何でも奪うお姉様に奪われなかった唯一のものが私を助けてくれました

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 ローズクイーン。

 薔薇の女王。

 それは、国で一番美しい女性に贈られる称号だ。


 私のお姉様は、そのローズクイーンに選ばれた。

 十歳になった頃からすでに大人っぽく、完成された美をそなえていたお姉様は、誰もが認める美人。


 薔薇のような赤い髪を持つお姉様は誰もがみとれる存在で、みなその美を称賛した。


 けれど、私は違った。


 お姉さまの美しさは外見だけで、内面は醜悪だったからだ。


「私は悪くない」


 自分の非を認めない。


「豚や鶏なんて家畜は醜い動物よ、生きている価値あるのかしら」


 自分の価値観を絶対だと思っている。


 そしてーー


「女王である私に、手に入らない物はないの。どうせ抵抗したって、私の物になるんだから。はやくそれを渡しなさいよ」


 人の物を奪う事に愉悦を感じる性格だった。





 薔薇には棘がある。


 と言うがお姉様の場合は棘が本体で、綺麗な花はおまけのようなものだった。


 それくらい、お姉様の内面はひどかった。





 そんなお姉様の妹に生まれた私の毎日といったら、悲惨なことばかりだ。


 ありふれたもの、文房具やノートだけでなくお姉様は私の大切なトロフィーや誕生日プレゼントまで奪っていく。


 抵抗したら、他の人間の手を借りて、私の元から強引に奪い去っていくから、何度憤りを感じたことか。


 様々なスケッチが記されたスケッチブックを私の元から持っていって、わざと破りさった時は、殴りかかろうかと思ったくらいだ。


 




 けれど、そんなお姉様でも、私から奪えないものがある。


 それは友人だ。


 私の友達は、お姉様の正体を知っている。


 お姉様がどんな策を弄したとしても、この友人達が私から奪われてしまう事はなかった。


 お金や物で釣られない、甘い言葉に惑わされない、偽りの美貌に目をくらませない。


 彼等は本当に、いい友達だった。






 そんな友達にめぐまれていた私は、ある時お姉様に婚約者を奪われた。


 彼に対して、強い愛情はなかった。


 けれど、ほのかな初恋の想いは寄せていたのに。


「お姉様、ひどいわ。私から好きな人までも奪っていくなんて」


「奪われる方が悪いのよ。嘆くなら、私より美人に生まれなかった事を嘆くのね」


 そんな婚約者をお姉さまに奪われた時は、ショックで部屋を出られなくなってしまった。


 お姉様を、この日ほど嫌いになった時はないだろう。






 けれど、友人達がお姉様にやりかえしてくれたようだった。


「もう大丈夫、部屋の外へ出ておいで。君のお姉さんは僕達が成敗しておいたからね」

「そうよ。元気だして」

「またいっぱい私達とお話しましょう」


 今まで、私が大ごとにしたくないからと静観していたらしいが、堪忍袋の緒が切れた彼等はお姉様の悪行を広め、評判を落としていった。


 それに加えて、問題のある男性貴族にお姉様の文体をまねて恋文を出し、お姉様へ心を向けさせた。


 執着心の強いその人物は、お姉様につきまとったようだ。


 それでもお姉様をしたう熱狂的な信者達がいたが、友人達はその者達も切り崩していった。


 お姉様をうまく誘導して、味方のふりでもぐりこんだ彼等が、お姉さまが喋る影口を引き出した。


 それを信者達に聞かせる事で、目を覚まさせたのだ。


 お姉様はいま、執着心の強い男性貴族を恐れて、遠くに建つ別荘から出られない様子らしい。


 とうぶん家へは、帰ってこないだろう。


 その仕返しを聞いた私は、少しだけ元気をとりもどし、部屋から出られるようになった。


 時間はかかるが、こんなにも頼もしい友人達がいるのだから、今回も乗り越えられるはずだ。


「みんなありがとう。とても嬉しいわ」







 数日後。


 何かから逃げるように急いでいた馬車が一台。


 事故を起こして、崖から落下した。


 中にいた者は死亡したらしい。


 その馬車の事故現場を目撃していた男性の一人が、さらに数日後にその崖から身を投げたという。



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何でも奪うお姉様に奪われなかった唯一のものが私を助けてくれました 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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