第107話 かっこいい
米を買った日から数日が経った。
その間、王都を巡ったり、宿屋でゴロゴロとしていた。
そして、やることがなくなったなーと思いながら部屋で過ごしていると、宿屋にケネスが訪ねてきたと宿屋の店員に言われたので玄関まで出る。
「ユウマ殿、例のお茶会の日程が決まりましたぞ」
玄関で待っていたケネスが開口一番に用件を告げてきた。
「いつだ?」
「明後日になりました。ギルマスが連れていきますので昼になったらギルドにお越しください」
明後日か。
「本当に早いな。俺の国ではひと月はかかるぞ」
身内である俺が会う分にはそんなにかからないが、他国の者の場合はそれくらいかかる。
「この国もそんなものですよ。でも、そこまで正式なものでもありませんから」
「ふーん……まあ、わかった。明後日にそちらに向かおう」
「お願いします。では、これで失礼いたします」
ケネスはそう言って頭を下げると、宿屋から出ていく。
それを見送ると、自分の部屋に戻った。
「どうだった?」
部屋に戻ると、ナタリアが聞いてくる。
俺の部屋には暇そうな面々が集まっており、お茶を飲んだり、狛ちゃんと遊んでいたりと思い思いに過ごしていた。
「明後日の昼だそうだ」
「思ったより早いねー。じゃあ、数日でセリアの町に帰れそうだね」
「かもな」
何もなければだが。
「もう帰るの? もう少しこの宿屋を堪能したかったのに」
リリーは不満そうだ。
「お前、気後れしてただろ」
「さすがに慣れちゃった。そうなると、広いベッドやお風呂、それに美味しいご飯から離れがたい」
贅沢を覚えたエルフだな。
「あまり慣れすぎると自分の家に帰った時に悲しくなるぞ」
「あー、そうかも……実家に帰った時にそう思ったもん」
味のないご飯はきついだろうしな。
「まあ、あと何日王都にいるかはわからないが、もう少し楽しめ」
「わかった!」
俺達はこの日も部屋でゆっくりと過ごし、翌日も似たような一日を送った。
そして、その翌日、俺は約束の時間になるとAIちゃんを消し、一人でギルドに向かう。
すると、ギルドの前には俺達が王都まで乗ってきたような豪華な馬車が停まっており、その馬車の前にはケネスが立って待っていた。
「よう」
「これはこれはユウマ殿。ご足労をかけます」
ケネスに声をかけると、ケネスも挨拶を返す。
「これに乗っていくのか?」
「はい。すでにギルマスが乗っております。どうぞ」
ケネスに促されたので馬車に乗り込む。
すると、馬車の中にはリアーヌと共に若い冒険者風の男が向かい合うように座っていた。
「あ、ユウマさん。どうぞ、座ってください」
リアーヌは自分の隣をバンバンと叩く。
「遅れてすまない」
そう言いながらリアーヌの隣に座った。
すると、対面に座っている男と目が合う。
「王都観光はどうでした?」
リアーヌは男を紹介もせずに話しかけてきた。
「人が多いし、店も多いな。あと宿屋が過ごしやすい」
「それは良かったです。あ、あの、よかったら明日にでも夕食を――」
「あ、あのギルマス……」
男がリアーヌの話を遮るように声をかける。
すると、笑顔だったリアーヌの顔が見るからに不機嫌になった。
「あん? お前、今、私の言葉を遮ったか? たかが20やそこらの若造が85年も生きる私の言葉を遮ったのか? ああ!?」
本当に年長者が絶対の世界だったんだろうな。
「い、いえ……でも、紹介くらいしてほしいなと……」
男はリアーヌの圧にたじたじだ。
どう見ても子供だが、明らかに子供では出せない威厳と圧がある。
「リアーヌ、俺も紹介してほしい。話は今度、食事でもしながらゆっくりしよう」
「そ、そうですね! おすすめのレストランがあるんですよ!」
リアーヌがぱーっと笑顔になる。
「そうか……楽しみだな」
「でしょー? あ、もちろん私が出します」
「いや、俺が出す。誘ったのは俺だし、年下に金など払わせない」
「は、はい! ありがとうございます! …………うひゃー、かっこいい!」
リアーヌの頬が赤くなり、そっぽを向いた。
子供にしか見えない。
なお、正面にいる男は完全に無視されているが、先程、怒鳴られたから声をかけづらそうにしている。
「それでこいつは誰だ?」
いい加減紹介してほしいのでリアーヌに聞く。
「あ、ウチのギルドに所属している冒険者のオットーです。オットー、こちらはユウマ様だ。くれぐれも失礼のないように」
リアーヌはこちらを向くと、興味なさそうに紹介してくれた。
あからさまな差別だ。
「ど、どうも。Aランク冒険者のオットーです」
オットーはおずおずと握手を求め、手を出してくる。
「セリアの町の【風の翼】というクランに所属しているユウマだ。よろしく」
そう言ってオットーの手を握った。
「そこそこ実力のある男です。もちろん、ユウマ様ほどじゃないですけど」
リアーヌが補足説明(?)をしてくれる。
『マスター、この女、完全にメスになってますよ……あからさますぎて笑っちゃいます』
『放っておけ』
見ればわかるわ。
オットーなんかすげー気まずそうだ。
絶対に帰りたいと思っている。
「Aランクなんだから実力はあるだろう。それでなんでそんなAランクが? 護衛か? 付き添いか?」
「実は国王陛下からある依頼を受けてましてね。それの担当です。あ、あのー、できればユウマ様にも協力を願いたいなーと思っていまして」
ほら、面倒ごとが出てきた。
「どんなのだ?」
「それはこれから国王陛下から話を聞けると思います」
つまり国王が俺を指名しているということだろう。
断れんな。
「仕方がないな……」
「申し訳ありません。異世界の力を借りたいということでして……」
「構わん。内容がわからないから力になれるかは不明だが、事次第では俺の領分かもしれん。それに断ったらお前の立場も悪くなるだろう」
「あ、ありがとうございます! …………お前、邪魔だから馬車を降りて歩けよ」
リアーヌは祈るように両手を合わせ、俺を見上げていたが、すぐにオットーの方を見ると低い声を出した。
「えー……」
オットー君、可哀想。
『この女、頭がお花畑すぎますよね。本当に85歳なんですかね?』
さあ?
特殊な価値観の世界っぽいからなー。
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