第181話 どこにでも賊はいる
俺達は村から出るために来た道を引き返していく。
「マスター、敵性反応が後ろからついてきています。数は3」
AIちゃんが教えてくれる。
「狛ちゃん、ナタリア、前を歩け」
そう言うと、狛ちゃんとナタリアが前に出てきた。
「どうします? 転移で逃げられますけど……」
狛ちゃんに乗っているリアーヌが振り向いて聞いてくる。
「ここでの転移は目立ちすぎる。さっさと村を出るぞ」
「わかりました」
俺達はそのまま歩いていくと村の門までやってきた。
門には来た時と同様に誰もいない。
「AIちゃん、狛ちゃんに乗れ」
「はい」
AIちゃんは頷くと、狛ちゃんにまたがり、リアーヌに抱きつく。
それを見た俺はナタリアの肩に触れた。
「ん?」
「じっとしてろ」
「う、うん」
そのままもう片手でナタリアの太もも裏に触れると、ナタリアを抱えた。
「おー……」
ナタリアが頬を染め、よくわからない声を出す。
「いいなー……」
お前はこの前しただろ。
もっとも、ガタガタと震えてたけど。
「しがみついてろ」
「うん……」
ナタリアが俺の首に腕を回した。
「行くぞ」
そう言うと、狛ちゃんと共に走り出し、村から離れる。
「マスター、敵性反応がなくなりました」
「そうか」
とはいえ、走るのは止めない。
AIちゃんのサーチ能力は30メートルしないのだ。
俺と狛ちゃんは村からかなりの距離を取っても走り続けた。
「ユウマ! 何か来てる!」
俺に抱きつきながら後ろを見ていたナタリアが声を出す。
「マスター! カラスちゃんから魔族が3人ほど、馬に乗ってこちらに向かってきていると!」
馬があるのかよ……
「狛ちゃん、止まれ」
そう言って、足を止めると、狛ちゃんも足を止めた。
「どうするの?」
ナタリアが俺を見ながら聞いてくる。
正直、めちゃくちゃ近い。
「馬は無理だ」
狛ちゃんはともかく、俺は馬より速く走れない。
「戦うの?」
「あいつらの目的は明白だからな」
「お金と私達?」
「だな。どちらもやるわけがない。人殺しは趣味ではないが、賊は例外だ」
そう言うと、後ろを振り向く。
すると、肉眼で視認できる距離に馬に乗った若い魔族がこちらに向かって駆けてきていた。
「どうするの?」
「ああやってツッコんでくる馬鹿を見ていると、いつぞやの猪を思い出すな」
「あー……そうだねー。あれは怖かった」
ナタリアは騒ぎまくっていた。
もっとも、今は全然騒いでいないし、大人しく、俺に抱えられている。
そのまま駆けてくる男達を見ていると、距離が数十メートルくらいになった。
すると、先頭の男が剣を抜く。
「剣まで持ってきていたか……」
酌量の余地なしだな。
「地獄沼」
そうつぶやくと、男達の周囲の地面が沼に変わる。
「うおっ!」
「なっ!?」
「うわっ!」
馬が足を取られたことで男達は落馬し、沼に落ちていった。
「な、なんだこれ!?」
「し、沈む!?」
「た、助けてくれ!」
男達は暴れているがどんどんと沈んでいく。
「俺は敵を絶対に許さないんだよ。じゃあな」
そう言って踵を返すと走り出した。
狛ちゃんもすぐに走り出し、並走する。
「ま、待て!」
「おい、ふざけるな!」
「殺すぞ、てめー!」
アホ。
死ぬのはお前らだ。
そのまま底なし沼に沈め。
俺は無視して、走り続け、男達が見えなくなるまでの距離まで来ると、抱えているナタリアを降ろす。
「大丈夫か?」
「うん。全然、大丈夫。ユウマこそ大丈夫? 重くなかった?」
「軽いし、何も問題ない」
女なんて軽いもんだ。
「そっかー」
ナタリアは頬を染め、髪の毛を弄りだした。
「ナタリアが狛ちゃんに乗った方がユウマ様の苦労しなかったと思うんだけどなー。絶対に私の方が軽いし」
リアーヌがぼやく。
「震えながら抱えられていたじゃないですか」
「それがまったく覚えてない。それどころではなかったし、感覚がなかった」
寒そうだったもんな。
「そんなに抱えられたいなら夜に来るといいですよ。私はナタリアさんの部屋に行きますので」
「バッカ! お前、バカか! こういうのは誘われるのを待つんだよ!」
「85歳が頬を染めないでくださいよ」
「うるさいキツネだな……ユウマ様、どうしましょうか? 一度戻ります?」
リアーヌにそう言われたので周囲を見渡すと、特に誰もいない、何もない。
「帰ろう」
「では、私に触れてください」
そう言われたのでリアーヌの両脇に触れ、持ち上げると、抱えた。
「うひゃー! かっこいい!」
「子供をあやすお父さんにしか見えません……」
俺もそんな気分。
「うるさい。ほら、帰るぞ」
俺達はリアーヌの転移で部屋に戻ることにした。
そして、部屋に戻ると、靴を脱ぎ、コタツに入る。
「あー、疲れた」
ナタリアが重かったわけではないが、走るのは単純に疲れる。
「おかえりー。なんでリアーヌを抱えているの? パパ大好きなお子様にしか見えないわよ」
アニーもそう思うらしい。
「村で情報を仕入れてきたんだが、賊みたいのに襲われたんだよ」
そう答えながらリアーヌを隣に座らせた。
「やっぱり治安が悪いわね……それでリアーヌを抱えて、逃げたわけ?」
「いえいえ。抱えられていたのはナタリアさんです。私とリアーヌさんは狛ちゃんに乗っていました」
AIちゃんが代わりに答える。
「それでなんでリアーヌを抱えるの?」
「お姫様抱っこをされて王子様を見る目でマスターを見つめるナタリアさんを見て、このお子様が拗ねましてね」
「しょうもな……」
アニーがリアーヌを見ながら鼻で笑った。
「うるさい奴らだ……それよりも魔族って本当にロクなのがおらんわ」
まあなー。
とはいえ、あそこまで貧しいとあまり種族差はない気がする。
「町に行く時はその辺を気を付けないとね。それで情報って?」
アニーが聞いてくる。
「えーっとな、村の村長に聞いたんだが、俺達がいるのはここだ」
机に地図を置くと、指で村があったところを指差した。
「へー……ドラゴンも気を遣って、もうちょっと北に行ってくれると良かったのにね」
ホント、ホント。
あのビビりめ。
「まあ、仕方がないだろう。そんでもって俺達の目的地である港町の名前はルドー。村長いわく軍が駐屯しているから面倒っぽい。それでその中継地にあるターブルって町がそこそこ大きくておすすめらしい」
指で地図をなぞりながら説明していく。
「なるほどねー……そうなると、ひとまずはそのターブルって町に行って情報収集かしら?」
「そうなるな」
「了解。それでどうする? 今から向かう?」
向かってもいいが……
「どうする?」
休みを決める担当のナタリアに確認する。
「休んで明日にした方が良いよ。ユウマは結構な距離を走ってたし」
「ナタリアさんを抱えてねー」
AIちゃん、うるさい。
ナタリアがまた頬を染めだしただろ。
「じゃあ、休みにするか。明日また皆で行こう」
「う、うん……それがいいよ」
この日は休むことのなったのでいつも通り、部屋で特に何もせずに過ごした。
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