第3話 金色の魔女対山の王


「――二人で勝つぞ!」

金髪の魔女エリスは兄の力強い言葉に鼓舞され、怯えることなく目の前の脅威に挑もうとしていた。

「……」

エリスだけが知り、兄は知る由もない事実が二つ存在していた。

まず一つ目――エリスはアルトリウスよりも強いということ。

ひとえに強いと言ってもその方向性は様々。剣士であるアルトリウスは対人戦闘に、逆に魔物との戦闘においてエリスはアルトリウスを遥かに凌駕する力を有している。

 それは何故か。彼女は、魔法に愛されているからだ。

「ガゥルアァァ!」

 エリスに向かって雄叫びをあげる茶狼。呼応するように、地面から無数の岩の棘がエリスの腹に風穴を開けんと迫り来る。

 土の魔法――〈グランド・ソーン〉

 対するエリスは至極冷静。ただ一心に、己の持つ魔力を世界に干渉、具現化させて解き放つ。

「――〈フリーズ・コフィン〉」

 エリスが小さくそう唱え、その瞬間、彼女の手から魔力が放出される。

大地を、木々を、空間を凍てつかせる氷の牢獄。圧倒的なまでの魔力の差で、フェンリルの放った魔法は凍りつき、その先にいるフェンリルすらも氷結の檻に閉じ込めた。

短期決戦。一撃必殺。

兄が壁の向こうで死闘を演じているというのを知らぬまま、エリスはたった一回の魔法で山の王を倒して見せたのだ。

「……」

 しかし、当のエリスは未だ集中力を切らさず。いつ何が来ようと迎撃できるよう再び魔力を溜めている。彼女は知っているのだ。この山に足を踏み入れた時から、自分が狙われていたということに。狩られるなら今が絶好のタイミングだということに。


 ――彼女は、魔法に愛されている。

 

 それ故に、魔力を持つものの位置がある程度ならわかる。それが強大な魔力であればより鮮明に。一介の魔物程度の接近、急襲ならば即気付ける。

「――」

 ただ、その力に頼り過ぎているせいで。強者との戦闘経験があまりにも乏しいせいで。

 ――『エーテル山の王』の『気配』に気づくことができなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る