ悪ぅ〜♡」
「ゆずちゃんやめてよー」
「ねえねえ、最近ちょっとカッコいい男の子が人助けしてるって噂、知ってる?」
ちょっと、男とはいえ胸はやめて!セクハラだよ!
「聞いたー!色黒の男子が川に落ちた子猫助けたって!」
ちょっ、それって変身した僕!?
「しってる♡でもぉ、このK-POPアイドル全盛期…時代はやっぱ美白男子だよねー♡」
そう言ってゆずちゃんは僕へのセクハラを再開する。
「白くてプニプニ〜♡」
ふたつくくりの毛先を指で巻き取りながら、もう片方の手で僕のほっぺをつついてめちゃくちゃ煽ってくる。
その話し方も、ピンクでやたらスカートが短い服も、なんか嫌だ。昔は仲良かったんだけど…
膝に乗ってこられそうになったのでさすがにトイレに避難した。
「ぷっ、かわいそ〜♡」
きゃはきゃは笑う声がして頭が痛くなった。
今日はもう一つゆううつなことがあって、運動会の練習がある。
長時間外にいて行進やダンスの練習をするので僕は苦手だ。
長く日焼けすると火傷みたいになるんだよなぁ…。
案の定、夕方だんだん肌が痛くなってきた。
ヒリヒリする…これなんか変身する時に似てるなぁ…
僕は恐る恐る鏡をのぞきこんだ。
「!?」
へ、変身してる…。
「さっきの練習のときに変身すりゃよかったのになァ」
火鉢に当たってなくても、日焼けで変身しちゃうなんて聞いてないよ!?
こんな時間に変身してしまうと、体をもて余す。人助けかぁ…。
とりあえず家にいても仕方ないのでその辺をブラブラする。
花やしきの近くのガチャガチャがいっぱいある店を冷やかしに行った。
平日の夕方前ということで人はまばらだ。
僕はお店を何周かして、目ぼしいアイテムを念入りにチェックした。
3周目に突入した時、後で回そうと思って狙っていた和菓子のマスコットのガチャガチャの前に、女の子がいた。
このフィギュアは出来がよくて、前はすぐ売り切れた。これは再販だよ。
彼女はガチャを回す。ころんと出てきた中身はどうやら欲しいものと違ったみたいで、機体の中を覗いてもう一回回すか迷っているようだった。
すぐ後ろに立つ僕に気づいて、とぼとぼと場所を譲られる。
300円入れて回すと、道明寺が出た。
持っていないものが出て喜ぶ。本当はさっきの子が当てたみたらし団子を狙っていたんだけど。
気がつくと側にさっきの女の子が立っていて何が出たかチラチラ見ている。
「どれ欲しかった?」
年上の女子に話しかけるなんて普段は絶対できないけど、変身後の僕って、まるでなんでもないことみたいに話しかけちゃうんだよね…
「どら焼き…」
どら焼きは、一口齧られていて中のあんが見えるデザイン。うんうん、可愛いよね。
「これ、再販なんだ。前にどら焼きダブったの家にあるから、みたらしと交換しようぜ。」
「えっ、いいの?」
「うん。ちょっと待ってろ。」
僕はひとっ飛びで家に帰ると、小物入れから未開封のどら焼きフィギュアを掴んで、ガチャガチャのところに戻った。40秒しかかかってない。
丸い帽子を被って俯いていた彼女が、驚いたように顔を上げた。
!?嘘っ、この子…教育テレビのパティシエアイドル、吉野菊子ちゃんだ!
