第182話 圧


 賊みたいな奴に襲われた日は一日ゆっくり休み、翌日に備えた。

 そして、翌日になると、朝から魔大陸に行き、ひたすら歩き、ゾンビを倒している。


「ここまで多いと、さすがに慣れてきたな……」


 ゾンビを倒し、魔石を回収していると、リアーヌがつぶやいた。


「そんなもんよ。作業になるからね」


 そう言いつつ、ゾンビの魔石回収だけはしないアニー。


「なるほどのう……しかし、数が多いな。あの村の連中、よくこんなところに住めるもんだ」

「魔族だし、ゾンビなんか相手にならないくらいに強いんじゃない?」

「そうかもな……」


 リアーヌが納得していると、魔石の採取を終えたナタリアとリリーが立ち上がったので出発する。

 そのまましばらく歩いていると、何度かゾンビに遭遇したものの特に問題はなく進むことができた。

 そして、歩いていると、徐々に草木がちらほらと見えだしてくる。


「マスター、カラスちゃんが町を発見しました。位置からしてターブルの町と思われます」


 AIちゃんが報告してきたのでカラスちゃんと視界をリンクする。

 すると、確かにそこそこ大きな町が見えていた。


「大きい町ではあるが、セリスほどではないな」

「ですねー。どうします? このまま全員で向かいますか?」


 そうだなー……


 俺は足を止めると、皆を見渡す。


「順当に行けばナタリアだが……治安のことを考えるとアリスかアニー……アニーはないか」


 襲ってくれって言ってるようなもんだ。


「…………私が行こう。Bランクの魔法使いの力を見せてあげる」

「じゃあ、お前な……」


 つまりチビ3人か……

 うーん、まあいいか。


「リアーヌ、ナタリアとアニーとリリーの3人を家に帰してくれ」

「わかりました……ほれ、触れ」


 リアーヌがそう言うと、3人がリアーヌに触れる。

 すると、一瞬にしてリアーヌが消えていった。


「…………ユウマ、ちょっと」


 リアーヌが消えると、アリスが手招きしてくる。


「なんだ?」


 そう聞きながらアリスのそばに行き、見下ろした。

 すると、アリスが見上げながら両手を上げる。


「…………抱いて」

「お前は何を言っているんだ?」

「…………違う。お姫様抱っこ」


 そっちか。


「なんでだ?」

「…………体験してみたい」


 あー、そういうことね。


 女子は好きだねーと思いながらもアリスを抱える。

 すると、アリスが半目のまま俺を見上げてきた。


「…………うん、なるほど……なるほど……なるほどー」


 何がなるほどなんだろう?


「気が済んだか?」

「…………うん。降ろして」


 そう言われたのでアリスを下ろした。


「何がしたんだよ……」

「…………昨日、部屋に戻ったらナタリアがうるさかったからどんなもんだろうと思って」


 たまにAIちゃんも言うけど、ナタリアをうるさいと思ったことがないなー。

 魔物が突っ込んでくると、泣き叫ぶくらいだ。


「そうか……」

「どうでした?」


 AIちゃんが話に入ってくる。

 こういう時になると必ず入ってくる奴だ。


「…………悪くない。うん、悪くない」


 アリスはうんうんと頷くと、空を見上げる。

 つられて見上げてみるが、何もいない。


「ただ今戻りましたー……あん? アリス、何を顔を赤らめて、空を見上げているんだ?」


 戻ってきたリアーヌがアリスを見て、怪訝な顔をした。


「…………別に。行こうか」


 アリスが空を見るのやめ、促してきたので町に向かって歩いていく。

 しばらく歩いていると、町が見えてきた。

 そして、門のところまでやってくるが、やはり門番はいない。


「勝手に入っていいんですよね?」


 AIちゃんが聞いてくる。


「多分な。アリス、来い」

「…………うん」


 アリスは俺の袖を握った。


「行きますか」


 リアーヌがそう言って頷いたので町に入ってみる。

 町の中は俺達が住んでいる街並みとほぼ変わらず、人の賑わいもそこそこにある。

 だが、当然だが、全員が青白く、魔族だった。


 俺達は通りを歩いていくが、誰も俺達に注目はしていないことからAIちゃんの偽造魔法が効いていると思われる。


「マスター、どこで情報を仕入れますか?」


 歩いていると、AIちゃんが聞いてきた。


「冒険者という職業があるならギルドもあるんだろうけど……やめた方が良いか?」

「そうですね。もし、実力者がいて偽造魔法を見抜かれたら厄介です」


 ありうるな。

 俺達だってランク付けをしているわけだし。

 それに職員が特殊なアイテムを持っている可能性もある。


「そうなると、酒場かね?」

「そうですね。酒の場では人の口は軽くなります」


 そうするか。


「となると、夜までは待機だな。宿屋を探そう」

「どこですかね?」


 わからん。


「誰かに聞くか……あれだな」


 通りを歩いていると、年配の女性がベンチに腰かけていたので近づく。


「ん? 何だい?」


 俺が近づいたので女性が怪訝な顔をして見上げてきた。


「すみません。ここに着いたばかりなのですが、宿屋はどこでしょうか? この子達を休ませたいんですよ」

「ああ……あっちに何軒かあるよ」


 女性が通りの先の方を指差す。


「ありがとうございます。これはお礼です」


 そう言って、銀貨を取り出し、渡した。


「あんた、いい男だねー。その子達は娘かい?」


 何時の子になるんだよ。


「親戚の子ですよ」

「そうかい……小さい子がいるならコヨコヨ亭っていう宿屋にしな。そこが一番安全だ」

「ありがとうございます」

「別にいいよ。がんばりな」


 女性はニコッと笑ったのでこの場を離れ、宿屋がある方に歩いていく。


「さすがはマスター。相手が女性ならお手のもんですね」


 人聞きが悪いことを言うな。


「子供連れの場合はああいうおばさんがいいんだよ」


 基本、おせっかいだし。


「…………子供」


 アリスがリアーヌを指差した。


「お前とたいして変わらんわ」

「…………私はレディー」

「御二人ともレディーですよー。立派な大人な女性です」


 含みを持って聞こえるのは俺だけ?


「…………マスターの子供を産めって聞こえた」

「私も……」


 俺もだよ。

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