第094話 区長の話


 森を出た俺達は平原を歩き、セリアの町まで戻ってきた。


「ユウマ、区長さんのところに行ってきなよ。私達がギルドに行って精算しておくから」


 西の門を抜け、町に入ると、ナタリアが促してくる。


「そうだな……悪い、任せた」

「いいよ。リリーが獲った獲物の解体もあるし、夕食の買い出しもあるから時間がかかるしね」

「頼むわ。それと夕食にパメラを呼んでおいてくれ。話しておいた方がいいだろ」

「そうだね。わかった」


 俺は精算のことなどをナタリア達に任せると、AIちゃんと共に区長の屋敷に向かう。

 西区の町を歩いていき、以前も来た区長の屋敷まで来ると、以前もいた門番が見えた。


「よう」


 門番に近づくと、声をかける。


「ああ……こんにちは。区長ですかね?」

「呼んでいると聞いてな。おられるか?」

「はい。少々お待ちください」


 門番はそう答えると、屋敷に向かって駆けていった。


「メイドさんに金貨1枚」

「賭けにならんなー」


 絶対にこの前のメイドだろ。


 俺とAIちゃんがそう予想しながら待っていると、予想通り、門番と共にこの前も案内してくれた若い女のメイドがやってくる。


「区長が会われるそうです。この者についていってください」

「はいはい」


 俺達はメイドに案内され、歩いていった。

 そして、屋敷に入ると、この前も来た区長の部屋の前で立ち止まる。


「区長、ユウマ様をお連れしました」


 メイドが扉をノックし、声をかけた。


『入ってもらってくれ』


 中から入室の許可の声が聞こえると、メイドが扉を開け、部屋に入るように促してきたため、部屋に入る。


「座ってくれたまえ」


 ソファーに腰かけている区長が立ち上がり、対面のソファーに座るように促してきた。

 俺とAIちゃんはソファーまで行くと、言われた通りに座る。

 すると、区長も座り、メイドがテーブルにお茶とお茶請けのお菓子を用意した。


「失礼します」


 用意を終えたメイドは深く頭を下げると、退室していった。


「呼び出してわざわざすまないね」


 区長がそう言いながらお茶を飲んだので俺達も飲む。


「いや、王家がらみの話だろう? 外で話すことじゃない」

「そうなんだよ。あまり表で話せる内容でもないしね」


 魔族がらみだしな。


「それで?」

「ああ。まずは魔族討伐の褒賞金を出そう。すまんが、今はあまり出せなくてね」


 区長はそう言うと、どこからともなく、小袋を取り出し、テーブルに置いた。

 俺はそれを手に取ると、AIちゃんに渡す。

 すると、AIちゃんが空間魔法で収納した。


『マスター、金貨が50枚です』

『まあまあだな』

『王都旅行のおこづかいです』

『それはいいな』


 米を買いたいし。


「確かに受け取った」

「ああ。それでなんだが、本題だ。想像がついているだろうが、王家から呼び出しが来た。しかも、国王陛下の名前でだ」


 それはすごいわ。


「国賓か?」

「そこまでのことじゃないがね。さっきも言ったが、表立って話せることじゃないから」


 それもそうか。


「貴族と言ったことが効いたか」

「おそらくね。異世界の国とはいえ、王族の末裔の貴族に無礼を働くのはさすがに国王陛下でも厳しいだろう」

「他国に笑われるからな」


 ここは王の度量を示すところだ。


「そうかもね。とにかく、陛下としては一度会って話を聞きたいそうだ。もちろん、謝礼のこともある」

「日取りは?」

「正式な歓迎をするわけではないから特に決まっていない。パーティーをするわけでもないからね」


 パーティーなんか絶対に参加したくないわ。


「それでいい。日取りが決まってないとはいえ、急ぎだろう?」

「ああ。そうしてくれるとこちらも助かる」


 俺には強く出ないだろうが、区長には強く出ているんだろうな。

 パメラの親父だし、急ぐか。


「急いで王都に向かおう。馬車を用意してくれ」

「それはもちろんだよ。えーっと、君とその子ともう2人でいいんだっけ?」


 前にナタリアとアリスのことは言ったな。


「すまんが、もう2人ほど追加で頼む。パーティーメンバーだ」

「つまり6人か……わかった。そうしよう」

「王都についたらどうすればいいんだ?」

「まずは事情を知っているギルドに向かってくれ。そうすれば王都のギルマスが王家に繋ぐだろう。謁見がいつになるかはわからないが、それまでは王都観光なり、冒険者らしく仕事をするなりしてくれ」


 この国ではどうか知らんが、謁見の申し込みって時間がかかるんだよなー……

 もしかしたら長期になるかもしれん。


「宿はどうすればいい?」

「私の名で宿を借りることになっている。料金もこちらに請求書が来る。これをギルドに渡してくれ。その辺の事情なんかが書いてあるからあとはギルドがやってくれる」


 区長はそう言って、封筒をテーブルに置いた。


「至れり尽くせりだな」

「それだけの功績があるということだよ。王都のギルマスも事情は知っているし、悪いようにはしないだろう」


 完全に英雄の扱いだな。

 これはちょっとマズい。


「わかった。感謝する。明日にでも出たいが、俺のパーティーは女ばかりだ。出発には時間がかかると思うから3日後でもいいか?」

「十分だよ。馬車なら2、3日で着くし、早い方だ」

「じゃあ、頼むわ」


 俺は話を終えると、お茶を飲み干し、AIちゃんと共に屋敷を出て、ギルドの寮に向かう。


「どうします?」


 歩いていると、AIちゃんが聞いてくる。


「王都にはあまり長居できんな。話を終えたらさっさと戻った方がいい」

「それがよろしいかと。このままだと政治に巻き込まれます。この地でゆっくりと過ごされた方がいいでしょう」


 何が悲しくて他国の政治に関わらないといけないのか。

 絶対に拒否だな。


「何があると思う?」

「マスターが仕官を断りましたからAランク冒険者にし、王都のギルドに留まるように仕向けられると思われます」

「断る方法は?」

「パメラさんにお願いするのがいいかと……」


 パメラか。

 この町のギルドの職員で区長の娘……


「任せる」

「かしこまりました。私はギルドに向かいますので先に帰っていてください」


 AIちゃんがそう言って、ギルドの方に向かって歩いていったので俺は先に寮に戻ることにした。

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