本物の勇者は別人なのに、パーティーから追放されてしまった

仲仁へび(旧:離久)

第1話



「お前はこのパーティーにふさわしくない!」


 よって追放だ!


 リーダーにそう言われた俺は、一人になってしまった。


 魔王討伐のために、皆で頑張ろうと一年前に誓ったはずなのに。


 でも、勇者が言うなら仕方がない。


 国王にも認められた存在であるあいつに、逆らえる奴はいないもんな。


 世界最強のステータスをもっているあいつは、魔王を倒す貴重な人材。


 だから、そんなあいつに意見できる奴は多くないんだ。


 助けを求めて他のメンバーを見つめてみたが、視線をそらされた。


 やっぱりな。






 一人ぼっちになった俺は、また一からがんばるべく、冒険者活動を始める。


 故郷に帰るという選択肢はなかった。


 勇者にあしでまといと言われた事がショックで、いま帰ったら知り合いや両親に辛くあたってしまいそうだったからだ。


 鬱々とした気持ちで続ける冒険者活動。


 一人では魔王なんてとうてい討伐できないけれど、何かできる事がないか納得できる探したかった。


 でも、一人で出来る事なんてたかが知れていて、俺はスライムなどの雑魚モンスターを討伐するくらいしかできなかった。


 しかし、そんな俺にパーティーに入らないかといってきた者達がいた。


 彼等は、太陽みたいな者達だ。


 気さくに接してくれて、勇者に捨てられた俺にもつきあってくれる、良い奴等だった。


 そうしていたら、なぜか急激にステータスの数値が上がり始めた。


 一体どうしてか分からない。


 もしかしたら、特殊スキルの影響なのかもしれない。






 人間の中には、たまに特殊スキルを持つものがいる。


 それらは他のスキルとは違い、かなり珍しい効果を発揮するのだが、レベルが一定以上あがらないと、どういうスキルか分からないのが難点だった。


 レベル49の俺には、スキルがある事は分かっていても、スキル説明文が「???」になっていて、読めないのだ。


 だが細かい事はどうだっていい。


 俺を仲間にしてくれた人達の力になれるのなら。





 あっ、ちょうどいまレベルがあがったみたいだ。

 これでスキルの内容が分かるぞ。


 レベル50


 特殊スキル:勇者の心


 勇者が仲間だと思っている相手のステータス数値をブースト。

 勇者が心をあずけるほど、ブースト率アップ。

 仲間の一員であると認識するだけでも一定の効果。

 それは自分にも適用される。






 つい先日。


 こうるさいメンバーをパーティーから追放してやった。


 準備をしろ、装備をととのえろ、ギルドの報酬が良い依頼は慎重になれ、契約文はちゃんと読め。


 などなど。


 いつもうるさくて、めざわりだった。


 俺は勇者なんだから、少しくらい大雑把になってもいいんだよ。


 慎重になりすぎると、周りに人間が不安がるしな。


 それに、あいつは俺の力を信用していないから嫌いだ。


 だから、いつもあーだこーだうるさくできるんだろう。


 そう思ったら、不快でたまらなかった。


 だから追放してやったんだ。


 その後、あいつの代わりに入って来たやつは、結構優秀だった。


 俺の言葉を疑わないし、俺の指示はきちんと聞いてくれる。


 柔軟な頭、というやつを持っているんだろう。


 これまでと違って、ストレスがたまらなくなった。


 そういえば俺はもうすぐレベル50になるな。


 俺に与えられた特殊スキルの説明が分かるようになるはずだ。


 一体なんだろうな。どんなスキルを持っているんだ?


 でも、なんだっていい。


 俺が勇者であり、世界最強である事には変わらないんだから。


 どんな敵がきたって、俺の敵じゃないんだからよ。







 なんて思っていたのに。


「ひいいいい! なんでだよ。なんで急激に弱くなったんだ!? 死にたくない!!」


 俺のステータスは急激に低い数値になっていた。


 それで、いつもなら軽々と倒せていたドラゴンモンスターに歯が立たず、全滅しそうになっていた。


 ダンジョンの中を必死でにげまわる。


「ライフが少ない! かっ、回復魔法をかけろ! はやく!」


 俺はパーティーメンバーの一人、回復魔法の使い手にそう声をかけるが、直後ドラゴンブレスで消し炭になってしまった。


「うっ、うわあああああ! 助けてくれ!」


 絶望で心の中が真っ暗になる。


 一体なぜ?


 なんでこんな事に!


 行き止まりにたどり着いた俺は、腰をぬかして振り返る。


 追ってくるドラゴンをただ眺めるしかできなかった。


 ふと、自分のステータスを見てみると。


「うっ、嘘だ!」


 そこには信じられない事がかかれていた。


 特殊スキル:ステータス略奪

 周囲にいる一番ステータスの高い人間をターゲット。

 そのステータスを略奪する。

 ターゲットが離れた後でも、一週間は効果が持続。


 なら強いと思っていた俺は本当はーー?


 本当の勇者は俺ではなくーー。


 俺はその答えを拒絶した。


 認めたくなかった。


「俺は勇者だ! 俺は勇者なのにーー!」


 叫ぶ声はブレスの音でかき消された。


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本物の勇者は別人なのに、パーティーから追放されてしまった 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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