第31話 発言には気を付けようと思いました。

 あの後、蒼は食器を洗い今はゆっくりと過ごしているが月との会話は全くなかった。

 それも恐ろしいほどに。


(本当に俺なんかしたのかな?)


 蒼はずっとそんなことを考えていたが答えが出ることは全くなかった。


「なあ月。なんでそんなに不機嫌なんだ?」


 蒼は耐えきられなくなりついに素直に聞いてみることにした。


「それが分かってないのが一番むかつくんだけど?」


 月はいつもの笑顔が嘘であるかのような表情で顔を赤くしている。

 どうやら相当ご立腹のようだ。


「ごめんなさい。」


 そんな月を相手に本当に自分が何をしたかわからない蒼は謝ることしかできないでいた。


「その謝罪は何に対してかな?」


 ニコリと微笑みながら月は言ったが目が全く笑っていなかった。


「いや、月が何に対して怒っているのかわからないことに対してかな。」


「うんうん。それで?なんで私がこんなに怒っているかそろそろ検討はついてきたかな?」


「全然わかんないっす。」


 蒼は背中から冷たい何かが流れ落ちるのを感じていた。

 きっと冷や汗だろう。


「星乃君って私と付き合う気はあるの?」


「今のところ全くないです。」


「全くは余計だけどする気はないんだよね?」


「はい。」


 かなり強めの圧を感じながら蒼はそう答える。

 実際蒼が今までの人生でもっとも強い圧を放っているのは今の月だろう。


「で、私と結婚する気もないよね?」


「はい。」


(なんで結婚?)


「じゃあさ、星乃君さっきの夕飯の時の発言を思いだしてみて?」


「夕飯の時の発言?」


 蒼は少し腕を組んで夕飯の時に自身がどんな発言をしていたのかを思い出そうとする。


「、、、」


「、、、」


 その間二人の間には沈黙が訪れる。

 正直かなり空気が重い。

 重すぎる。


(俺っていったいどんな発言してたっけ?)


 蒼は必死に思い出そうとする。


「”そうだよ。これなら毎日でも作ってもらいたいくらいだ。”」


「あ」


「思い出した?」


 蒼が少し思い出したように声を漏らすと月がため息をつきながらそういった。


「えっともしかして、毎日作ってもらいたいって言ったことでしょうか?」


 蒼は一つ思い出した発言を月に尋ねる。

 正直これが違ったらお手上げだろう。


「はい正解。」


 呆れた顔をしながら月はそういっていた。


「すいませんでした。」


(今思い返してみたら確かにプロポーズみたいだよな。)


 蒼は思い出した言葉を今思い返してみたら確かに少しプロポーズのように聞こえなくもないなと思った。

 実際みそ汁を毎日作ってくれというようなプロポーズの仕方を聞いたことがある。


「いいよ。今回は許してあげる。次そういうことを言う時は私と付き合おうと思ったときにしてよね?」


 月はそういってにっこり微笑んだ。

 その笑顔には先ほどの圧倒的な圧はすっかり息をひそめていた。

 どうやら機嫌が直ったようだ。


(よかった~)


 そんな様子の月をみて蒼は胸を撫でおろすとともに次からは発言に気を付けようと心に誓ったのだった。

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