彼女の願いのその先に
パセリ
あと45。(1話です)
学校から徒歩15分、山奥にありもう随分使われてない旧校舎。
キーンコーンカーンコーン
遠くでなるチャイムが私を急かす。
はぁ、はぁ、
早くなる鼓動、向かう先には元1年2組、現在72年44組。
私は勢いよく扉を開けた。
「四葉!」
そう叫んだ途端、開けてあった窓から強い風が彼女のおさげを揺らす。
「来ましたね、先輩」
教卓の上に座る彼女は、私に笑いかける。
私の恋人。
彼女は私にゆっくり近づき、
「先輩、今日は何して私を楽しませてくれますか?」
私の唇に軽く人差し指をつける。
「えっちなこと?やっちゃいます?二人で卒業しちゃいます?」
「……変態おぢさんかよ……」
「ひどいっ!」
私でも傷ついちゃうー!と軽口を叩きながら私を見つめてくる。
「……大富豪でもする?」
「……ちぇっ、そうしますか……」
少し残念そうにした彼女はトランプを探し始めた。
「確かバックの中に入っていた気が……」
中学2年3組、羽山四葉は
死にたいらしい
「百愛!百愛!聞いてる?」
そう、確か5月だった。
私の初めての失恋。
佐山 萌花
可愛らしく、小動物を彷彿させる顔。
真っ黒な髪を肩ぐらいまで伸ばしている。見た目はふわっとしているのだが、実際はしっかり芯が通っている性格で自分の気持ちを隠さない。嫌なことは嫌だと言えるタイプ。
自分にはできないことに惹かれたのか、かれこれ二年間中。
ーあなたに見惚れてましたって言ったらどんな顔するんだろ……
「……ごめん、ぼーっとしてた」
「もう!大事なお知らせなんだからちゃんと聞いてくださーい百愛さーん!」
そう言って萌花は私のほっぺを軽くつねった。
「いてて、ごめんごめん、なに?」
「ふふっ!私ついに彼氏が出来ましたーーー!!」
「……え?」
心臓がキュッと縮まる。聞こえていたはずのクラスの雑音がノイズをかけられたように遠く、ぼやけていく。
「だーかーらー!彼氏!ほら!これ写真!」
スマホにうつる写真には、顔の整った茶髪のイケメンがいた。
萌花も、そのイケメンも幸せそうな顔をしている。
……だめだ、泣きそう。でも、動揺させたくない。息ができない……。
そう思うと体が勝手に動いていた。
「ごめん!私今日予定があるの忘れてた!」
勢いよく教室を出て走り出す。
はあ、はあ、整わない息が鬱陶しい。
何も考えず走っていると、旧校舎がいつの間にか目の前にあった。
中は暗く、誰もいないようだった。
「……ひとりになりたい……」
もう涙も限界で泣きかけたその時、
ガタッ!
物音がして、思わず身震いする。
この旧校舎にはたくさんの怪談話があるのだ。
恐る恐る声を出す。
「……誰かいるの?」
もう一度
ガタッ
と音がする。
その後
「……うっ、あ、」
と苦しむ声が聞こえた。
その時は怪談の事など忘れてその声の元へと向かった。
72年44組
そこに入ると、中学生にしては小さな体が天井にかけられた縄に首をかけようとしているところだった。
「だめだっ!」
恐らく、人生で一番大きな声を出したと思う。
乱暴に少女の手を引っ張った。
私を下敷きにして、2人で床に倒れる。
「…なんでっ」
今にも泣きそうな顔は恐ろしいほど整った容姿をしていて、美人に睨まれると迫力があると言うが、それを身を持って経験した。
「…なんで死なさせてくれないの?!」
少女は私の胸ぐらを思い切り掴んで言った。
私もパニックになっていたのでなんて言ったのかはよく覚えていないが、絞り出した答えが、
「…いっ生きてれば楽しいことも辛いこともあるよ、でも、死んだらなにも…何もないよ、」
少女の手が私の体からはなれる。
「…じゃあ、あなたが私を愛して…私を見てよ…」
自分でもなんでか分からないが口が勝手に動いて
「わかった。」
と言っていた。
2人きりの教室に少女の泣き声だけが響く。
5月の湿気を帯びた空気が私たちを包む。
彼女の願いのその先に パセリ @Baeru0303
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