召喚した勇者が使えないので、しょうがないから使用人にしました。

o-k-k-o

第1話 異世界から転移した男は使えない①

「ソーシア王国」は、私の愛すべき王国。


 今、ソーシア王国は隣国からの脅威と魔王軍の脅威に晒されている。その中で、私たちは伝統に基づき、異世界から、勇者を転移させることなったのである。




私は緊張しつつ、扉をノックする。


「国王様!」


「リセリアじゃないか。家族でいるときはパパでいいぞ」


 現国王、フレイド・ソーシアは炎帝と呼ばれ、この国を治めている。いつも私に優しい穏やかなパパだ。


「パパ、明日の召喚の儀式で勇者様が来てくだされば、この国は救われるのよね?」


「ああ、そうだとも、リセリア。この国に昔から伝わる召喚術で、勇者を召喚すればいいのだ」


月夜に照らされた赤髪が、炎帝という由来になったとも聞いたことがある。


「あらあら、リセリア。ここにいたの?」


「お母様!」


王室に現れた王妃こと、セリジア・ソーシアは気品のある私のお母様であり、王国内では聖母様と呼ばれるまでの名声を得ている。


「リセリア。今日はもう寝なさい。明日の召喚の儀はあなたも立ち会うのでしょう?」


夜更けも相まってか。外はだいぶ暗いようだ。


「はい、お母様。今日は先におやすみいたします」


「えぇ、明日もよろしくね」


お母様の屈託なき笑顔を見ながら、私は王室を出る。


「リセリア様。本日のご用はございますか?」


ドアのすぐ近くに立っていたのか、侍従のミシアが声をかけてくる。


「今日はもういいわ。いつもありがとう。あとは自分でやるわ」


「リセリア様...失礼を承知で申し上げます。少しは私どもを頼ってください。私どもは、この国の未来を担うリセリア様の不便なきよう使えているのですから」


「えぇ。ミシア、あなたには感謝しているわ。だけど、自分の周りのことはなるべく自分でやりたいというのが私の性分なの。ごめんなさいね」


「差し出がましい進言、失礼致しました。それでは、本日はこれにて」


「明日もまたよろしくね。ミシア」


そうに言い、ミシアと私は別れる。


侍従のミシアは真面目であるため、何分心配事に耐えないのだろう。でも、私も一国のお姫様という身分に胡座をかきたいということはしなくない。


自室に着くとセミダブルのベットと勉強机が置いてある。私はお気に入りのネグジェリに着替えて、布団に潜る。



「あぁ、勇者様、どういう方なのでしょう。楽しみだわ」


この頃の私はこれからの苦労を知るよしもなかった。



次の日の朝、王宮の謁見の間には大きな魔法陣がかれていた。宮廷魔導士が描いた魔法陣は直径20mにもなる大型の陣。私も見ることが初めてのような陣である。


「国王様、準備が整いました」


「うむ、それでは召喚の儀をとり行う」


王宮内にいる摂政や財務大臣、外務大臣、伯爵、多くの人に見守れながら、フレイド国王は呪文を唱える。


「来れ、ソーシア王国の未来に輝かしい未来をもたらす者よー」


魔法陣は青い色に光る。光は大きな光線となって、謁見の間を包んだ。


「イッテテテ」


すると光に包まれた魔法陣から人の声がする。声がするのは無事に召喚が成功したということ。周りが歓喜にわいた。


「ここはどこだ?」


魔法陣の上には、黒い装束に身を包んだ男がいた。


「そなた、名を何という?」


一条聡いちじょうさとしですけど?」


「一条聡殿か。我はこの国を納める国王フレイドだ。ようこそ来られた。一条殿はこの国の勇者として、召喚されたのだ!!」


お父様こと国王陛下は大仰に手を広げて歓迎の意を示している。


それに対して、一条という男は、訝しげな顔をして答える。


「あのー。エンタメ系の会社は志望してないです。次の会社の説明会があるので、もう行ってもいいですか?」


一条という男はこの場から去ろうとしている。多分状況が掴めていないのだろう。無理もない。元にいた世界がどうであれ、この国とは全く違った世界なのだろう。


「一条殿。もう一度言おう。一条殿は異世界から召喚された勇者なのだ。そなたはもう、元の世界に帰れないのだ」


「はいはい。わかりました。就活すると悪質な会社があるとは聞いていたけど。エンタメ業界ブラックそうだな」


一条は黒い服から、小さい箱を取り出す。


「えっ。圏外??ここ東京なのに?」


一条は恐る恐る、周りを見渡す。彼はやっと状況を理解したのか。尻餅をついた。


「東京じゃない。ここはどこだよ」


「すまない。一条殿...ここはそなたいた世界とは異なるのだ」


「へっ?それじゃあ、異世界に来たということか?」


「そういうことになる。ふむ。一条殿には魔法適性を見てもらいたい」


「この世界には魔法があるのか?」


「ああそうだ。一条殿。魔法はこの世界では1番の力の指標になる。その水晶に手をかざしてくれ」


宮廷魔術師が持ってきた水晶に一条は手をそえる。


「ふっ」


「一条殿。もう一度、手をかざしてはもらえないだろうか?」


一条は手をかざすように水晶に近づける。


「ふっふん」


いつもなら、光るはずの水晶がいっこうに光らない。私でも、光るはずの水晶が光らない。


「すまない。一条殿。別の水晶でも、やってみてくれないか」


国王陛下は、宮廷魔導士に別の水晶を用意させて、一条に試させる。




30分ほど、一条があらゆる角度から手をかざしても光らなかったのである。




薄々と謁見の間に居合わせた者が感じはじめていたのは、召喚された勇者が魔法スキルがないということであった。










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召喚した勇者が使えないので、しょうがないから使用人にしました。 o-k-k-o @yamadasatoru

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