第36話 さてはこの状況、かなり不味いのでは?

(はて?俺が昔に神楽を助けた?)


 腕を組んで自身の記憶を掘り起こしたが蒼には一切そんな記憶がなかった。

 そもそも、神楽はかなりの美少女だと思う。

 少し短い髪はとてもサラサラしており普段からしっかりと手入れされているのが見て取れる。

 瞳は日本人にしては珍しい深紅色でありとても綺麗だ。

 スタイルに関しても全体的に細身であり月には及ばずともかなりスタイルもいい。

 正直こんなに美しい人を見れば忘れるはずない。


(いや、本当に覚えてないな。もしかして神楽の人違いか?)


 と、蒼は考えているがよくよく考えてみると蒼は月と昔にあっていたことを忘れているので今回もただ単に忘れているだけかもしれない。


「神楽を助けたのって本当に俺か?」


「もちろん。絶対に私を助けたのは星乃蒼だよ。」


 自信満々に神楽は言い切った。


「でも、そんな記憶はないんだが?」


「そうだね。まあ意外と自分が助けたって思ってない行動が誰かを助けていることもあるんだよ?」


 果たしてそんなことはあるのだろうか?

 疑問に思う蒼だったが神楽が嘘を言っているようにも見えない。


「そんなことあるのか?」


「あるよ。実際そうだったし。」


 神楽は機嫌がよさそうに微笑んでいた。


「で、結局なんで神楽が俺に好意を抱いているのか教えてくれるのか?」


「いいや?そこは蒼に思い出してほしいし、私から言うのもなんだか悔しいから教えてあげない。」


 いたずらっぽく神楽は笑った。

 そんな神楽を見た蒼は少し心臓の鼓動が早まるのが分かった。


「こちらご注文の品になります。以上でお間違いないですか?」


 ちょうどいいタイミングで注文した料理をもって店員がやってきた。


「はい。間違いないです。ありがとうございます。」


 蒼は料理を受け取るとぺこりと店員に頭を下げた。


「ありがとうございます。」


 蒼に続いて神楽を店員にお辞儀をした。


「じゃあ、食べようか。」


「そうね。せっかく出来立てなのだから速めに食べないと。」


 二人はそういって少し早めの夕食をとった。


 …………………………………………………………………………………………………


「送ってくれてありがとう。また明日。」


「ああ。また明日。」


 蒼はあの後神楽を家に送っていた。

 理由は簡単だ。

 時刻は19時を過ぎており少し薄暗くなっていたため女子を一人で返すのは気が引けるということで蒼が送らせてくれと神楽に言ったのだ。


 帰り道に蒼は少し考え事をしていた。

 自分が神楽と付き合っていることの再認識をする。


(なんでこうなったんだろうな~)


 呑気に蒼はそう考えていた。

 少し前までは楽しい二次元ライフこと推し活を楽しんでいたのに今ではクラスの女王様のような人物と付き合っているなど少し前の蒼が聞いたら妄想は寝て言えよ。と冷めた言葉を送っていただろう。

 だが、これは現実だ。

 神楽と付き合っていることも、なぜか月に好かれていることも。


「あれ?そういえば今神楽と付き合ってるから下手に月と一緒にいると浮気認定されるのでは?」


 今考えてみれば彼女がいる男の家に他の女がいるというのは客観的に見てただの浮気でしかない。

 そもそも、月の好意から逃げているのに神楽と付き合うことはかなり不誠実だろう。


(まずい。これからは月との距離感も考えないと。)


 蒼は家に帰る途中にそんな決心をした。

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