テレビ番組でプリンやシュークリームなどを作って、歌って踊っている。
スタイルがいい美少女で、餅太郎は憧れていた。
震える手でガチャガチャを交換すると、菊子ちゃんはお礼を行って去っていく。
一応これも人助けになったみたいで、菊子ちゃんが後ろを向いた瞬間戻ってしまった。
ぽーっとしていたけど、サインくらいもらえばよかったかな…。
追いかけて店を出たけど、もうあの子はどこにもいなかった。
その後、ニュースで菊子ちゃんが行方不明になってしまったと流れた。
夜、うちの店にも聞き込みの刑事が来た。
「色黒で痩せてる小学校5年生くらいの男子といなくなる直前話してたらしいんだけど、この辺で見かけませんでしたか?」
えっもしかしてそれって…
「僕じゃん!」
「知ってるのか餅太郎」
「えっと、たまたまあの店でガチャガチャ交換した…後で店出たからどこに行ったかわかんない…」
「なるほどなぁ。そりゃ心配だな。もしかすると菓子魔人の仕業かもしれねぇ。」
「鹿島神?」
「バーロー、敵組織の名前だよ。お菓子の魔人と書く。」
僕は、またも変身して菊子ちゃんを探しに行くことにした。
「餅太郎。これも発明品だ。武器として渡しておこう。」
出掛けにお父さんから袋を渡された。
「サンキュー博士!」
「くれ悪。」
ガチャガチャの店の周辺の屋根を探していると、これは…僕があげたどら焼きフィギュアだ!外袋がちょっとヨレているから間違いない。
すると、上から青色の全身タイツを着た顔が白塗りの不審者が現れた。
鼻だけピエロのように赤い。
「ウフフフ!我が名はどら焼き魔人!美少女にうまいどら焼きを食らわせて楽しんでおる!」
魔人の足元にはどら焼きを口に詰め込まれて、苦しそうにもがく菊子ちゃんの姿があった。
下手に攻撃なんてしたら盾にされるかもしれない。
「おいしいかい?お嬢ちゃんどら焼き好きだもんなぁ?次は栗どらだよ〜」
そんな…お茶も出さずにどら焼きなんて食べさせたら…甘すぎてくどいだろ!酷い、なんてやつだ!
菊子ちゃんは、僕に向かって指で4のサインを出す。
お茶なしで夕飯前にどら焼き4個だと…?
あいつは悪魔か!
「やめろ!どら焼き魔人!これ以上食べさせるつもりなら、せんべいマンが相手だッ!」
「せんべいマン…最近人助けをしていると噂になっていた少年だな!?」
「んなことたぁどうでもいい。菊子は返してもらうぜ。くらえ!」
そう言うと僕は袋から出した玉を魔人の口に放り込んだ。
玉といってもあられだが。
「クソッ、マヨネーズ味…だとッ?この酸味と塩気…やめられないとまらない…」
僕の持っていたあられの袋を、魔人は取り上げてバクバクポリポリ食べ続ける。
説明しよう!
お菓子魔人は普段は甘いものしか食べない。
人間の舌には、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つの味覚受容体があり…その中でも甘味と塩味は互いに対立する性質を持っている!
甘いものを食べると、舌の甘味受容体が刺激され、次に塩味を感じると、対立する塩味受容体が刺激されるのだ!
つまり、味のコントラストが強まって、よりドーパミンがドバドバなのである。
脳から汁が出るような禁断の味に、敵は混乱している。
これハッ◯ーターンの粉があれば魔人駆逐できるんじゃ…
「ウワーッ!とまらない!ポケットから武器を出したいのに!アッ、マヨあられの食い過ぎで上顎切った!」
「今だ!せーんパーンチ!」
その名の通り、素早いパンチがまるで千の拳になって見えることから命名した。
「ズドドドドド…」
「グワーッ!!!覚えてろよ!」
どら焼き魔人は去っていった。
「ほら、お茶。」
「あ、ありがとう。せんべいマン?さん…」
菊子ちゃんはごくごく喉を鳴らして飲んでいる…可哀想に。
「…不審者には気をつけないと駄目だぞ。」
菊子ちゃんを交番に送り届けて、僕は変身が解けないうちにさっさとずらかった。
警察に見られたら面倒だ。
っていうかあんな全身タイツ男が現場の上にいて、なんで捕まえないんだろう?大人になると見えないものが増えるのかなぁ。
帰って、ヤ◯オクで調べたらハッ◯ーターンの魔法の粉が出品されてるのを発見した。
一応爺ちゃんに説明して武器としておねだりしてみた。
「開始価格5万円!?バーロー!詐欺だ!」
「アリストテレスはかく語りき。若者は容易に騙される。なぜなら、すぐに信じるからだ。」
お父さんに馬鹿にされ、爺ちゃんにゲンコツを食らったのでこの作戦はなしになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます