6章 - 05

念のためあたりを見渡し、私以外の魔力も探る。


ここには私一人のようだ。




腹に隠していた寄生樹を吐き出し、元の大きさに戻す。


すると、寄生樹は法律の樹に取りつこうと枝や根をうねうねと動かし始めた。


掴んでいる私の手から逃れようと、私の手首にも絡みつく。


人間に勝つための大切なモノとはいえ、おぞましさを感じた。




振り払いたい気持ちを抑え、膝をついて地面近くで寄生樹を離した。




それからの光景は、さらに恐ろしいものであった。


寄生樹はまるで子供の断末魔のような叫びをあげると、ワインボトルほどの植木が凄まじい勢いで伸びた。




根は地面へ入った。少しずつ地鳴りが響くようになり、寄生樹の根が地下深くで広がっているのを感じた。


パキパキと何かを裂くような音がしたのであたりを見ると、寄生樹の根は地面だけでなく、法律の樹の根の中まで掘り進めていた。


突き抜けた根が外に出てしまったことに気が付くと、そこで動きが止まった。代わりにまだ中にある部分から新しい根が生えて、さらに中を突き進む。




幹は法律の樹に巻き付きながら上へ登っていった。


すぐに先端が見えなくなったので目線を下に戻すと、いつの間にか何本も枝を増やしている。




その枝は、さらに枝別れを繰り返し、法律の樹を覆っていく。


よく見ると、法律の樹の中に入って行く枝もあり、まるで浮き出た血管のようであった。


そして、ある程度大きくなった枝からは、青い葉が茂り始める。




私は息を飲んだ。


法律の樹を容赦なく乗っ取ろうとする寄生樹への恐怖と、これで世界が生まれ変わると思う期待が入り混じる。


私はこの瞬間に神々しさを感じているのかもしれない。


任務をやり遂げた達成感よりも、その壮大さに自分を見失っていた。世界からしたら魔族一人など、砂漠の砂粒にも満たない。




少し離れた所で巨大な枝が落ちた。


寄生樹の浸食で、法律の樹の枝が折れたのだろう。


その音で私は我に返った。


ここから早く去ろう。私は扉へと駆けた。




ハイネと戦った部屋には誰もいなかった。


ボロボロな外壁と血だまりの跡だけが、戦闘があったことを記録している。




さらに外へ出ると、部下達が入口を固めていた。




「フォース様、ご無事でしたか!?」




外側を警戒していた部下達が一斉に私の方を向いた。


そして、驚いた顔に変わる。




まず、だらりと垂れるだけの穴だらけな左腕が目に入る。


そこから体に目を移すと、切り傷、火傷、打撲、凍傷など、ダメージが無いところを探す方が難しいくらい傷だらけ。


そして、その上には乾いた特性の粘液が少し張り付いている。




こんな苦戦を強いられたのはいつ以来だろうか。


初期からいる部下ならともかく、あからさまにダメージを負っている私を見たのが初めてな者もいるかもしれない。




「す・すぐに治療を!」


「いや、まだ動ける。それよりもここを離れるのが先だ」




すぐに指示を出すが、部下の動きがにぶい。私のこの姿が思いのほかショックだったのかもしれない。


ふぅ…と息をつく。




「この一帯に人間はいない、だから飛行して最速で戻るぞ。私を急いで休ませろ」




それを聞いてからは、部下達は俊敏であった。


すぐに飛行具を用意すると、真っ先に私を飛ばした。


私が途中で落ちないか心配になったのか、二人ほど部下が近くにいる。




しばらく飛んだ後、私は振り返って法律の樹を見た。


大樹の大半が寄生樹に覆われて、青あざのようになっていた。


枝はしなって下を向き、代わりに寄生樹の枝が天に伸びていた。




作戦成功の知らせはいらないだろう。あれはどう見ても、法律の樹の最後だ。

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