第022話 泥まみれの猪


 俺達が敷物を敷き、腰を下ろしながら待っていると、ビッグボアが沼から浮いてきた。


「あ、浮くんだ」

「…………死んだのかな?」


 どうだろう?


「敵性反応が消滅しました。ビッグボアは死亡したと思われます」


 すでに地図を描き終えているAIちゃんが教えてくれる。


「AIちゃん、回収してきて」

「わかりました。カラスちゃーん!」


 AIちゃんは頷くと上空のカラスちゃんを呼ぶ。

 すると、カラスちゃんはすぐに降りてきて、AIちゃんの肩にとまった。


「カラスちゃん、あそこまで連れていって」

「…………カー」


 カラスちゃんは心なしか嫌そうだが、AIちゃんを掴むと、一生懸命羽ばたき、AIちゃんを浮かす。

 そして、ビッグボアのところまで行くと、AIちゃんが宙に浮きながらビッグボアに触れた。

 すると、ビッグボアが消えたので術を解き、沼をさっきまでの地面に戻す。


「もういいぞー」


 俺がそう言うと、カラスちゃんはゆっくりAIちゃんを地面に下ろし、AIちゃんの肩にとまった。

 カラスちゃんは普通にとまっているだけだが、何故か、ものすごい疲れているように見えてしまう。


「よし、終わった。帰るぞ」


 俺がそう言って立ち上がると、ナタリアとアリスも立ち上がる。


「あ、うん」

「…………何もしてない」

「案内してくれたし、魔法をかけてくれただろう。それで十分」


 というか、突っ込むしか脳のない猪程度ならこんなもんだろう。


「う、うん」

「…………まあいいか。さっさと帰って猪肉を食べよう」

 

 俺達は帰ることにし、引き返していく。

 すると、道中にいくつかの冒険者グループとすれ違った。


「緊急依頼が出て、ビッグボアを狩りに行く奴らか?」

「多分そう。もう昼くらいだし、ちょっと早いと思うけど、早いクランやパーティーは動き出すと思う」

「…………西区の冒険者じゃなかったね」


 争奪戦なわけだ。

 もう獲物はいないけど。


「AIちゃん、地図を見せて」


 AIちゃんに頼むと、AIちゃんが空間魔法から地図を取り出し、見せてくれる。

 その地図は相変わらず精巧であり、パメラからもらった落書きと比べると、雲泥の差だった。


「現在の位置はここですね。ビッグボアがいたのはここです」


 AIちゃんが指差しながら教えてくれる。


「こうやって見ると、わかりやすいな」


 西門の西は平原であり、その先が深い森となっている。


「私達が転生した森はここより南になると思います」


 俺達は南からやってきて、西門に入ったのだろう。


「本当にすごい地図だね」

「…………カラスちゃんがいたら森で迷子になることもないだろうね」


 ナタリアとアリスがそう言うと、カラスちゃんは少し誇らしげだ。

 なんかこいつまで意思を持っているような気がしてきた。

 AIちゃんの影響だろうか?


 俺はカラスちゃんはともかく、大蜘蛛ちゃんや大ムカデちゃんは意思を持たれたら嫌だなーと思いながら町へと戻っていった。


 町に戻ると、門をくぐり、ギルドに向かう。

 ギルドに着いた頃は昼を過ぎたあたりになっているせいか他の冒険者の姿は見えない。


「あれ? もう終わったんですか?」


 ギルドに入ってきた俺達に気付いたパメラが声をかけてきた。


「あの程度はすぐだ。それにしても帰りに結構な数の冒険者とすれ違ったぞ」


 受付に近づきながら答える。


「昼に掲示することになってたんだけど、他所のギルドは早めに掲示したらしいんですよ。まあ、たまにあることなんです。住民の安全のためって言われたら文句も言いづらいし」


 いや、困ったわーって顔をしているが、俺はお前から朝、聞いたぞ。

 そして、同じ言い訳をするんだろうが。


「ふーん……無駄足を踏ませてしまって悪いな……」

「いいの、いいの。そもそもウチのギルドには掲示してないし、他所のギルドのことなんか知らないです」


 仲悪いなー……


「まあいいや。AIちゃんが収納しているが、どうする? 裏の解体場だったっけ?」

「そうですね。ついてきてください」


 パメラはそう言って立ち上がると、受付から出てきた。

 そして、扉に向かって歩いていったので俺達も続く。


「外か……」

「依頼とは関係なく、解体を頼む人もいますからね。有料だけど」


 解体屋さんか……

 魚も捌けない俺は活用するかもしれない。


 俺達がギルドの裏に回ると、大きな建物があった。

 パメラがそのまま建物に入っていったのであとに続くと、建物の中は1つの大きな部屋となっており、あちこちで職人らしき人達が様々なものを解体していた。


「バートさん!」


 パメラが大きな声を出すと、奥で指示を出していたおっさんがこちらを向いた。


「なんだ? 新しい仕事か?」


 バートと呼ばれた男がそう言いながら近づいてくる。


「ほら、例のビッグボア。こちらのユウマさんが仕留めたの」


 パメラが俺を紹介する。

 すると、おっさんがジロジロと俺を見てきた。


「見たことねーな。ルーキーか?」

「ええ。昨日、この町にやってきて冒険者になったの。転生者さんよ」

「なるほどなー……それで早速、粉をかけてるのか?」


 バートがナタリアとアリスを見ながら笑う。


「違うよー」

「…………違うよー」


 棒読みだし。


「ふん。まあ、ハリソンの坊主が抜けたんだし、いいんじゃねーの?」

「だから違うってー」

「…………違うよー」


 このやり取り、まだやるのかね?


「お前らの思惑なんかどうでもいいから出してもいいか? 俺は午後から買い物に行かないといけないんだ」

「せっかちな兄ちゃんだな」

「一文無しなんだよ。むしろ、ナタリアに借金まであるんだ」


 金貨1枚だけど。


「あー、昨日、冒険者になったばっかりって言ってたな。いいぞ。出してくれ」

「AIちゃん、おねがい」

「わかりました」


 AIちゃんが頷くと、手を掲げた。

 すると、何もないところに巨大な猪が現れる。


「おー! すげー! このサイズはなかなか見ないぞ! しかし、汚いな……泥か?」


 確かに汚い……

 洗ってくれば良かったな……

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