第100話 宿屋


 王都のギルドでの担当は受付嬢ではなく、このケネスとかいうおっさんらしい。

 まあ、別に誰でも構わないので問題ない。


「わかった。よろしく頼む。それでギルマスは?」

「セリアの町の区長からの手紙を読みまして、急ぎ、王宮に向かわれました。本日はもう夕方になりますし、明日、お話しできればとのことです」


 日を改めた方がいいか……


「それもそうだな。俺達はさっき着いたばかりだし、今日はゆっくり休みたい」


 朝早かったし。


「それがようございます。では、宿にご案内いたしましょう」

「頼む」

「はい、こちらです」


 俺達はギルドを出ると、ケネスに案内され、歩いていく。


『マスター、不本意かもしれませんが、ナタリアさん達やパメラさんはマスターの奥様もしくは、恋人ということにしてください』


 歩いていると、AIちゃんから念話が聞こえてきた。


『それが王都のギルドへの牽制か?』

『はい。マスターはセリアの町で女を作って定住しているということにしました』


 パメラの手紙はそういう内容だったわけだな。

 そりゃ、パメラも手紙の内容を言わんわ。


『まあいいだろう。それで面倒な勧誘が避けられるなら構わん』

『事後報告になってすみません』

『別にいい。お前に任せる』


 AIちゃんに任せておけばいいだろ。


「ユウマ殿、よろしければ夕食をご一緒にいかがですかな?」


 AIちゃんとの念話が終わると同時にケネスが誘ってくる。


「遠慮しておこう。こいつらと食べる」

「さようですか」

「悪いな。食事は女と食べることにしているんだ。話は変わるが、そちらにウチのクランの人間が世話になっていないだろうか? 出稼ぎに来ているはずだが」


 嫌な話題はさっさと切ることが大事。

 これで向こうも察する。


「ええ。ご活躍されておりますよ」

「悪いが、クランリーダーであるレイラの命で招集命令がかかった。セリアの町の冒険者が不足しているらしい」

「事情は存じております。【風の翼】の冒険者がいなくなるのは痛いですが、セリアの町も重要な町ですから致し方ないでしょう。幸い、王都は冒険者が多くいますし、問題ありません」


 まあ、これほど大きい町なら代わりはいくらでもいるわな。


「あいつらがどこにいるかわかるか?」

「宿屋まではわかりません。ですが、夜になると、男性陣は歓楽街にある飲み屋に行きますし、女性陣はギルド近くにある飲み屋に行きますね」


 詳しいな。

 調べたのかね?


「わかるか?」


 後ろを振り向くと、ナタリアに聞く。


「わかるよ。いつも行くとこ」


 わかるならいいか。


「感謝する」

「いえいえ。さて、こちらになります」


 ケネスはそう言って立ち止まると、とある建物を見た。

 その建物の外観は白を基調としており、かなりきれいで大きい。


「……ユウマ、ここ、貴族なんかのお金持ちが泊まることで有名な宿屋だよ」


 ナタリアがそばに来ると、袖を軽く引っ張りながら小声で教えてくれた。


「料金は区長が出してくれるから問題ない。そうだろ?」


 ケネスに確認する。


「はい。そういうことになっております。何日滞在になるかは私共にもわかりませんので料金は後日、アストリー殿に請求することになっております」


 区長に聞いた通りだ。


「それでいい」

「では、中にどうぞ」

「ああ、待て」


 ケネスが宿に入るように促してきたが、止めた。


「何か?」

「さすがに犬はマズかろう。他の客に迷惑がかかる」


 そう言って、狛ちゃんを消し、護符に戻した。


「式神でしたか? 不思議な術ですなー」


 まあ、知っているわな。


「異世界の術だからな。すまん、入ろう」

「はい。どうぞ」


 俺達は今度こそ、宿屋に入る。

 すると、すぐに小奇麗な服を着た男の店員が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ」

「やあ。こちらは例のお客さんだ」


 店員が頭を下げると、ケネスが説明してくれる。


「かしこまりました。アストリー様から6人と伺っておりますが、間違いございませんか?」


 店員が俺に聞いてくる。


「ああ。ここにいる人間だけだ」

「皆様が泊まれる広い客室と個室をご用意できますがいかがいたしましょう?」


 6人も泊まれる部屋ってすごいな。


「個室に決まっているだろう。見てわからんか?」

「……失礼しました。では、個室を6部屋ですね?」

「あ、待て。この子はまだ小さいから俺と同じ部屋でいい。だから5部屋だ」


 AIちゃんは俺のスキルだし、一緒でいいだろう。


「では、個室を5部屋ですね。隣の方がよろしいですか? もちろん、防音はしっかりしております」


 個室にした意図を察したらしい。

 まあ、違うんだけどさ……


「それでいい」

「食事はいかがいたしましょう? お部屋に御持ちすることもできますし、食堂もあります」

「全員分を俺の部屋に持ってきてくれ」


 食堂はやめた方がいいだろう。

 もし、貴族とかがいたらナタリアが固まる。


「かしこまりました。では、お部屋に案内いたしましょう」

「少し待て。ケネス、明日は何時だ?」


 店員を手で制すると、ケネスに確認する。


「午後からでいかがでしょう? ゆっくり休まれた方がいいでしょうし」

「そうだな……それでいい。俺一人の方がいいか?」

「できたら」

「わかった。だが、この子は連れていくぞ」


 そう言って、AIちゃんを抱き寄せた。


「はい。それは結構でございます。では、午後に迎えに行きましょう」

「いや、お前も仕事があるだろう。こちらから出向く」


 面倒だわ。


「わかりました。では、お待ちしております」

「ああ。ここまでご苦労だった」

「いえ……では、私はここで失礼いたします。ごゆるりとお休みください」


 ケネスは丁寧に頭を下げると、宿屋から出ていった。


「すまん。部屋に案内してくれ」

「はい。どうぞ、こちらへ」


 俺達は店員に案内されると、奥に歩いていく。

 そのまま通路を歩いていくと、扉がいくつか見え始め、さらに奥に向かっていった。


「ここから奥までの5部屋がお客様のお部屋になります」


 店員が立ち止まると、奥にある5つの扉を指す。


「わかった。お前ら、俺が一番手前にするが、どうする?」


 4人に聞く。


「…………私、一番奥」

「じゃあ、私はその隣!」

「私がその隣。ナタリアがユウマの隣ね」

「えーっと、じゃあ、それで」


 手前から俺、ナタリア、アニー、リリー、アリスということになった。


「では、こちらが鍵になります」


 店員が鍵を配っていく。

 そして、最後に俺に鍵を手渡した。


「何かあれば、いつでも呼んでください」


 店員はそう言って頭を下げると、戻っていく。


「じゃあ、夕食まで自由な。解散」


 俺はそう言って、AIちゃんと自分の部屋に入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る