49:タランチェの呪い

ウパの胸のあたりから右手に向かって、白い光がウパの体の中を通過していく。


そして、聞いたこともない高音を立てながら白い光がタランチェの中へ入ろうとしている。




それはかなりの苦痛を与えるものだったようで、ずっと余裕を持っていたタランチェの顔が大きく歪む。


タランチェはウパの右手を両手で掴み、力いっぱい引きはがそうとするが、思うように力が入らないのかまったく動かせない。




「がはぁ…こ、これは…」




自分の中で何かが壊れているのを感じているタランチェ。


焦燥のあまりウパを蹴り飛ばそうと必死に暴れる。


しかし、ウパはそれに耐え、ついにカーマから託されたモノがタランチェを捕らえた。




「ぐわあぁ…ぁ…あああぁぁぁぁ!」




白い光が最後に眩しく輝くと、タランチェは絶叫し、後方へと吹き飛んだ。




「ウパ!」




俺は安否が確認したくてウパの名を呼ぶ。




「ハリネ!うまくいったよ」




ウパは作戦の成功を告げた。




俺とフレンさんはウパに駆け寄り、タランチェの様子を伺う。


カーマに託された力を信じるなら、これでタランチェは俺と同じ人間になった。


けれど、元々人間だった女性があのような化け物になったのだ。


まだどの程度力を残しているのか見当もつかない。




タランチェはぜぇぜぇと息を荒げ、ふらふらと立ち上がってくる。


自分の手や足を見て、顔を触り髪を掴む。


ウパに何をされたのか悟ったタランチェは、怒りと憎しみを宿した瞳でこちらをにらみつける。




「オマエラ…ヤッテクレタナ…」




あの美しかった見た目からは想像もつかない醜い声がした。


なんとか聞き取れるくらいのしゃがれた声。


俺にはタランチェに何が起こっているのかわからないが、確実に弱らせる事ができたのを核心した。


カーマの言葉を借りるなら、命の連鎖の中へ戻り朽ちようとしている。




「ニクイ、ニクイ、ニクイ。オマエラ…ゴトキガ」




ゾンビのようにふらふらとこちらへ向かってくる。


放っておいてもこのまま命が尽きるように見えるが、今更臆したりはしない。




「フレンさん、ウパ、決着をつけよう」




二人は何も答えなかったが、この戦いの終わりへ向かって身構える。




俺は銃をタランチェに向ける。


奴はゆらゆらと歩いているだけ、この引き金を引けばすべてが終わる。


そんな事が頭を過った次の瞬間、気が付いた時には神殿の広間ではない別の所に立っていた。




「…はっ?」




突然の事に一瞬思考が停止する。


ほぼ何もない石造りの神殿から、禍々しい石像に囲まれた未知の空間にいる。


天井も壁もなく、黒いシャボン玉の中にでも閉じ込められた感覚だが、永遠にこの空間が広がっているようにも思えた。




フレンさんとウパはちゃんと近くにいて、タランチェも目の前にいる。


ということは、俺達がいた場所が変えられた?




「ゼッタイに許さない。ワタシの呪術魔法でシネ」




タランチェが何を言ったのか俺は聞き取れなかったが、たしかに死を感じた。


このままでは殺されてしまう。


俺は叫びながら銃を連射した。




サンダーは次々と命中して、タランチェを吹き飛ばす。


電気で焼かれた所は服が焦げ、肌は火傷で真っ赤になっている。


見てみて痛々しいほどに、ダメージを確実に与えられている。


呪術魔法の効果がわからないが、このまま押し切る。




そう思ったが、すぐに俺は浅はかだったと思い知らされる。


タランチェの火傷はじゅくじゅくと泡立ちながらたちまち治ってしまった。


そして、タランチェがニヤリと奇妙な笑みを浮かべる。


すると、俺はどっと疲れを感じて思わず膝を折る。


さらに、まるで体中が乾いていくような奇妙な気持ち悪さを感じた。




「こ…これって…」




ウパがタランチェに攻撃をしようとする。




「この!!」




「ウパ、待って!」




フレンさんがウパを止める。




「いい勘しているワネ。ワタシと出会わなければ、いいボウケンデャになれたかも」




タランチェがくすりと笑い言った。




「フレンさん?」




俺は得体の知れない恐怖の正体が知りたくて、フレンさんに問う。




「この呪術魔法はおそらく、タランチェが受けたダメージを、私たちの生命力で回復させている。


言うなれば、私たちはタランチェ復活の生贄…」




タランチェは何も応えない。




「そんな…じゃあ攻撃できないってこと?」




「そうね。しかも、何もしなくても吸われ続けていると思う」




フレンさんの額から汗が流れる。


まだ諦めてはいないが、絶望的な状況であることを物語っていた。




「そうよ。オマエ達はこれからゆっくり私のヨウブンになってもらうわ。


カーマからとんでもない置き土産をもらっちゃったけど、ウパ、あなたをゼンブいただけば元通りだと思わない?」




舌なめずりするタランチェに、ウパは思わず一歩引く。




「どうする?頑張れば相打ちくらいはできるカモよ?」




タランチェに余裕が戻っていた。


今までの疲労か、現状の絶望か、戦いのダメージか、いつの間にか俺はかなり消耗している。




このままじゃ、先に尽きてしまうのは俺たち…。




「そうはならないわ」




フレンさんが高らかに宣言する。


タランチェの笑みが消えた。




「あなたを一撃で倒せばいいだけ」




「できるのかしら?そんなこと」




「できるわ。そうでしょ?ハリネ」




そうだった。俺たちにはまだ賭けられるモノがある。

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