1章 - 04

「拉致ですか?」




人間の人質を取ることはよくある戦法だ。だが、それを実行するのはもっと下級な魔族のはず。私も小隊長に上がった時には指示する側に回っていた。




「そう驚くな。お前でなくてはならない理由がある」




少し顔に出してしまっていたのか、ファーストリアはそう付け加えた。




「セカンドムに作らせている装置に、ウィンタラルの王族の魔力が最適なことがわかってな。その中でシロエ王女がその魔力を濃く受け継いでいるようなのだ」




王族の拉致となるとたしかに難易度は高くなる。




「さらに、勇者は今、ウィンタラルに向かっている」




それを聞いた瞬間、私の体に緊張が走った。


四天王になるや、いきなり勇者との戦闘が待っていた。


もちろん勝つ自信はある。しかし、クアドラが敗れている以上、私もただではすまないかもしれない。


不覚にも、最悪の事態を頭に過らせてしまった。




「不安か?」


「いえ!そんなことはありません」




自分の心境を見透かされ、つい語彙を強めてしまった。


私は、あたかも強がっている格好になってしまったことを恥じた。




「勇者など、私が仕留めてみせます」




弱みを見せることなどあってはならないことだ。特に私のような者は。




「勇ましいな。しかし、お前が適任なのはそこではない」


「と、いいますと…」


「勇者がウィンタラルに着くのはまだ先のこと。お前の精鋭部隊なら、半日早く先回りできるはずだ」




そこでようやく、私が適任である理由の察しがついた。




「なるほど、戦闘になってシロエに危害が加わるようなことは避けたいということですね」


「そうだ。さらに、勇者には優秀な預言者が付いているようだ。今この瞬間、奴らは歩を速めているかもしれない」


「最悪戦闘になった場合も考慮しての私、というわけですか」




やるべきことがわかり、私に闘志が湧いてくる。


ファーストリアも、私が意図を理解したことを感じたようだった。




「四天王初の大役、期待しているぞ」


「お任せください、かならずご期待に応えてみせます」




私は胸元に手を添えて、ファーストリアからの激励に答えた。

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