4章 - 04

『法律の樹』とは、人間界の中核である。地図の上に堂々と鎮座している大樹のことだ。


魔族の魔力を吸い上げる魔素は、この樹から発せられ、人間界に満ちている。


人間界はこの樹に守られている。故に、この樹がなくなってしまえば、人間界は消滅したと言っても過言ではない。




法壊機によって、魔界の魔素が世界を覆えば、法律の樹も次第に枯れていくだろう。


しかし、それではあまりに時間がかかる。その間に人間たちが何をしてくるかわからない。




だから、魔界が法律の樹に届いた今、全勢力を持ってあの樹を打ち倒す。


正面から突破して切り倒す。後ろから私が腐らせる。


二段構えの作戦に、私は勝利のイメージしか浮かばなかった。




四天王の会合から少し時は経ち、我々魔王軍は法律の樹を目標に進軍を始めていた。


大地を埋め尽くす陸軍、それを覆い隠す空軍、その後に続く魔道軍。


私は魔鳥に乗り、さらに上空からそれを眺めていた。




これまで積み上げてきたもの。何か一つでも欠けていたら、私はまだあの中の一部か、もしかしたら、隊に加わることもなかったかもしれない。


よくここまでこれたものだ。あまりに豪快な光景に、私は少し感傷に浸る。




私なんかが…。


私はまわりより劣っている分、努力でなんとかカバーしてきただけの雑魚であった。


少しだけ知恵が回ったかもしれないが、それでも自他共に認める出来損ないであった。


初めて昇格した時、私はただの笑い者ではいられなくなり、仲間からのやっかみも相手にしなくてはいけなくなった。




自分を取り巻く人数が強さの象徴である風習が魔王軍にはあった。


取り巻きを作る者は自分を誇張するため、その者を取り巻く者はそこから這い上がるため。


良くも悪くも、そういった思惑が重なって集まり、隊が一つ生まれる。


しかし、私は手柄をあげ、位が上がっても孤独であった。


自分でも思った。私についていったところで、先はないだろう。




だから私は自分が優れていると思ったことはなかった。そして、いつも失敗を恐れていた。


私の称号が、どんどん私一人では支えきれなくなっていった。


いつ破滅してもおかしくない。それが私の日常であった。


それでも私が登り続けたのは、そこでしか自分の価値を見い出せなかったからだ。




いつしか私の噂を聞きつけ、私に憧れる杞憂な女がぽつぽつと集まり始めた。


思った通り、見込みのない奴らばかりで、すぐに逃げ出す者も少なくなかった。


誰かを指導するなど、やったことがなかった。だから、いつまでも結果が出なかった。


私と同様に、除け者にされてきた。


女ということでひどい目に合わされる者も出た。


何人も死なせることになった。




それでもついてきた愚かな女達が今、私を取り囲んで誇らしげに空を舞っている。




昨晩の緊急会議も、危険は承知で私についていくと奴らは誓ってくれた。




奴らは私を強い女の象徴だと言ったことがある。


…迷惑な話だ。




私はいつだって、私自身のため、私に手を差し伸べてくれたファーストリアのために戦う。


別に何かを証明するためではない。そんなことは勝手にやっていてほしい。




そう心の中で皮肉って、少しだけ誇らしく思えた。


そう、私は魔王軍の一割を占める女共を束ねる四天王の一人になったのだ。




「フォース様。間もなく人間界に入ります」


「よし、一旦最後尾まで下がるぞ。開戦後、本格的に行動を開始する」




私の合図に合わせて、全員が速度を下げていく。




「人間たち、目にもの見せてやる」




私の闘志は今までの人生の中で最高点に達していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る