第一章 転生したらラスボスだった①
「――――は?」
「ですからあなたには、ダンジョンのラスボスに転生していただきます」
「……ラス、ボス?」
オレ、小鳥遊蒼太は、ついさっきまでどこにでもいる会社員(32)だった。
しかし通勤中に横断歩道に突っ込んできたバスに撥ねられて死亡。
気づいたら、この何もない真っ白な空間にいたのだ。
目の前には、THE☆神様といった純白のワンピースを身にまとった、美しいサラサラの金髪に緑色の瞳をした絶世の美少女。
自身を女神だと言い張る彼女に、今オレは、転生してダンジョンのラスボスになれと告げられている。
オレを見た途端、ポンっと手を叩いて、「実は今、ラスボス補充が間に合ってなくて……ちょうどよかったです!」なんて言ってのけたこいつの思考回路がまるで理解ができない。
「いやいやいやいや。ダンジョン? ラスボス? オレ、さっきまで普通の会社員だったんですけど!? 無理に決まってるでしょう!」
「あは、大丈夫ですよ! 弱いまま転生させてもすぐ死んじゃってまた補充しなきゃいけないし、あなたにはつよつよ特殊スキル五つ、それから追加で好きなスキルを五つ選ぶ権利を与えます。肉体も十八歳くらいに若返らせておきますね☆」
大丈夫じゃねえええええ!
というかスキルってなんだよゲームかよ!
女神はオレに、一冊の分厚い冊子を渡してきた。
表紙には、「選べるスキルカタログ」と記されている。
「あ、カタログの使用期限は今日ですので、転生したらさっさと五つ決めちゃってください。ラスボス専用スペースは好きに使って構いません。それじゃ、頑張って長生きしてくださいね!」
「えっ、いや、ちょ――っと待てえええええええええええ」
◇◇◇
ぐにゃりと視界が歪んで、世界が暗転したのを感じた次の瞬間。
俺は薄暗い異様な空間に立っていた。
その空間は、床も壁も天井もごつごつした岩のようなレンガで造られており、壁面には等間隔で灯りが灯っている。
ゲームやマンガに登場する、いわゆるダンジョンまんまだ。
――え? は?
ここで暮らせと?
さっきダンジョンとか何とか言ってたよな?
ってことはモンスターとか野獣とか、そういう恐ろしい生き物もいるってことか?
体から血の気が引いていくのが分かる。
こめかみを冷や汗がつたい、気がつくとオレは震えていた。
「――はは、嘘だろ? オレは平和な世界で生きてきた日本人だぞ?」
そうつぶやいてみても、辺りはただ静まり返ったままで。
自分の弱々しい声だけが虚しく反響する。
夢ならどんなにいいかと思ったが、生々しい感覚が夢ではないことを告げていた。
「と、とりあえずどうにか身の安全を確保しないと。一日で二回も死ぬなんて冗談じゃないぞ」
何か身を隠せる場所があれば、少しは安心できるかもしれない。
オレはそう考え、何気なく振り返った。
するとそこには、オレの身長の何倍もの高さにそびえる巨大な扉があった。
しかし扉は重い鉄のような材質でできていて、鍵穴も取っ手も見当たらない。
「……たしかあの女神の話だと、オレは今、この世界でラスボスなんだよな? だったら、もしかしたら――」
オレは扉に触れ、力づくで開けてみようと試みる。
――が、力を入れる前に、目の前に半透明の画面のようなものが現れた。
そこには、『所有者【ラスボス】の存在を確認しました』と書かれていて。
同時に、機械的な音声が淡々とその文字を読み上げていく。
そして読み終わると同時に、扉がギギギ……という音を立てて自動的に開かれた。
「な、何だったんだ今の……。でも、どうやらこの先がラスボスのスペースってことで間違いないみたいだな」
扉の先には、広大な広間が広がっていた。
扉から部屋の奥までは、恐らく郊外にある巨大ショッピングモール「リオンモール」くらいの広さがある。いや、それ以上か?
天井までの高さも、高すぎてよく分からない。
しかし、そのだだっ広い空間にあるものといえば。
扉から一直線に延びた真っ赤な
「――つまり、今日からここにラスボスとして君臨しろと?」
オレがそう、扉付近で呆然としていると。
またしても先ほどの無機質な音声が聞こえてきた。
『所有者【ラスボス】の登録が完了しました。これより、このラスボスエリアは小鳥遊蒼太様のものとなります』
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