第020話 初依頼


 俺はAIちゃんが空間魔法を覚え、依頼を受注したので依頼票を見ているナタリアとアリスのもとに向かう。

 依頼票の前にはまだ人がいるものの、来た時よりかは人数が減っていた。


「どうだ?」


 2人に近づくと、声をかける。


「いいのは取られてる」

「…………ロクなのがない」


 女子2人にあの人ごみは無理か。


「お前ら、普段はどうしているんだ?」

「私達はCランクパーティーでそこそこ上の方だから普段は仕事が被らないんだよ」

「…………冒険者はDランクが一番多いからね。でも、今の私達は2人だし、Dランクの仕事くらいしか受けられない。そうなると、ロクな仕事が残っていない。この前の盗賊狩りも良い仕事ではない」


 2人いないんだもんな。


「あの仕事って良い仕事じゃなかったのか? あんな雑魚で金貨20枚なら良いと思ったが」

「遠いからねー。泊まりは危険だし、盗賊はたまに兵士や傭兵崩れとかいるから怖いんだよ」

「…………あの盗賊は弱かったけど、できたら強さがわかっている魔物の方が良い。素材を売れるから追加料金が出るし」


 人相手は割に合わないわけか。


「じゃあ、暇だな。ビッグボアの討伐依頼を受けたから手伝ってくれ。まず、このチリル平原ってどこだ?」


 俺はパメラからもらった落書きみたいな地図を見せる。


「西門を出て、ちょっと行ったところだね。森の前だと思う…………ん? ビッグボア?」

「…………なんでそんなものがチリル平原に?」


 知らない。


「緊急依頼を先んじて回してもらった。でも、昼になると争奪戦になりそうだから早く行った方がいいっぽい」

「そりゃそうだろうねー……西区はもちろんだけど、ビッグボアなら他所の区の冒険者も出張ってくるよ」

「…………というか、Cランクの仕事だと思う」


 パメラは相当、職権乱用してるな。


「ありがたいことだ。今度、奢ってやろう。そういうわけで案内してくれ」

「うん、わかった」

「…………牙とか毛皮はいらないけど、肉は分けてね。今日の晩御飯にする」


 それは良い考えだ。

 牡丹鍋を食べたいわ。

 鍋があるか知らんが。


「じゃあ、さっさと行こう。俺は午後から買い物とかにも行きたいんだ」

「わかった。じゃあ、ついてきて」


 ナタリアが笑顔で頷く。


「…………れっつごー」

「ごー」


 チビ2人が手を上げた姿は非常に可愛らしい。


 俺はそんな2人に満足しながらギルドを出ると、ナタリアに案内され、門まで行く。

 門は昨日、俺達が通った場所でどうやらここが西門のようだった。


「馬車は?」

「そこまで遠くないから歩きだね。馬車も高いんだよ」

「…………私達は誰も馬車を操れないから自動で動く賢い馬を使わないといけない。当然、高い」


 この世界の馬は頭が良いと思ったが、個体によるらしい。


「乗れる式神もいるんだが、やめた方が良いだろうな……」

「そうなの? どんなやつ?」

「…………気になる」


 2人が食いついた。


「でっかいムカデかでっかい蜘蛛かでっかい蜂」

「私は何も聞かなかった……」

「…………乗りたくない」


 ほらね。

 虫は女子受けしないもん。

 俺と弟は子供の頃に虫取りをして、キャッキャしてたが、妹はドン引きしてた記憶がある。

 なお、捕まえた虫を母上に見せたら『親孝行じゃのう』と言いながら俺達が捕まえた虫を取り上げ、そのまま食った。

 泣いた。


「私が背負いましょうか?」


 AIちゃんがそう言うと、俺達は無言でAIちゃんを見る。


「能力的にはできるだろうが、嫌。きっついわ」

「ひどい絵面ね」

「…………小さい私でもきついと思う」


 だろうな。


「歩こう。AIちゃん、チリル平原とやらの地図を描いてよ」

「わかりました」


 AIちゃんが頷くと、紙とペンを取り出した。


「今日も描くんだ。あー……いるね」

「…………ホントだ。いつの間に」


 ナタリアとアリスが上を見上げると、カラスちゃんが上空を飛んでいた。


「クランの寮を出た時からついてきてるぞ」

「これ、怖い気がする。こっちの行動が筒抜けじゃん」

「…………ストーカー」


 偵察用だからなー。

 まあ、本当に追跡しようと思ったら見つけにくい小さな虫を服とかに付けることもできるんだが、言わないようにしておこう。

 多分、引かれる。


「そんなことには使わないから安心しろ」

「まあ、上を見上げればわかるしね。あんな鳥、見たことないし」

「…………真っ黒で目立つしね」


 どうやらこの世界にはカラスがいないらしい。


「じゃあ、行こうか」


 俺達は門を抜け、ビッグボア狩りに向け、出発した。

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