第16話 気になる彼には、至る所にライバルが


「魔術大会ですか?」

「そうよ。エルザも出るんでしょ?」


とある日の夕食時、最近恒例となったスカーレット様のお部屋での夕食会に今日もやってきたエルザは、カニのクリームパスタをもぐもぐしてからコクリと頷いた。


「は、はい。よくご存知で………」

「あなた一人で戦闘なんてできるわけ?」

「で、できますよ!攻めるのは得意じゃないですけど、守りながらカウンターしていくのは結構できます!」


しかし毎度のことながら、この子よく食べるな。

お代わりを聞くと必ず首を縦に振るし、全然好き嫌いがない。

料理を作る甲斐があるというか、美味しそうに食べてくれるのでほっこりする。


「ちなみにアルフも出ることになったから」

「えぇ!?だ、だってアルフさんはスカーレット様の従者じゃないですか!!」

「貴族階級は従者の代理も認められる大会規定があんのよ」

「ず、ずるいっ!!」

「ずるくないわよ。優秀な部下を持つことも貴族のたしなみってわけ」


逆に言えばエルザって大好物とかあるのか?

そういやぁ分からんな。

誕生日とか何かしらの記念日とかにはぜひ好物を出してやりたい。

それが普段美味しく食べてくれることへのお礼ってもんだろう。


「ふん!まぁ精々頑張ると良いわ」

「ぐ………あ、アルフさんになんて勝てるわけ無いじゃないですかぁ………」

「ふん!♡ ええそうでしょうとも。今回の大会の優勝者は間違いなくうちのアルフでしょうからね!精々吠え面をかくが良いわ!!」

「………ハインズ様ではなく?」

「………。」

「………スカーレット様?」

「言い間違えただけよ」

「………ふうん?」

「なに………?」

「いえ?べつに?」


しかしこの世界も都合いいよな。

乙女ゲーが基盤になってるからか何か知らんが、とにかく食材や調味料が豊富だ。


「そうだ!じゃぁ私、アルフさんに戦い方教えていただいていいですか?」

「はぁ? 何でそんな話になるわけ? 一応あんた敵なんだけど」


パスタの種類も多いし、米もパンも美味い。

醤油みたいなものとか味噌みたいなものもあるし、海鮮も皆平気で生食したりする。

一体どういう食文化の発展してきたのか興味が尽きないけど、誰か研究している学者さんとかいないんだろうか………。

スカーレットがハインズと結ばれたら、俺も引退して研究員とかやってみようかなぁ………。


「私が半月足らず修行した所でアルフさんの脅威になるとでも思います?」

「そんなわけないでしょ。アルフの事バカにすんのも大概にしなさいよ。あんたね、アルフがどれだけ強いか分かってんの?こいつ十歳でオズワルド流派武術の免許皆伝とってるのよ?やろうと思えばウチの道場の師範もできるのよ?魔術にしたって隣国のヴィオレリアから招いた食客全員手玉に取ったし、ウィリアム王国騎士団の武術指南役の話だって来てるんだから。それに馬術は王国の馬術大会で毎年………」

「あ゛〜はい、わかりました分かりました。スカーレット様のアルフさんが凄いことはよぉ〜く分かりましたから」

「何よその態度ッ!!」

「惚気けるのも大概にして下さい」

「は、はぁッ!?誰がいつ惚気けたっていうのよッ!!」

「今っ!!スカーレット様がッ!!大好きなアルフさんのことで惚気けてたでしょッ!!」


折角学園くんだりまで来てるわけだしな。

学園側の人間とつながりを作っておくのも良いかもしれないな。

ていうかラスボスとか倒すとどうなるんだ?

世界が崩壊したりリセットかかったりとかしねぇだろうな?


「ば、ば…馬鹿なこと言わないでよッ!!誰が惚気なんか………!」

「大好きって所は否定しないんですか?」

「は、はぁッ!?」


ところでこいつらは何でまた喧嘩してるんだ?


「アルフさんどう思いますッ!?」

「はい?」

「アルフッ!!答える必要なんて無いわッ!!この揚げ足取りの事なんか無視しなさいッ!!」


なんだ………?

デザートを出すのが遅れたからイライラしてんのか?


「申し訳ありません。すぐにデザートをお持ちしますね」

「どういう会話の流れよッ!!話聞いてないのアンタッ!

「聞かれてちゃマズイんじゃないですか?スカーレット様」

「ぐっ………!え、エルザぁあ………あんた調子乗るのも大概にしなさいよ………!」


しかしこの二人マジで仲良くなったな。

あのゲームの中じゃバチバチだったのに、ハインズの奪い合いがないとこうまで意気投合できるのか。

じゃあ、あのゲームで悪かったのってやっぱりハインズなんじゃねぇかな?


