第37話 ド屑
「ただいま~」
蒼は今日も誰もいない家に帰ってきた合図を送る。
だが、家の中には人の気配があったのだ。
(なんかデジャブだな。)
「お帰り。今日はなんか遅かったね?」
そこにはやはりというべきか月がいた。
「お前また不法侵入したのかよ。」
「だってインターホン押しても出てくれなかったから。」
「出てくれなかったから。じゃねぇよ。普通はいなかったら帰るの!いないから不法侵入しよう!とはならないの!」
蒼は怒涛の突っ込みをしていた。
(なんでこいつはこうもマイペースなんだ。)
「まあまあ。そんなことよりもなんで今日はこんなに遅かったの?」
「そんなことってお前なぁ。まあいいや。」
「で、なんでこんなに遅かったの~私寂しかった!」
少しむすっとしながら月は蒼に詰め寄っていた。
(ち、近い。)
月の綺麗な顔が眼前に迫っておりドキドキしていた。
「えっと、その~、」
その問いに蒼は少し後ろめたい気持ちを抱えながらもこういった。
「彼女ができたんだ。」
「、、、」
そこからは少しの間沈黙が続いた。
蒼も気まずすぎて月の顔を見ることができなかった。
(どうしよう。物凄く気まずい。でも、月が学校でハブられてるのは俺の責任だし俺が何とかしないと。)
ある種の使命感のようなものにかられながら蒼はそう自分に言い聞かせた。
「、、れと。」
蒼は月が発した言葉を聞き取れなかった。
「なんていった?」
「誰と?」
次は完全に聞き取ることができた。
その言葉には抑揚が一切なく、声音からは何の感情も読み取ることができなかった。
「えっと、」
「誰と?」
蒼が言いよどみごまかそうとすると再び全く抑揚のない声で問いをなげてきた。
普段の明るい月は全く感じられず、この前のキャンプの時の数倍恐ろしく感じた。
(あ、俺死んだかも。)
そんな月を目の当たりにした蒼は心の中で神に懺悔した。
「、、、」
「誰と?」
どうやら沈黙は許してもらえないらしい。
三度目の抑揚のない問いが飛んできた。
蒼は意を決して月の顔を見てみる。
(っっっ!)
月の顔には何の表情も浮かんでいなかった。
その綺麗な碧眼に光はなくハイライトが無くなっていた。
(終わった。これ、俺の責任の取り方って死ぬしかないのでは?)
蒼はそう考えた。
罪悪感もあった。
自分なんかを好きでいてくれる女の子にこんな顔をさせている自分がひどく醜く思える。
いや、きっと本当に醜いのだろう。
(確かに神楽と付き合ったのは俺なりの責任の取り方だった。でも、それで月にこんな顔をさせるなんて。)
蒼はわからなかった。
何が正しいのか。
自分が神楽と付き合う選択は正しかったのかと。
考えても答えなんか出てこない。
こんな感覚を昔も感じたことがあった。
こんな醜い自分が蒼は心底嫌いだ。
だから、蒼はある決心を下すことにした。
(月に嫌われよう。そもそも俺なんかと月は釣り合わない。こんな俺と一緒にいても彼女が傷つくだけだ。月がクラスでハブられていないのを確認したら彼女と関わるのはやめよう。)
そう決意して蒼はその言葉を発した。
「神楽と付き合うことになったんだ。」
蒼は笑った。
幸せを謳歌しているかのように自分を偽って笑った。
(気持ち悪い。本当に俺なんか死んでしまえばいいのに。)
一言を発するたびに蒼は自分のことがどんどん嫌いになった。
「どうして?」
月を見てみればその瞳からは涙が零れ落ちていた。
「今日告白されて付き合うことになったんだ。」
「そうじゃなくて、」
「だから、もう、うちに来ないでくれないか?浮気と思われたら溜まったものじゃない。」
泣きながら訴える月の言葉を遮って蒼はそういった。
「わかった。」
月はそういうと走って家から出て行ってしまった。
(苦しいな。)
そんな月の背中を見送り蒼は床に尻もちをついた。
「本当、俺なんか死んじまえばいいのにな。」
蒼の自嘲に満ちた言葉だけが蒼の部屋にこだました。
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