第004話 若さは素晴らしい
「では、参りましょう。人里はこっちになります」
俺はAIちゃんの案内の元、歩き出した。
「若い身体っていうのは本当に良いな」
歩き出したら本当にすごいと思う。
苦もなく歩ける。
「スケベジジイ……」
隣を歩くAIちゃんが自分の身体を抱くようにし、ジト目で見上げてくる。
「自分の身体のことだよ!」
「いやー、10人以上も奥さんがいて、30人以上のお子さんがいた人ですからねー。本当に愛が多い方でした」
すげー!
もはや将軍様じゃん。
「それマジなん? どんだけ女好きなんだよ」
自分のことながら引くわ。
「まあ、色々と事情もあったのですよ。女好きなのはその通りなんですけどね」
そうかなー?
俺も男だから当然、そういう気持ちもあるが、別に女がいないとダメっていうわけではない。
もちろん、当主だし、跡取りが必要だから女っ気がないっていうのもそれはそれで問題なんだが。
「俺がそうなるのかー……」
「前世の話ですよ。これから別の道を歩むマスターは違う人生を歩むでしょう」
それもそうだな。
この人生では必ずしも子供が必要なわけではないし、嫁を取らないといけないということもない。
適当にやるか……
俺達はその後も森の中を進んでいく。
しばらく進んでいると、足を止めた。
「マスター? どうされました?」
AIちゃんが見上げながら聞いてくる。
「妖気だな……」
「妖気? 私のセンサーには何も感じませんが?」
センサー?
「センサーとは何だ?」
「私の機能はいくつかあるのですか、その一つが周囲の敵情報を探知することなんです」
そりゃ便利だな。
「ここより5町くらいだな」
「5町……5町!? 550メートルですか!?」
メートル?
「メートルって?」
「この世界の単位です。後でこっちの世界の単位を教えましょう……って、違います! なんでそんな先の妖気を探れるんですか!? 私のセンサーは30メートルですよ!」
30メートル……つまり10丈か。
「たいしたことではない。隠されたらわからんが、こんな駄々洩れではさすがにわかる。これは人ではないな…………妖……いや、魔物だったか? それが10以上はいるな」
「はえー……さすがは名家の当主様ですね。何の魔物ですかね?」
俺が知るわけないだろ。
「さあな? 行ってみるか?」
「危険では?」
「この程度なら相手ではない。それに魔物以外にもわずかだが、違う力を感じる」
妖気ではない。
微妙に似ているが、霊力でもない。
「違う力?」
「うーん……この世界は魔法があるんだったな? それは霊力か?」
「いえ、魔力と呼ばれるものです」
魔力ねー……
「それかもな…………そうなると、人か?」
「その可能性は高いかと。魔物は人を襲います」
前の世界の妖と同じか……
母上のような友好的な妖もいるが、基本は人を襲う。
「見にいってみるかね」
「助けるんです?」
「それが仕事だった。別の人生を歩むことにしたが、陰陽師であることに変わりはないからな。それにこの世界の魔物とやらの程度が知りたい」
ゴブリンは雑魚すぎて何の参考にもならなかった。
「わかりました。いざとなれば、私が盾になりましょう」
「そういえば、お前はその体が消滅したらどうなるんだ?」
この式神は人とほぼ変わらないので耐久性が低い。
「その場合はマスターの中に戻りますので新しい式神を出してください。再び、そちらに移ります。でも、蜘蛛は嫌ですよ」
どうやらAIちゃんはこの式神が気に入ったらしい。
「わかった。たいした霊力は使わんし、問題ない」
式神は高度な術だが、霊力自体はさほど使わないため、皆が重宝しているのだ。
「お願いします。では、参りましょう」
俺達は妖気と魔力とやらを感じる方向に歩き出した。
そして、そのまま歩いていくと、視界が開けてくる。
しかし、そこは崖であった。
「下ですね」
AIちゃんが言うように崖の下は道になっており、そこで全身を覆う金属鎧を着た兵士らしき者達が槍を持って10以上はいる二足歩行の猪と戦っていた。
「なんだあれ?」
「あれはオークです。知能は低いですが、怪力を誇る豚の魔物です」
へー……
こうやって見ると、本当に異世界だな。
「厳しそうだな……」
兵士は善戦しているようだが、馬車と思わしきものを守りながら戦っているため、旗色が悪い。
「オークはDランクの魔物になります」
「ランクって?」
「強さを表したものです。A、B、C、D、E、Fというのがあるんです。これも後で説明いたしましょう。とにかく、先程のゴブリンより数段格上の魔物ということです。しかし、変ですね。こんな所にオークがあんなにいるなんて……」
オークとやらの生態を知らんからよくわからんが、確かにゴブリンより上だな。
妖気自体はそこまでだが、単純に身体が大きいし、力も強そうだ。
いくら全身金属鎧でも厳しいだろう。
「さて、どうするか……」
悩むな……
「助けないんです? マスターでも厳しいのでしょうか?」
「馬鹿言え。あんなもん、どれだけの数がいようが、俺の敵ではないわ。問題はあの馬車だ。どう見ても高級そうだ。貴族か王族か……」
「だと思います。恩でも売ります?」
うーん……
「こっちの世界のことは知らないが、そういうのって面倒ではないか?」
「さすがはマスター。御明察です。どこの世界も貴族や王族はうるさいものです」
「嫌味か?」
俺の家は王族の一族の貴族だ。
名家中の名家であり、国では五指に入る。
「ご自分でおっしゃったんじゃないですか……」
「まあな。自分だって庶民にどう思われているかはわかっている」
「いえいえ。如月の家はそんな庶民を妖から守ってきた陰陽師の家系ではないですか」
慰めかね?
そんなもんはいらないが……
「まあ、俺の家はいい。問題はあれを助けて面倒なことにならないか、だ」
「なるかもしれません。士官を強要されたり、変に怪しまれるかもしれませんね」
どっちもごめんだな。
「とはいえ、見捨てるのはどうかと思うな。よし! オークとやら実力を見たいし、助けてやろう」
「どうするんです?」
「せっかくだし、大蜘蛛ちゃんを嫌っているお前に大蜘蛛ちゃんの素晴らしさを教えてやろう」
俺はそう言うと、懐から札を取り出し、霊力を込める。
そして、その札を崖の下に投げた。
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