「お待たせしました。バニラアイスです。」

「わぁっ♡可愛いっ!なんです?このキラキラしたの」

「ふん!平民だと見慣れないでしょうね。この散りばめられてんのは砂糖菓子をコーティングしたもので………」

「このアイスってアルフさんの手作りなんです?♡」

「聞いてんのエルザ!!」


基本お嬢様がぶち切れる会話ばっかりだけど、エルザが来る前はそわそわして待ち遠しそうだもんなぁ。

お嬢様友達全然いないからな………取り巻きはいるんだけど。

正直な話、エルザの親密度が一番高いのって現状はお嬢様なんじゃなかろうか。

とにかくエルザがお嬢様のラインを見極めるのが上手すぎる。

今まで皆が怖がって踏み込めなかった懐に飛び込んでいけるのは、流石のメインヒロインってとこなんだろうか。

………。

百合ルートとか、あるんだろうか。

それならもう俺は引退しようかな………。


「美味しいっ♡」

「ふん!アルフが作ってんだから当たり前でしょ」

「良いなぁスカーレット様………朝も昼もアルフさんの手料理ばっかりで………アルフさん凄すぎません?強いし………料理もなんでも作れちゃうし………」

「ふんっ!♡ そうよ。なんせこいつは私が三歳の時からの専属だもの。名門オズワルド家の長女の執事は、そこいらの執事なんかとは鍛え方が違うのよ。」

「凄くかっこいいし………♡」

「エルザ?」


良いよなぁ百合………。

しかもスカーレットとエルザだろ?

絶世の美少女二人のカップリングとか神の思し召しだろまじで。


「アルフさんのお嫁さんになれる人………幸せだろうなぁ………はぁ………♡」

「………………エルザ?」

「はい?」

「変な気起こすんじゃないわよ?」

「何がです? へんな気? どんな気です?」

「馬鹿にしてんの? 分かるでしょ?」

「さぁ………? 少なくとも私はアルフさんさえ良ければ全てオッケーですけど………」

「分かってんじゃないのよ!!」


なんつーんだろうな。

百合ってさ、キレイなんだよな。

いやまぁ見た目が重要なのは分かるよ?

にしたってなぁ………良いよなぁ………女同士って。


「ていうか何でスカーレット様が怒るんです? アルフさんが誰と結婚しようがアルフさんの自由では?」

「じ、じ…自由なわけ無いでしょッ!!」

「えぇ? 別にアルフさん奴隷でもなんでも無いですし。執事ですよ執事」

「駄目よッ!! 駄目ったら駄目ッ!!」

「駄目な訳ありません。アルフさんは自由に恋愛する権利があります。アルフさんのこと気になってる女の子なんて今や学園にわんさかいるんですよ?平民階級の女の子達もみ~んなアルフさんとお付き合いしたいって言ってますから」

「ぐっ………だ、だめ………だめよ………そんなの駄目!」

「あぁ良いなぁ………♡アルフさんのお嫁さん………♡な、なりたいなぁ………なんて♡」

「エルザッ!!」


………。

待てよ………?

その場合どっちが攻めでどっちが受けになるんだ?

普通に考えれば大貴族であるお嬢様が受けに回ることなど………いや、しかし現状のパワーバランスを見ると明らかにエルザの方が上手だ。

お嬢様世間知らずの箱入り娘だからな………。

世間の荒波に揉まれてきたエルザに手玉に取られまくってるし、そうなるとやはりお嬢様が受け。


「スカーレット様は良いですよねぇ。ハインズ様っていう素敵な婚約者がいらっしゃって」

「ぐっ………そ、そうよ………」

「あら、どうされました?苦虫を噛み潰されたようなお顔を………」

「してないわよ!!あんた適当なこと言ってると怒るわよッ!!」

「スカーレット様がさっさとハインズ様と結ばれてくれればアルフさんも肩の荷が降りるでしょうねぇ」

「ふぐっ………!!」

「そうしたら………次はアルフさんの番………♡」

「駄目って言ってんでしょッ!!」

「あら、どうしてです? 臣下の幸せを願うことも貴族様の立派な勤めでは?」

「ぐぬっ………い、妹!!そうよ!!私の妹のマーガレットがこいつの事好きなの!!」

「………ちょっとその話詳しく聞かせていただけます?」

「え?………あ、あぁ………い、良いけど」

「早く」

「ちょ、ちょっと………こっち来ないでよ怖い………」

「いいから早く話してください。妹様が何ですって?」

「え、エルザ………だから………こっちこないで椅子に………」

「早く教えてください」

「………はぃ」


………。


何してんだコイツら。


気づいたらお嬢様が涙目になってエルザに手首掴まれてる。


………。


まさか本当に百合ルートが?


スカーレットが涙目のままボソボソ喋ってて何言ってるかわからんし、エルザが時々俺の方をキッ!とか睨みつけてくるけどなんなの?


「アルフさん………」


そうかと思ったらエルザが鋭い表情を浮かべてツカツカとこちらへ。


なんか怒ってる?


俺、スケベな顔でもしてたか? と思ったら、


「明日から私に戦闘訓練をつけて下さい」

「………はい?」

「よろしいですよね?スカーレット様」


ワケがわからなくてスカーレットを見ると、スカーレットは涙目のまま不服そうに頷いている。


………なんなの?


「ま、負けません………絶対に………」

「よく分かりませんが………気合は十分なようですね」

「はい!!絶対に負けませんッ!!」

「分かりました………ではそれ相応の訓練を考えておきますので」

「はいっ!!」


………?

まぁエルザも大会に出るからには勝ちたいよな。

朝霧のロッドもそうだけど、結構な額の優勝賞金もでるし………。


「ご馳走様でした!!お皿洗いますので!!」

「はぁ………ではいつも通りよろしくお願いいたします」

「承知しました!!アルフさん!私家事得意ですので!」

「………そうですね。存じております」

「身体も丈夫ですし、えっと………その………じ、丈夫な赤ちゃんも産めます!!」

「エルザぁッ!!」


なんなの本当に。

お嬢様もバンッ!とかテーブル叩いちゃ駄目だよ。

はしたないからね。


まぁ何にせよ………。

また明日から仕事増えるのかぁ………。


頑張ろ………。






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