(4)
「……え? いや……その……言われてみれば……えっと……」
「何だ、何も聞いてないのか?」
「は……はい……」
「そうか……。私は自分が人間の屑だって事は自覚してる。でも、私にも美点の1つぐらい有る。努力家だって事だ」
「……え……えっと……あの……?」
「恐怖という感情を身に付けるのは無理でも、持ってる演技は出来るかも知れない。その神様のお気に召すように努力してみよう。協力してくれ」
「協力しますので……え……えっと……まずは……」
別の世界版の私は、両手に刺さっているナイフを交互に見る。
「あ……なるほど」
自分で言うのも何だが、私にだって親切心ぐらいは有る。
私は、ヤツの右手に刺さっているナイフを抜く為に、そのナイフを
「ぎゃああ……方向が違いますぅ……」
「この刺し方からして逆方向に動かしたら……抜けないぞ。見ての通り、このナイフは片刃だ」
「逆じゃなくて、逆じゃなくて……水平方向じゃなくて、垂直方向に動かしてえええッ‼」
「垂直方向か……理解したが……本当にそれで良いのか?」
「いいですいいですいいです……早くやって……」
「
私は、思い切り、
「変だな。お前の言う通りにしたのに全然抜けないぞ」
「やめて〜ッ‼ 馬鹿のフリして酷い嫌がらせをするのはやめて〜ッ‼」
「でも、一足先に楽になったお前の仲間の言う事が本当なら、私はお前達より能力が低い筈だ。多分、知力もな。馬鹿なのは仕方ない。怨むなら、そんな『設定』にした神様とやらを怨め」
「い……いやあ……誰がだずげで〜ッ‼」
「考えてみれば、他人が恐怖を感じた時にどうなるかを、ちゃんと観察した事は無かったな。恐怖を感じた人間に、まず、起きる現象は……いや、気が早過ぎる。もう少し様子を見てから結論を出そう。ところで、軽い世間話だ。利き手はどっちだ?」
「へっ?」
「子供の頃から自分で、両手を同じように使えるように訓練してきた。今じゃ、どっちが元々の利き手か忘れてしまったんでな」
「え? え? え? え?……右手ですけど……」
「なるほど。こう見えて、私にだって情けや慈悲ぐらい有る。ブッ壊すなら左手か……。右手を失うより、今後の日常生活に支障は少ないだろう」
「いやいやいやいや……なななな何を……言って……」
「わかった。嫌なら、妥協案として左手をブッ壊すなりに、ブッ壊し方は最小限にしよう。ちゃんと私は、他人から異論を言われた場合に備えて、いつも、代案も考えてる。『お前が死にたくないなら、代りに家族の命を差し出すってのはどうだ?』とかな」
「うわあああああッ‼」
「更に代案だ。私の質問に対して、正解を答えられたら、これ以上の傷を与えずに解放してやろう」
「え……? え……? え……? 本当ですか?」
「本当だ。私は正直な女だ」
「じゃ……じゃあ……早く質問を……」
「嫌がらせの為に、他人の片手の指を2本だけ切り落すなら……どの指にする?」
「えええええええええッ?」
「早く答えないと……自分自身の体で正解を知る事になるぞ」
「ああああ……え……えっと……良く使う指……えっと……1つは人差し指?」
私は天を仰いだ。
「なるほど……恐怖と言う感情に囚われたら、どうなるか、概ね理解出来た。まずは、知性や思考能力の大幅な低下か……。知性や思考能力の低下の度合は……怒りで頭に血が上った場合よりも酷く、他人を嘲笑・冷笑している時と同等ぐらい……と。残念ながら、のっけから不正解だ」
「へっ?」
「残念だったな……答は……」
私は、
「ぎゃあああああ……」
「この指を失なうと、握力が大幅に低下する」
続いて、親指を切り落す。
「うぎゃああああ……」
「もちろん、親指を失なうと、何かを握るのに支障が出る。見てみろ、5本の指の内、たった2本を失なっただけで、お前の左手は多くの機能を失なった」
「うわあああ……ッ‼」
「あと……自分と同じ顔の奴に、こんな事を言うのは何だが……可愛い方かも知れないが、ありがちで個性の無い顔だな……ちょっと美容整形をやってもいいかな?」
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