第13話 初めてのお出かけの話②
パンケーキを食べてお腹が甘さで膨れた私たちは、服屋の並ぶ通りを歩く。
地雷系、コラボ系、どれも私に似合うタイプじゃないから、いまいち乗り気になりきれない。もともとおしゃれにあまり興味ないのもあるけど。
隣で橘さんはどんな服が似合うかなぁ、なんて考えながらきょろきょろとお店を探してる。私に似合う服選ぶの難しそうだな、なんて他人事みたいに思う。
そして何か気になる服があったのか、私の手を引っ張ってお店へと走る。いきなり手を繋がれてちょっと緊張する。
これ着てみて、って見せられたのは……
「え、これ?」
「そう! 似合いそうだなぁって」
オーソドックスな白黒のメイド服だった。
私がポカーンとしてる間に店員さんに声をかけて試着の準備が整い、私は半分押し込まれるように試着室の中へ。
スカートって足が冷たいから苦手なんだよなぁ、とかよりにもよってなんでメイド服?とかいろいろ思うことはあるけど、着替えるまで出られなさそうな圧を後ろから感じて、とりあえず着替える。
「ど、どう?」
「うん、すごい似合ってる! ねぇ、私の家で働く気はない?」
いきなり低くてかっこいい声で囁かれる。いやどんな勧誘よ。
呆れながら暴走しそうな橘さんをなだめる。これじゃ本当にお世話係みたいだ。
「そんなこと言われたって買わないからね?」
「えー」
試着室にすぐ戻って元の服に着替えなおす。そのあとメイド服を軽く整えて、元の場所に戻す。
似合ってる、って言われたのはちょっとうれしいけど。私にはこういう趣味はないからなぁ。
「私だとかわいい感じのはこれくらいまでじゃない?」
黒無地の柔らかいワンピースを手に取って、自分に重ねてみる。ノンスリーブじゃなくて、ちゃんと袖のあるやつ。あまり肌を見せるのは得意じゃないし。
「うーん、そしたらいっそゴシックなやつにする?」
そういって渡された半そでの黒いワンピース。橘さん曰くゴスロリ?ってジャンルの服らしい、わからなかったから聞いてみたら他の何とかロリータの話もされて頭がパンクしそう。
難しい話から逃げるように試着室に入って、とりあえずこれも着てみる。
「かわいい~! もうこれにしない?」
「う~ん、じゃあそうしようかな」
買い物にちょっと疲れたのもあって、流されるように決めた。お金を払った後着てた服を袋に入れてもらって外に出る。
周りと同じような服を着てることでちょっとなじんだ気もするし、やっぱり着てるのが私だから浮いてる気もする。なんならより目線を向けられてすらいるような。
「ま、葵ちゃん可愛いもんねぇ。もっと堂々とすればいいのに」
何も言ってないのに向こうから返事が飛んでくる。何を考えてるか手に取られてるように。
それができたら苦労してないんだけど。やっぱり人が多いところ、苦手だ。
◇
そのあと通りがかりにあった店でクレープを買って、また交換し合いながら食べる。
何気なく自分のクレープに近づく唇がちょっといやらしく見えて、クレープを握る力が強くなる。クリームこぼれちゃうよ~、なんて言われるまで無意識で強く握ってたみたい。
橘さんのクレープに口をつける気にはなれなかった。
そういえば、最近好きって言われなくなったな。
誰にも聞こえないように、そうぼそりと呟く。なくても困らないけど、ないとちょっと寂しい。いつの間にか好きはそんな言葉になっていて。
隣を見ると次はどこに行こうかな、なんて呟いてる横顔が見える。私のこと、どう思ってるんだろう。一緒に遊びに行くってことは友達ではあるとは思うけど、友達以上になれてるのかな。
もともとこの関係は向こうの好きって言葉から始まって、今までなんやかんやで続いている。でも別に好きって言葉は告白でも何でもなくて、たまたまその言葉だっただけで。
私は橘さんをいつの間にか信頼している気がするし、きっと向こうは元から信頼してくれてる。でもいつの間にかわがままな気持ちが積み重なって、それ以上を求めているみたいな気がしてもやもや。
そのまま目的地も決めずに道なりに歩いてたら、神社への看板があった。どっちからとでもなく、そっちの方に歩を進める。
「せっかくだしお参りしていこっか」
それに頷いて、賽銭箱の前まで。石畳を踏みしめるたびコツコツ、って心を落ち着かせる音が聞こえる。
お賽銭を投げて、二礼二拍手一礼。そういえば何をお願いするか決めてなかったな。とりあえず、これからもこの友情がずっと続きますように。そうお願いした。
礼を終えて目を開けたら、まだ橘さんは礼をしてる途中。姿勢がよくて見入る。
そしたら礼が終わった橘さんが私の視線に気づいてかこっちを向いて、目が合う。
思わず恥ずかしくなって目を逸らしたら、向こうはくすりと笑って
「こんなこと、前もあった気がするね」
なんて。私とのことをずっと覚えていてくれてるみたいでちょっと嬉しくなった。
◇
駅で解散した後、電車の中。
今日半日一緒にいたわけで、その時間は学校で授業を受けてる時間と同じくらいだと思うけど、学校の帰り道以上に寂しさを感じる。
向こうは私のこと、どう思ってるんだろう。そもそも私のこの気持ちは恋なのかな、それとも別の何かなのかな。
また同じことを考えている。悩みは尽きない。
そんなことを考えたらさらにどっと疲れがきた気がして、目を閉じる。ずっと隣にいてくれたらいいのに。大事な気持ちを伝えたい時ほど、その相手は目の前にいないもんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます