第19話 ……死にたい

 ――意識が覚醒する。

「……」

 瞼が重い。耳が遠い。何が起きたか思い出せない。

 今感じるのは嗅覚と触覚。この独特の匂い……消毒液かな。背面にはふかふかな柔らかさを感じる。

それ以外の感覚は正常に動作していない。目は開こうとしないし、耳はキーンと鳴っている。しかし、時間が経つにつれてそれも徐々に回復していき、ようやくわたしは目を開けることができた。

「……ぅっ」

 開けた目に直接入ってくる光が眩しい。目が……目がぁ……! 

と、内心冗談を交えつつとりあえず起き上がり辺りを見渡す。

どうやら、わたしはベッドで寝ているようだった。多分病院の。どうしてこんなところにいるのか、やはり思い出せない。

「……はっ、そうだ、切り裂き魔……!」

 混乱していた脳がやっとちゃんと働き始め、直前の記憶が蘇る。

 わたしは切り裂き魔事件、その首謀者の居場所を突き止める為にマイター・スクエアのみならずノースミンスタ全体に及ぶ規模での魔力探知を行なっていた。現れた切り裂き魔は銀狼さんが戦闘不能にまで追い込んでいて……、そこからだ。そこからの記憶がない。つまり、そこで何かあってわたしは気を失ったんだ。

「銀狼さん……っ」

 何かがあったのなら銀狼さんも危ないのでは。そういう思考が頭を駆け巡る。わたしの体は考えるよりも先に動いていて。ベッドから飛び出していた。

「あっ! ……うぐ」

 しかし、滑った。寝起き直後の体は思ったようにちゃんと動かず、ベッドから滑り落ちて、視界が逆さまになった。

 その時――この部屋のドアがガラガラと開き、誰かが入ってきた。

 そして、その人物の蒼い瞳と目が合った。

「……」

「……」

 わたしの彼の間に静寂が流れる。というか時が止まってる。

 何も言えないわたしの代わりに、銀流さんが口を開いた。

「……それ、楽しいのか?」

「あっ、ぅう……」

 真面目な顔で銀狼さんにそう言われ、銀狼さんがの安全がわかった安堵と同時に恥ずかしすぎて顔が熱くなったのを感じた。もう……死にたい……。



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