第072話 チンピラ


 俺達が帰ろうと思い、遺跡中央の広場まで戻ると嫌な3人組がいた。


「行くわよ」


 アニーが3人を無視して、歩いて通りすぎようとする。

 しかし、アニーが動いたと同時に3人組がアニーに向かって動き出した。


「下がれ」


 俺はアニーの肩を掴んで下がらせると、前に出る。

 すると、アニーは素直に俺の後ろに下がった。

 そして、そのまま俺を先頭に歩いていくと、予想通り、3人組が俺達の前に立ちはだかる。


「何か用か? お前らに言われた通り、南の森に行くのはやめたんだが……」


 進行方向にいる不機嫌そうなサイラスに声をかけた。


「ああん!? こいつらを可愛がってくれたらしいな」


 本当にチンピラだな……


「可愛がった記憶はないな。ウチの狛ちゃんと遊んでくれた優しいお兄さん達だろう?」


 そう言うと、女性陣の前に座っている狛ちゃんが尻尾を振り始める。


「死にてーか、お前?」

「この前死んだばかりだから当分は死ぬ気はないな」

「舐めてるのか?」

「いや、何をそんなに怒っているんだ?」


 こいつ、ずっと怒っているというか不機嫌だ。

 人生を損していると思う。


「……てめーから手を出したんだから覚悟はできてるだろ」


 サイラスはそう言うと、剣を抜いた。

 すると、後ろにいるアニーとアリスが杖を構えたので後ろを振り向くと、手で制した。

 そして、2人が杖を下ろしたので剣を持っているサイラスの方を向く。


「サイラス、先に手を出したのはそいつらだぞ。狛ちゃんは守っただけだ」


 正当防衛だと思う。


「関係ねーよ」


 ハァ……チンピラと会話をしようとした俺がバカだったわ。


「サイラス、女に絡むのをやめろ。俺はパーティーリーダーだから仲間を守る責務がある」

「俺も仲間を守る責務があるんだよ」


 じゃあ、こんなところまで来るなよ。


「一応、聞いておこう。どうする気だ?」

「なーに殺しはしねーよ。多少、痛い目を見てもらうだけだ」


 俺はともかく、女相手に何を言っているんだ、こいつは……


「痛い目を見るのはお前になるぞ?」


 俺がそう言うと、サイラスは一瞬、笑った。

 しかし、すぐに不機嫌な顔に戻ると、腰を少し落とす。


「期待のルーキーだか有望株だか知らねーけど、調子に乗るなよ!」


 来るな……


「調子に乗っているのはどう考えてもお前だろ」

「ちょっと強い従魔がいるからって図に乗るなっ!」


 サイラスが剣を振りかぶり、踏み込んできた。


「ユウマ!」


 後ろからナタリアの声が聞こえたが、それと同時に俺の肩にサイラスの剣が当たる。

 だが、当然ながら、俺を斬ることはできない。


「なっ!」

「術者が式神よりも弱いと思ったか? それ以前にお前、弱すぎるわ」

「クソッ!」


 サイラスは後ろに飛んで一度距離を取る。


「アホが……下がるならもう少し下がれ」


 サイラスは2、3メートルしか下がっていない。

 俺はそんなサイラスに向かって踏み込んだ。

 それを見たサイラスが剣を構えるがすでに遅く、サイラスが何かをする前に俺の足がサイラスの腹に刺さり、サイラスの身体がくの字に曲がる。


「がっ……!」


 サイラスは剣を落とし、膝をついた。

 そして、何とか立とうとするが、そのまま前のめりに倒れ、動かなくなる。


「て、てめー!」

「やりやがったな!」


 残っているパットとリックが憤慨し、剣を抜いた。


「お前らもやるか? お前らも倒れたら誰も助けがなく、ゾンビかスケルトンのエサだぞ?」


 昨日は周りに冒険者が多くいた。

 だが、今日はいない。

 いても東区の冒険者が西区のチンピラを助けてくれるかは微妙だが……


「くっ……!」

「卑怯だぞ!」


 卑怯って……

 ダメだ、こいつらの言っていることを理解するのが難しい。


「話にならんわ。帰ろうぜ」


 俺はそう言いながら女4人とひたすら地図を描いているAIちゃんを先に行かせる。

 狛ちゃんを先頭に5人がこの広場から離れると、俺もそれを追うために歩き始めた。


「ただで済むと思うなよ!」


 アホが何かを言っている。


「捨て台詞を吐くのはいいが、時と場合を考えろよ。俺が悪い人間だったらそれを聞いただけで殺すと思うぞ」

「ぐっ!」


 知能も低く、態度も悪い。

 それでいて自分より弱そうな相手にしか強気になれない。

 良いところが本当にないな。


「サイラスが起きたら伝えろ。ケンカ相手を選ぶは結構だが、ちゃんと見極めろ」


 俺に勝てると思ったのかね?

 まあ、思ったんだろうけど。


 俺はさっさとこの場から離れると、早歩きで5人の後を追う。

 そして、すぐに追いつくと、地図を描いているAIちゃんの頭を撫でた。


「殺してもよろしかったと思いますよ」


 AIちゃんが地図を描きながら言う。


「人を殺すのは俺の役目じゃない」


 というか、小物すぎて俺の手を汚すまでもない相手だ。

 一言で言えば眼中にない。


「逆恨みが怖いですねー」

「ギルドに報告すれば対処してくれるだろ」

「どうですかねー?」


 ダメならダメでいい。

 次は殺す。

 俺は寛大だが、2度目はないのだ。

 まあ、女にしか強く出られないあいつらにそれができる度胸があるとは思えんがね。


「ああいう場合の正解って何だ?」

「さすがに剣を抜いて、攻撃してきた時点で向こうが悪いですよ。殺されても文句は言えませんし、普通に犯罪者です」

「一応、そういうのはあるんだな。冒険者なんて好き勝手やってると思った」


 前にギルド内での私闘は禁止って聞いた時にそう思った。

 ギルドの外ならいいってことだし。


「その認識は間違ってはいませんが、程度がありますよ。今回はさすがにアウトです。殺人未遂に婦女暴行未遂ですよ」


 婦女暴行は微妙だけどな。

 さすがに魔物がいるようなところでそんなことはしないだろうし、他の冒険者だっている。


「一応、レイラの耳にも入れておくか」


 クランリーダーだし、どうにかしてほしいもんだわ。


「今のあの人が動きますかねー? 昔ならクランごと潰すでしょうけど……」


 わからん。

 性格が丸くなりすぎて、蛇がミミズになってるし。

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