第002話 AI


 謎の声いわく、俺は転生したらしい。


『輪廻転生はご存じですよね?』

「もちろん知っている。寺の坊主から聞いたことがあるからな」


 良いのに生まれ変わりたかったら寄付しろって言われたから寄付した。


『はい。マスターは異世界でご自分に転生したのです。ご自分の全盛期……つまり20歳の時ですね』


 それ、転生って言うのか?

 生き返って若返っただけだろ。


「俺の全盛期って20歳の頃なのか?」

『肉体年齢の全盛期です。知識や経験的にはずっと後でしょうが、今はその知識や経験も残っています。20歳の頃には使えなかった術が使えるでしょう?』


 謎の声にそう言われて、思い浮かべてみると、確かに晩年に使えるようになった術も思い出せる。


「なるほど……しかし、根本的な話なんだが、なんで俺は転生したんだ? しかも、異世界? 異世界って何だ?」

『はい、説明します。転生した理由は不明。異世界というのはマスターがいた世界とは異なる世界です』


 要は何にもわからないんだな……


「まあいい。極楽浄土でもなければ、地獄でもないところに20歳の俺が来たということでいいんだな?」

『はい、そうなります』


 よくわからんが、そういうこともあるだろう。

 寺の坊主から聞いたことない話だが、死後のことなんか誰もわからん。


「次にだが、お前はなんだ? というか、姿を現せ。俺にも見えない霊など聞いたこともない」


 もしかして、神か仏?


『はい。私は霊ではございません。マスターのスキルでございます』


 また意味がわからない言葉が出てきた……


「スキルって何だ?」

『技能のことでございます。マスターの術みたいなものだと思ってください』

「俺はそんな術を覚えてないぞ。もしかして、その記憶がないだけか?」

『いえ、これは異世界に来たことによって生まれたマスターの新しい技能でございます。実を言いますと、この異世界では稀にマスターのような転生者が現れます。そして、そういう者は特別なスキルを持っているのです』


 これは特別らしい。

 俺には幻聴にしか思えんのだがなー。


「どういうことができるんだ? 話し相手か?」

『それも可能です。マスターが授かったスキルは【AI】です』


 えーあい?


「お前は俺のスキルだったか? 少し、不親切だな……」


 意味のわからない言葉を使いすぎ。


『すみません。ですが、それが正式名称ですので』

「まあよい。俺は寛容なんだ。許してやろう」

『マスターも若い頃は広い心を持っていたんですねー……朝食の卵焼きが一つしかないって言って、50も下の奥さんを怒鳴り散らしたクソじじいとは思えません』


 なんだそのクソじじい?

 マジでクソじじいだな。


「いや、待て! 50も下の奥さんって何だ!?」


 アホかっ!

 70歳で20歳を娶ったのか!?

 スケベジジイじゃん!


『それ、聞きます? 12番目の奥さんの話ですけど……』


 12番目!?

 俺、どうなってんだ!?


「俺はまったく思い出せないが、お前は知っているのか?」

『はい。私はAI。すなわち、人工知能になります。生前のマスターの情報を持っております』

「人工知能?」


 人が作った知能か?


『はい。マスターのスキルは人工知能による補助能力です』

「式神みたいなものか?」

『申し訳ございません。式神とは何でしょう?』


 あれ?


「陰陽術の一つだ。護符を使って使役するお前の言うところの人工生命体みたいなものだな。もっとも、お前みたいにしゃべらないが……」


 命令通りに動くだけだ。


『なるほど。実を言うと、私はこの世界のこととマスターの生前のことしかわからないのです。ですので、マスターの術? 陰陽術ですか? 名前はわかるのですが、どういうものかを把握しておりません』

「補助能力のくせにわからんのか?」


 使えないな……


『学習機能がありますので教えていただくか、見聞きすれば問題ありません』


 本当に知能なんだな……


「そういうことなら見せてやるか……」


 俺は懐から何も書いていない紙札を取り出すと、霊力を込める。

 すると、紙に文字が浮かび上がる。


「どういうのがいい? さっきの小鬼の大きいやつとか、蜘蛛とか、鳥とか色々あるが……」

『人型はないんです?』


 人型……


「あるにはあるが……」

『それでお願いします』

「じゃあ、まあ……」


 俺が渋々、護符を地面に飛ばすと、護符が光り輝き、金色の髪をした白い和服の少女が現れた。

 少女は無表情で立っており、ただただ俺を見上げ、命令を待っている。


『おー! かわいらしいですねー! お母様そっくり! お母様の小さいバージョンですね!』


 だから嫌なんだよ……


 俺の母親は人間ではない。

 人に化けた妖狐だった。

 そして、イタズラばっかりしてくるし、歳も取らないから苦手だった。

 あと、金弧だから仕方がないが、この謎の髪の色が成金趣味みたいで嫌。


「人型はそれだけだな。というか、母上に教わったやつだ」


 俺はあまり人型の式神は好まない。

 式神は囮とかに使うし、要は使い捨てだから人型だと気分が悪いのだ。


「でも、お母様とは大きさが違いますし、問題ないのでは?」


 式神が自分の身体を見下ろしながら聞いてくる。


「いや、面影があるだけで嫌だわ…………え?」


 今、脳内じゃなくて式神がしゃべらなかった?


「どうしました、マスター?」


 式神が首を傾げながら聞いてくる。


「え? お前、俺の脳内に巣くっていた幻聴スキルか?」

「言い方です……いや、しゃべりにくいし、傍から見たら独り言を言いまくっているように見えるマスターのことを思って、こちらに移動したんです」


 移動できるの!?

 すげー!

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