50:必殺の一撃

わざわざこちらにまだ打つ手があることを宣言したフレンさん。


ハッタリだと思わせることが狙いなのだろうか?


それとも単純に俺を勇気付けるためだったのだろうか?


どちらにせよ、時間が無いのでやることは変わらない。




タランチェは俺たちをじわじわと苦しめて殺そうとしているように思える。


もしかしたら、あえて受けることもありえるかもしれない。




ウパが再び赤いクリスタルを展開して、タランチェの動きを止めようとする。


ダメージが返ってきてしまうなら、切り札その2の一撃必殺以外は攻撃できない。




「同じ手は通じないよ」




タランチェが左手を上へかざすと、その上に大きな魔法陣が現れる。


そこから何本もの鎖が蛇のようにうねりながら飛び出し、赤いクリスタルに巻き付く。


赤いクリスタルのエネルギーを吸い取っているのか、鎖は赤く発光し、逆にクリスタルは光を失う。


赤いクリスタルは力つきたかのように地面に落ちて崩れ去った。




その際に巻き上がった土埃を通過して、赤い光線がタランチェの肩に貫く。




「うぐっ」




痛みは感じるようで、タランチェが唸り声を上げた。




「ウパっ!?」




俺がウパに振り向くと、ウパは苦しそうに肩をおさえていた。




「大丈夫!」




ウパが強く答える。


攻撃せずに動きを封じられるほどタランチェは甘い相手ではない。


私なら耐えられる。だから、トドメの一撃をお願い。


そういった思いが俺に伝わってきた。




その確固たる意志に俺も乗る。


俺もサンダーでタランチェを攻撃する。




攻撃するたびにどんどん体が苦しく重くなってくる。


それはタランチェが生き残っていて、なおかつ回復していることを意味する。




裏を返せば、短い時間だけでもダメージが蓄積されていることでもある。


いくらタランチェが強敵でも、体が崩壊していれば隙があるはず。




「エアライド」




俺は捨て身のようにエアライドに身を預けて飛ぶ。


もう半分も力が入らない。


正真正銘のラストチャンス。




「タランチェ!!」




掴みかかろうと腕を広げる。


ボロボロになっているタランチェの姿が煙の奥に見える。




が、タランチェの表情が見える距離まで来て突然止まった。


ニタニタと笑うタランチェ。


左太ももに激痛が走る。何かが貫通している感覚。


完全に勢いを殺された俺は地面に転がる。




すぐに立ち上がれないほどの苦痛。


飛行中を刺されたので、勢いで肉が引きちぎられている。


タランチェを目の前に、考えるよりも先に俺は足を力いっぱい押さえ付けていた。




痛みに耐えるので必死な中、俺の真上を通過する影を感じる。




俺に続いてウパもタランチェに挑んでいく。


手から赤く光る剣を出すと、それをタランチェに突き立てる。




タランチェは黒く光る盾を出し、ウパの剣を受け止める。




目の前に宿敵がいるのに、あと一歩で届かない。


その間にタランチェはみるみる回復していき、俺らは生命力を奪われ続けている。




「タイプスペル:ソナー」




ギリギリまで振動数を調節したソナーから、耳障りな高音が鳴る。


それを一瞬でも嫌ってしまったタランチェの盾がウパの剣に破壊される。




「しまった」




「ああぁぁ!」




ウパが最後の力を振り絞ってタランチェの腹に剣を突き立てる。


血が滴り、タランチェはだらんと腕を落とす。


しかし、顔はウパに向いたまま、痛みを堪えているようだがまだ余裕があった。




「馬鹿だね。たとえ心臓を潰そうが首を切ろうが、私はこの中では不死身だよ」




タランチェの手がウパに伸び、首を絞める。




「このまま死ね」




タランチェが手に力を籠める。




「誰か忘れてない!?」




フレンさんがタランチェの真横に現れる。




「ほぉ」




フレンさんまで接近してくるとは思っていなかったようで、タランチェが少し驚く。




「で?お前は何ができるんだい?」




もう片方の手をフレンさんへ向ける。




「私ができることなんて、こんなもんよ」




フレンさんはそう言って、ある物を投げ渡す。


その武器とも爆弾とも思えない物が軽く放られ、タランチェはうっかりそれを掴んでしまった。




「フレンさん!」




「フレン!」




「シェルタートル!!」




光の球体がタランチェを包み始める。




これは危険だと感じたタランチェは光から逃れようとしたが、今度はウパに手首を掴まれてその場から動けなくなる。


光はタランチェの肘から先だけを残して包み込むと、光の球体は収縮していく。


その際、光は徐々に強固な物質に変化していき、外に出していたタランチェの腕を切り落とす。




「げぼっ、げほ」




タランチェの手から逃れたウパがせき込む。




「ハリネ!ウパ!逃げるわよ!」




フレンさんとウパが俺を抱き起こす。


俺は二人を抱えると、エアライドで遠くへ飛び立った。




シェルタートルは一歩も歩きださない。


その代わり、ミシミシと奇妙な音を立てている。


そして、徐々にヒビが入り、その隙間から凄まじい光が漏れてくる。




その光がこの空間のすべてを照らし始めた瞬間、大爆発を起こした。


音すらも消し飛ばしたかのようなとんでもない威力で辺りを炎で埋め尽くす。




炎よりも先に衝撃波が俺たちを襲う。


ウパが俺たちをバリアで守ってくれたが、あまりの衝撃に吹き飛ばされてしまう。


そのおかげか、俺たちは炎が届く範囲から逃れることができた。


あれだけの大爆発が遠くに見える。




俺は二人を強く抱き寄せ、身を挺して地面との衝突から庇う。


衝撃に耐え、体を転がし、何かにぶつかって止まる。




ゆっくり目を開けると、俺の目にはあの曇った空が映った。




俺たちは、タランチェの呪術魔法から脱出できたのだ。

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