第105話 やれやれ85歳になっても乙女か…… ★


 王都のギルマスは転生者で貴族のようだ。


「なるほどな。それで手紙は読んだか?」

「ええ、読みました。と言っても王家から連絡が来て、アストリーに繋いだのは私なのでだいたいはわかっています」


 区長を呼び捨てか。

 まさか王様にもタメ口じゃないよな?


「王家には?」

「昨日、連絡しましたので少しお待ちください。時間の調整とかもありますから」

「実際、どれくらいかかりそうだ? 冬までには帰りたいぞ」

「そこまではかからないと思います。公式なものではなく、お茶会程度ですので、そこまで日程調整に時間はかからないでしょう」


 お茶を飲むくらいならいいか。


「俺1人か?」

「私も同行します。その子は……えーっと」


 リアーヌがAIちゃんを見て、言いづらそうにする。


「マスター、私は遠慮しましょう。どうせ同じことです」


 AIちゃんは式神に乗り移っているだけで本来の住処は俺の頭の中だもんな。

 戻るだけで一緒に行くことに変わりはない。


「俺1人で行こう」

「すみませんが、お願いします。何しろ王家なもので」


 それくらい厳重な方がいいだろうな。


「いい。当然のことだ」

「そう言ってもらえると助かります。日取りが決まったら連絡しますので」

「わかった。それまでは王都観光でもするわ」

「ええ、そうしてください。ちなみに、ウチに移籍する気はないです? 今ならAランクになれますよ」


 リアーヌが普通に勧誘してきた。


「ないな。俺はセリアの町を気に入っているし、Aランクにはそのうちなれるだろう」

「そうですか。魔族を撃退するほどの冒険者なら王都の方が稼げると思ったんですけど」

「金はあるだけでいい。今世ではそこまでいらんだろうしな」

「わかりました。まあ、気が向いたら出稼ぎにでも来てください。隣の町なわけですし」


 出稼ぎはないだろうが、王都に来ることはあるかもしれんな。

 ナタリアとアリスは実家があるわけだし、店もこっちの方が充実している。

 仕事ではなく、遊びに来る感じだろう。

 その程度なら政治に巻き込まれることもない。


「そうだな。気が向くか、仕事がなくなったらだな」

「はい。それとセリアの町の東にある遺跡に出た魔族のことを教えてください。どんな男でした?」


 あいつか……


「いかにも脳筋って感じのバカだったな。だが、強さは本物だった」


 あれ相手にその辺の兵士が勝てる想像ができない。

 それくらいには強かった。


「魔法は?」

「いや、魔法はない。魔力を内包させているんだったかな? それで力や防御力を上げているそうだ。その代わりに魔法が使えないって本人が言っていた」


 弱点を自らバラすバカだった。


「なるほど……わかりました。情報提供ありがとうございます」


 リアーヌが頭を下げる。


「いや、これくらいは当然のことだ。では、俺はこれで失礼する。王家からの連絡があれば教えてくれ」

「はい。よろしくお願いします」


 リアーヌが再び、頭を下げたので立ち上がる。


「ああ、そうだ。俺をつけるのはいいが、女共をつけたら殺すからな。じゃ」


 頭を下げたままのリアーヌとケネスが同時にピクッと動いたのを確認すると、AIちゃんと共に扉の方に歩き、帰ることにした。




 ◆◇◆




 ユウマとかいう冒険者が部屋から出ていったので頭を上げる。


「追跡に気付いてたようですね……」


 ケネスが小声でつぶやいた。


「そのようだな。まあ、それくらいはできるか……女共は?」

「そちらにはつけておりまりせん」


 そこもわかったわけか。


「何かの能力か?」

「でしょう。大蜘蛛などの式神と呼ばれる従魔を使役し、魔族を簡単に撃退する男です。探る能力もあるのでしょう」


 詳しく調べたいが、アストリーも西区のギルマスもしゃべらんからな。

 まあ、それだけで有望なのは想像がつくが……


「引き抜きは無理か?」

「おそらくは……連れている4人の女性の他にもアストリー殿のご息女とも良い仲とか」


 それが西区のギルドの受付嬢なわけだからな。


「その娘をこっちに引き抜くのは?」


 ここはギルドの中枢だし、出世だ。


「アストリー殿にケンカを売る気ですか? それに稼げるいい男がいるならば、辞めるだけでしょう。百害あって一利なしです」


 それもそうか……


「本当にそういう仲か? そう見せているだけでは?」

「家に出入りをしているそうですよ。仲良く2人で出かけている様子を目撃している者も多数います。間違いないかと」


 ギルドの受付嬢と冒険者が一緒にいてもおかしくないが……

 話を聞く限り、恋仲っぽいな。


「しかし、5人もいるわけだろ? 前世では12人も配偶者がいたっていうのも頷ける手の早さだな」

「まあ、そういう方もいますよ。それにあの方、貴族だったんでしょう?」

「らしいな。しかも、かなり上の方だ」


 王族の血を引いているらしい。

 まあ、あの態度を見る限り、本当だろうな。

 私が貴族って言ってもまったくひるまなかったし。


「落ち着いていますし、粗暴ではなさそうなので一安心ってところですね」


 犯罪もしなさそうだし、こちらと敵対する意思はなさそうだった。

 もちろん、元貴族なら黒いこともしていただろうが、今世ではそんなに金が必要ないって言ってたし、政治に関わる気はないのだろう。


「そうだな……しかし、ひと月も経たずにBランクになり、実力もある。元貴族で女性慣れしていて稼ぎもいい。そら、モテるわな。私もそんな男に好かれたいわ。まあ、あんな浮気性は絶対に嫌だけど」

「嫉妬すら起きませんな。最後のセリフなんか俺の女に手を出すなって聞こえましたよ」

「実際、そう言っているんだろうよ」


 かっこいいね。

 ムカつくけど、ああいう男なら言われてみたいわ。


「それと例の件ですが……」

「それな。やはり魔族とは関係なさそうだったな」


 例の魔族が関係している可能性もあると思ったんだが、魔法が使えないということは違うだろう。


「どうします? スタンピードの際に逃がした魔族や他の魔族の線も考えられますけど」


 もちろんその可能性もある。


「そうだなー……まあ、詳しい話を聞いてからだな。オットーを呼んでおけ」

「Aランクの?」

「そうだ」

「わかりました。すぐにでも声をかけます」


 ケネスが頭を下げる。


「頼んだ。私はもう一度、王宮に行ってくる」

「わかりました」

「うむ……あ、ユウマさんを張っている奴らを撤収させろ。怪しい御方ではなかったし、もういいだろう」

「そうですかね?」


 ケネスが首を傾げた。


「どう見てもそうだろう」

「ハァ……私もああいう男に生まれたかった」


 ケネスがため息をつき、やれやれと言った感じで頭を横に振る。


「何が言いたい?」

「かっこよかったですもんね。わかります」


 違うわっ!

 かっこよかったけど!

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