第096話 しゅっぱーつ


 パメラと話していると、夕食の時間となったので皆でリリーが獲った鹿肉を食べる。

 そして、3日後に王都に向かうことを伝えると、明日、明後日はその準備ということになった。


 その2日間は皆がそれぞれ準備をしていたが、俺はというと、そういった遠出をしたことがないので何を準備すればいいのかわからなかった。

 なので、アリスに付き合ってもらって色々と準備をした。

 そして、ついに出発の朝となり、皆で一緒に朝食を食べ、留守番をするクランリーダーであるレイラに一声かけると、寮を出る。


「王都って北だっけ?」


 王都出身のナタリアに確認してみる。


「そうだよ」

「じゃあ、北門から出るんじゃないのか? こっちって西門だろ」


 仕事で西の森に向かう際の道順で歩いてる。


「それはほら、例のやつ」


 仲が悪いから、ね。

 いい町だとは思うけど、こういうところは面倒くさい町だわ。


「じゃあ、西門に馬車があるわけだな?」

「うん。らしいよ。昨日、パメラさんがそう言ってた。というか、なんでユウマが知らないのよ」


 聞いてなかったもん。


「昨日、ギルドに行ったのか?」

「一言、言っとこうと思ってね」


 真面目な奴だな。

 とても良いことだと思うけど。


「俺、地味にこの町以外の町に行くのは初めてだわ」


 転生してすぐにこの町に来たし、出かけてない。


「王都はここよりも都会だから楽しいよ。変な人も多いけど」


 まあ、その辺はどこの世界も変わらんわな。


 俺達が話しながら西区の街並みを歩いていると、西門までやってくる。

 すると、門の近くに豪華な馬車が置いてあり、その馬車の近くには見たことがある兵士が立っていた。


「あ、門番さんです」


 AIちゃんが言うように区長の家の門番をしている男だ。

 俺達はそのまま歩き、門番に近づく。


「よう」

「おはようございます」


 門番の男に声をかけると、男はいつものように丁寧な口調で明るく挨拶を返してきた。


「この馬車か?」

「ええ、そうですよ。乗ってください。すぐにでも出発できますので」


 そう言われて荷台を見るが、誰も乗っていない。


「御者は? お前か?」

「いえ、御者はいません。この馬は賢いので勝手に王都まで進んでくれますよ」


 あー、例の馬か。

 最初にナタリアとアリスと会った時に乗ったやつだ。


「高いんじゃないのか?」

「それほどのお客さんってことですよ。王都に着いたら王都の門番に預けてください。馬車の紋章を見れば、区長の馬車とわかるので預かってくれます」


 区長って思ったより偉いんだな。


「わかった。いつ戻るかは国王陛下次第だが、なるべく早く戻るようにする。区長にそう伝えてくれ」

「かしこまりました。区長とお嬢様に伝えておきます」


 なんでパメラを付け加えたのかな?

 というか、パメラには言ったし。


「頼むわ」


 門番に言付けを預けると、馬車に乗り込む。

 馬車の中はそこそこ広く、腰かける椅子もある。

 俺達は6人のそこそこ大所帯だが、十分に座れる広さはあった。


「広いなー」

「区長の馬車だもんね。すごい」


 皆が内装を見たり、柔らかい椅子を触っていたりしていると、馬車が動き出した。

 俺達は馬車が動き出し、揺れ始めたので椅子に座る。


 俺は端っこに座り、その隣はAIちゃんが座った。

 さらにAIちゃんの隣にはリリーが座り、窓の外を眺めている。

 俺の対面にはアニーが座り、その隣にはナタリア、そして、さらに隣には窓際に座っているアリスがおり、リリーと同様に窓の外を眺めていた。

 さすがに狛ちゃんは消している。


「出発か。2、3日で着くんだっけ?」


 確か、区長がそう言っていた。


「このスピードだったらそのくらいだね。早ければ明日の夕方、遅くとも明後日の昼には着くんじゃないかな?」


 斜め前に行儀よく座っているナタリアが笑顔で答える。

 なお、行儀が悪いのは窓際にいるアリスとリリー。

 椅子に膝を立てて、外を眺めている。


「お前らが実家に帰る時もそんなもんか?」

「私らが帰る時は乗合馬車だね。ぎゅーぎゅー詰め。正直、嫌」


 それは嫌だろうな。

 ましてや、女子だし。


「私はあの馬車でロクな目に遭った記憶がないから高くついても個人で馬車を借りるわね」


 肌色が多い服装を着て、対面に座っているアニーが足を組み直しながら嫌そうな顔をした。


「お前はなー……王都でもその格好か?」

「逆に王都の方が目立たないわよ。色んなところから色んな人が来るし」


 なるほど。

 確かにウチの都にも変な格好をする傾奇者は結構いた。


「一つ聞きたいんだが、もうすぐで冬なんだろ? 冬は?」


 寒いだろ。


「外に出ない」


 あ、そうですか……


「娼婦と間違えられるなよ」

「間違えられるわよ。私が夜の酒場に行ったら毎回、飲んだくれにいくらって聞かれるわ。そういうわけで王都に行っても夜は基本的に出歩かないから」


 いや、普通の服を着ればいいじゃん。


「やはり王都は華やかなんだろうか?」

「騒がしいだけよ。私はレイラさんに言われた通り、皆に声をかけたら観光モードに入るから」


 アニーがきっぱりとした口調で言う。


「まあ、王様に呼ばれているのは俺だしな。お前らは観光なり、買い物なりしろよ」

「服を買ってくれるのよね?」


 アニーがニヤリと笑う。


「まあ、魔族討伐で金貨50枚を得たし、王様からの褒賞金も出るから買ってやろう。お前らも好きなものを買っていいぞ」


 アニーだけというのはあれなんで3人にも奢ることにした。


「いいの?」


 ナタリアは嬉しそうだ。


「…………さすが如月家34代目当主」


 アリスは覚えていたらしい。


「ユウマはすごいなー! 一生、ついていくよ!」


 リリーは小物だな……

 下っ端根性がすごい。


「マスター、パメラさんにもおみやげを買うことを推奨します」

「元からそのつもりだ」


 当たり前だろ。


「……そうでしたね。でも、装飾品はおやめになった方がよろしいかと」

「なんでだ? 女が好きなのはそれだろ」


 女は甘いものか流行りものかキラキラした物が好きだ。


「あー、うん……まあいっかー…………装飾品でよろしいかと思います」


 装飾品はダメなわけね。

 多分、恋仲同士じゃないと送らないんだろう。

 AIちゃんの反応でわかったわ。





――――――――――――


新作も投稿しております。

読んでもらえると幸いです。


https://kakuyomu.jp/works/16817330669383878816


よろしくお願いいたします。

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