第97話 そばにいるから

「とりあえずなんか食べるか?」


 公園から帰ってきたときにはすでに8時を過ぎていた。

 2人とも夕飯を食べてないので俺はそう提案する。


「いや、私が」


「いや、今日は俺が作るよ。月はゆっくりしててくれ。」


 月の言葉を遮って俺はキッチンで夕飯を作り始める。

 さすがに今の月に頼りきりになるのは論外だろう。

 まあ、野菜炒めくらいしか作れないんだけどな。


「蒼君って料理できたっけ?」


「野菜炒めなら。」


「いや、野菜炒めかい!」


 リビングでゆっくりしていた月から盛大な突っ込みをいただいた。

 料理できないからぜひとも月には俺と結婚してほしい。

 そんなことを思いながら野菜炒めを作っていた。


 味は普通にうまかった。

 月も意外とおいしいと目を丸くしていた。

 以外とは失礼じゃないだろうか?


 ……………………………………………………………………


「ねえ。」


「どうした?」


 夕飯を食べ終わってお互いに風呂に入ってからまた俺の家に月がきた。

 今は月が俺の膝の上で寝転がっている。

 痛くないのかと思ったが幸せそうな顔で寝ころんでいる月を見るとそういう気が失せたので言っていない。


「蒼君は何も聞かないの?」


「まあ、無理に聞くことでもないからな。月が言いたくないなら言わなくてもいいし、言いたいっていうなら俺は聞くよ。どっちにしろ俺は月のそばにいるからさ。」


 恥かしいけどしっかり言わないと月は勝手に悩んで勝手に自分のことを貶し始めるからな。


「じゃあ、聞いて。」


「うん。いいよ。」


「蒼君演劇でないで。」


「単刀直入だな。」


 下を見てみれば少し涙目な月の顔があった。

 そこには先ほどまでの幸せそうな表情を浮かべていた月の顔はどこにもなかった。


「私、蒼君が他の人とキスするなんてヤダ。」


 その声音はどこか子供っぽくて可愛らしい。

 俺の膝の上で俺を見あげながら月はそういった。

 俺だって月以外とキスするなんて御免だ。

 それが例えクラスの総意で決められたことであったとしても月を裏切るような行為は決してしたくない。


「俺も嫌だな。」


「じゃあ、演劇に出ないで。」


「それは難しいな。もう決まったことだしここで変なことを言い始めたら月の立場が悪くなりかねない。」


 最近せっかくクラスの中で友達言えるような人ができてきた月にまた孤独にはなってほしくない。

 それもこんなくだらないことであればなおさらだ。


「でも、」


「別にキスなんてしないさ。どうせフリだろうしもし本当にしてくるようなら止めるからさ。」


 安心させるように月の頭を撫でる。

 すぐに目が細くなって幸せそうな顔をする。


「でも、相手はそうじゃないかもしれないじゃん。」


「それはどうなんだろうな?」


「絶対そうだよ!」


 先ほどの幸せそうな顔を引っ込めて顔を赤くして怒り始める月。

 表情がころころ変わって面白い。


「じゃあ、台本を変えてもらうか~」


「そんなことできるの?」


「まあ、多分?そもそも今回の台本って脚本かいた人に一任されてるからその人が変えたら何も文句言えないだろ。」


 今回脚本を書いたのは男子生徒でなんだか気の弱そうな性格をしていたのを覚えている。

 大方神楽たちの要望を多分に取り入れたのだろう。

 しかし、それが通るのならこちらにも十分やりようはある。


「でも、簡単に書き換えてもらえるのかな?」


「大丈夫。俺が何とかするからさ。」


 こういうことを解決するのは結構自身があるため何一つ問題ない。

 別に何かしようと思っていたわけではないけど月がこんなにも不安な顔をしてしまうのなら俺が動く理由としては十分だ。

 そんなことを考えながら俺は月の頭を撫でる。

 サラサラしていて気持ちいい。

 互いに風呂上りということもあり彼女の髪からシャンプーの良い匂いがする。


「蒼君大好き。」


 がばっと俺の膝から起き上がって抱き着いてきた。

 むにゅと柔らかいものが当たる感触がするけどそれよりも今は安心しきった声で俺に好きという恋人の姿が愛おしくてたまらない。


「俺も好きだよ。」


 抱きしめ返す。

 華奢な身体で力を入れすぎると折れてしまいそうでやはり不安になる。

 でも、彼女を抱きしめていると自然と安心できる。

 伝わってくる心音が心地いい。


「じゃあ、私はそろそろ戻るね。」


「ああ。また明日。お休み月。」


「お休み蒼君!」


 そう言い月は自分の家に帰っていった。


「さてと、明日はやることが多そうだな。」


 明日やることを思い浮かべて苦笑するとベッドに入って目をつむった。



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