第99話 決戦④

 

 ルクスの光と火花を散らし、広場の中を四つの影が縦横に駆けている。

 サラが隆也に向かう剣を叩き、そのまま剣先を撃ち込む。

 ルクスの光が散り、ラミエルの剣は逸らされる。


 隆也がラミエルの腕を斬った。

 この隆也の強さなんだ。

 ラムザスは、瓦礫の上に腰を落とした。

 隆也自身のルクスの強さは感じない、それなのになぜ戦斧を受けられる。なぜ、ラミエルを斬ることができる。


「何が起きている」


 思わず呟いた。


「ルクスの集中じゃ」


 傍らに浮かんだのは、カナンだ。


「集中といっても、ラミエルのルクスを破るまでにはいかないはずだ。そこまでのルクスは持っていない」

「刃先の接触する部分にのみ、ルクスが集中すれば斬れるじゃろ」

「嘘だろ、そんなことが可能なのか」


 瓦礫を登って来たのはアレクだ。


「動いても大丈夫なのか」

「皆が闘っているのに、隆也が闘っているのに、横になってはいられんさ」

「確かにな」

「しかし、出るなよ。その身体では、ラミエルの相手は出来ん」


 レイムも宙に浮いたまま腕を組む。


「二度、遭遇したと言っていたが本当なのだな」

「一度目は外北。これは僅かに撃ち合っただけだがな。二度目はイリス山、ここで隆也は自らも深手を負いながら、ラミエルに一太刀浴びせたぞ」


 カナンが見て来たように言う。


「一太刀、一撃加えたのか」

「あの戦い方では、嘘ではないのだろう。しかし、隆也に何があったのだ。ラミエルの成長を進化とは言ったが、隆也のそれは別物だ」


 我の言葉に、アレクが応えた。


「死を潜り抜けて来て、肚が座った。剣技は刀が教えてくれたのじゃな」


 カナンの重い声が聞こえる。


「刀、剣のことか。確かにあの剣は戦い方を知っているはずだ。しかし、それは咄嗟の時の動きで、あれだけの精妙な動きはどうにもならんはずだ」


 隆也が戦斧受け、サラの剣をラミエルの剣が受ける。僅かに空いた間隙に、シルフの槍が走った。

 ラミエルが後ろに下がる。

 シルフの槍を避け、違う、サラの剣を受け流してシルフに向けさせたのだ。そのまま戦斧を反対側から振り向ける。


 その次の隆也の動きは、ただ驚くしかなかった。

 戦斧から解放された刀がサラの剣を打ち、シルフの槍を押す。

 それだけで、サラの剣はラミエルの肩口で、シルフの槍は胸元で、ルクスを輝かせたのだ。


 精妙過ぎる剣捌きだ。

 しかし、とラムザスは思った。剣技にルクスが追い付いていない。現に、削られて火花を散らしているのは刀だ。

 このままでは、倒れるのは目に見えている。

 左腕はまだ動かない。右腕だけで出来るか。


「やめておけ」


 心を読んだように、カナンの声が響いた。


「この場は、全て創聖皇の御意思だ。そして、創聖皇の想いでもある。お前たちが行って、どうにかなるものでもあるまい」

「創聖皇の御意思、この状況がですか」


 アレクが身を乗り出す。

 そう、広場には幾多もの屍が転がり、血に濡れている。ラミエルが殺戮の限りを尽くす陰惨な場所だ。

 これを創聖皇が望んだのか。


「全てをここに集められた。そして、閉じ込められた。天外の者をここで討てとの御意思だ」

「しかし、これではこちらが殺される」

「創聖皇の御意思は、深淵の中にあり」


 レイムが呟く。

 続く言葉は、人知の及ぶところでなし、になる。だが、この状況でどんな奇跡が起こると言うのか。


「では、このまま傍観しろと」


 アレクの言葉が流れる中、シルフが槍を回し、サラが隆也の前に割って入る。

 槍は戦斧に弾かれ、ラミエルの剣をサラが受けた。僅かに遅れてサラが飛ばされる。返された戦斧の石突がサラを撃ったのだ。


 アレクの時と同じだ。

 石突を打ち付けた勢いで再び戦斧を返し、刃が走る。

 隆也が刃を受けた。いや、そのまま押し込まれる。同時に隆也が身体を浮かせた。


「うまい」


 思わず声に出る。

 風に押される落ち葉のように、隆也は逆らわずに舞った。

 大きく飛ばされた隆也は、それでも足から広場に下りる。

 ここから見る隆也は、数倍も大きく見えた。

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