第34話 こうして俺に彼女ができたってわけ(涙目)

「本当にどうしよう。」


 蒼は考えていた。

 衝撃の事実が明かされてから数時間が経ち今は授業中。

 授業などそっちのけでずっと考えていた。


(つまり、俺が神楽の告白を嘘の告白だと決めつけてあんな断り方をしたから月がハブられる羽目になったと。これ、完全に俺の責任じゃないか。)


 完全に授業は耳に入っておらず、蒼はどうすれば現状を打開できるのか黙々と考えていた。


「ちょっと!星乃君?聞いてるのかしら?」


 そんな様子の蒼を教員は少し呆れ気味に叱った。

 教室からはクスクスと小さな笑い声が聞こえた。


「すいません。」


 蒼は平謝りをしてすぐにまた窓の外を眺め始めた。


「はぁ。もういいです。授業を続けます。」


 そんな様子の蒼に心底呆れたのか教員は蒼を叱るのをやめて授業を再開した。


 …………………………………………………………………………………………………


「はい。今日はここまでにします。しっかりと復習をしておいてください。」


 教員はそういうと教室から出て行った。


(よしやるか。)


 蒼は授業中に考えた方法でこの状況を打開しようとしていた。


「神楽、少しいいか?」


 蒼は椅子を立ち上がりすぐに神楽澪音のもとにいった。

 今は昼休みが始まってすぐなこともあり、まだ彼女の近くには人は集まっていなかった。


「いいけど、」


 少し驚いたような表情を浮かべながら神楽澪音は了承した。


「じゃあ、ついてきてくれ。人がいないところで話がしたいんだ。」


「わかったわ。」


 蒼が先を歩いて教室を出て行った。

 そのあとに続いて神楽も教室を出て行った。

 そんな二人を教室に残った人たちは見ていた。

 それは月も例外ではなかった。



 …………………………………………………………………………………………………


「それで話って何?」


 不機嫌そうに神楽は蒼を睨みつけていた。

 ここは屋上で他の誰かに二人の会話を聞かれる心配はない。


「ああ。単刀直入に言わせてもらう。月が学校でハブられているのはお前が何かしたからか?」


「だったら何?」


 神楽はさらに不機嫌になりながらそう答えた。

 どうやら、神楽が原因で間違いないらしい。


「ああ。できればそれをやめてほしいんだ。」


「なんで?あなたが陽炎月のことが好きだから?」


「そういうわけでは、」


「そんなのはどうでもいいの!」


 蒼が弁明をしようとしたが神楽の声にかき消されてしまった。


「客観的に見ればあなたが陽炎月のことが好きだからそういう事をしているようにしか見えないの!そうよね。彼女可愛いものね。あんな子に言い寄られたらそりゃ好きになっちゃうわよね!」


 瞳に少し涙を浮かべながら神楽はそう叫んだ。

 どうやら海斗の推測は正しかったようだ。


「そんなことは無い。ただ、俺は何で君が彼女にそんなことをするのかを知りたい。できればやめてもらいたいが。」


「理由?あなたもしかして心当たりがないの?」


 信じられないものを見るかのように神楽は蒼を見ていた。


「もしかして告白の件か?」


 蒼は恐る恐るそう聞いてみることにした。


「そうよ。私は一年生のころからあなたのことが好きだったのに、あの子はいきなりあなたのことを奪っていったの。だから、怖くなってあなたに告白したのにあんな振られ方をしたんだもの。あの子に少し位八つ当たりをしてもいいでしょ!」


 言っていることは理不尽だが、この一件に関しては蒼が完全に悪いため何も言うことができなかった。


「一つ聞いてもいいか?」


「何よ。」


「本当に俺のことが好きにしては告白の仕方が少しおかしくなかったか?」


 蒼は単純にあの時抱いた疑問を投げつけた。

 実際あんな上からの告白のされ方をしたら嘘の告白を疑うだろう。


「えっと、その恥かしくて。」


 先ほどの勢いはどこかに行ってしまったらしくもじもじしながら神楽は言った。


(うそ~。この子素はこういう感じなの~)


 蒼は普段とのあまりのギャップに困惑していた。


「ええ、つまり?」


「だから、その、いざ告白しようと思うと恥かしくてあんな言い方になっちゃって、」


 神楽はそういって気まずそうに眼をそらした。


(つまり、あの時の俺は完全に勘違いして俺はあんなにひどい振り方をしてしまったと。)


 話を聞くにつれて蒼は自分が神楽にとても酷いことをしてしまったと思い少し蒼は自己嫌悪に浸った。


「なんか、本当にごめんなさい。」


 蒼は神楽に深々と頭を下げた。

 今回の件に関しては蒼が全面的に悪かったため蒼は謝ることしかできなかった。


「それはもう別にいいけど、結局あなたは陽炎月と付き合ってるの?」


 神楽は先ほどまでの恥じらう表情から真剣な表情に早変わりしていた。


「いや、本当に俺と月は付き合ってはいないぞ?」


「でも、呼び方が変わってるじゃない。」


「それはいろいろあったんだよ。でも、本当に付き合ってはいない。」


「そうなの?」


「ああ。付き合ってるなら、というか俺は今のところ誰とも付き合う気はないんだ。」


 蒼も真剣に神楽の瞳を見据えながら言った。

 蒼は月にも言っていたが本当に誰とも付き合う気はなかったのだ。

 それは過去の経験からなのかそれは蒼しかわからない。


「そうなんだ。」


 神楽はにこっと微笑んでそういった。

 どうやら蒼が月と付き合っていないことが分かって安心したようだった。


「じゃあ、月をハブるのはやめてもらってもいいか?」


「いいけど条件がある。」


「なんだ?」


 人差し指を突き立てながら神楽はその”条件”を口に出した。


「あなたが私と付き合う事。」


(ええ~)


 内心で困ったように思うが、この件は蒼が引き起こした蒼の責任であるため責任を取るために蒼はこの提案を断ることができないでいた。


「……わかった。」


 蒼はしぶしぶその提案を引き受けるのだった。

 この決断が後にさらなる面倒ごとを引き起こすだろうことをこの時の蒼は知る由もなかった。


「じゃあ、これからよろしくね!蒼!」


 見たことないようなきれいな笑みをして神楽は蒼に手を差しだした。

 きっと握手しようとしているのだろう。


「ああ。よろしくな。」


 蒼も控えめにではあるがその握手に応じるのだった。

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