38:まずはその手を
「現体の方は行動不能のようだし、まずは旧体を捕獲するとしようか」
老婆がそう言ってミーヤさんとゴルデさんに指示を出すと、三人でアレを取り囲む。
「そうはさせるか!」
アレは両手を広げ、再び赤い光線を出して応戦する。
しかし、三人が懐から小さなクリスタルを取り出すと、光線は曲線を描いて三人から逸れ、壁に当たって爆発した。
この部屋にあった大きなクリスタルと同じように、手の上で浮いて光っている。
「なんでそれを…」
アレはそれにひどく驚いていた。
「お前を逃がしてから何年経っていると思っている?
人間だって時間をかければ、ここの技術力に追いつけるのさ」
老婆の言葉を聞いて、アレの顔が歪み、あきらかに怯え始める。
そして、ふとした瞬間にアレが俺に気が付いた。
「お前は…!」
何かを言いかけたが、突然アレが透明な三角錐に閉じ込められる。
それぞれの面はあの三人の方から飛んできたように見えたので、あのクリスタルの力なのかもしれない。
「がはは、そんな隙を見せるとはな」
老婆は笑いながらクリスタルに力を込める。
アレを閉じ込めた三角錐は徐々に小さくなっていく。
中に閉じ込めらたアレはどんどん押し込められていき、苦しそうだった。
「こうなったら…」
最後にアレがそう言うと、ドンと音を立てて赤い波動がアレを中心に発生する。
三人は少しよろめいたが、大した効果はなかった。
けれど、狙いは彼女らではなかったようだ。
「あ…あれ?なにこれ?」
ウパが意識を取り戻した。
「ちっ!」
老婆がクリスタルの力を強める。
「ああああぁぁぁぁー!!」
三角錐は稲妻を発しながらアレに最後の追い込みをかける。
その最中、糸のように細い赤い光線が老婆へ向かって走り、老婆を貫通してウパの額に当たる。
ウパの頭がその衝撃でちょっと跳ねるが、ダメージがある様子はなかった。
ウパは真剣なような、悲しいような表情でアレに目をやると、ブォンと野太い音を立てて姿を消した。
「きゃっ!」
声がしたのは、ずっと壁の隅で大人しくしていたフレンさんの方だった。
突然頭上に現れ、肩を掴まれたことに驚いたようだ。
そして、再びブォンと音を立てると、今度は俺の横に現れる。
「そうきたか、逃がしはしないよ!」
老婆がクリスタルを持っていない方の手で、俺らを炎で焼こうとする。
それよりも早くウパが俺の頭に触れると、視界を埋め尽くしていた炎が一瞬星空に変わり、気が付けばあの永遠に続く廊下に寝ていた。
「…えっ?なにこれ?ウパ、どうなっている?」
頭が思いつかない俺は、考え無しの感情だけを口にした。
「今は待って、まずは逃げないと」
ウパは俺たちを離れて三歩前へ進むと、振り返ってそう言った。
「でも、その先にはなにも…」
「大丈夫」
ウパは先の見えない廊下の前に両手をかざし指をまっすぐ伸ばす。
少し体に力が入り、ゆっくりと左右に両手を広げていく。
すると、空間がベールのようにゆがんでいき、まるで見えない膜をめくったように穴が開いた。
その先は変わらず先が見えない廊下だったが、さっきとは異なり穴から微かだが冷気を感じる。
その冷気が、この先が外に繋がっていることを俺に教えてくれる。
「わかった」
俺は吹き飛ばされた時の痛みに耐えて立ち上がると、ウパが作ってくれた穴を跨いで通る。
先へ進もうとしたが、すぐに俺はフレンさんが動こうとしていないことに気が付いた。
「フレンさん、早く!」
俺は手を差し出した。
でもフレンさんは、その手を取ろうとはしてくれなかった。
「フレンさん?」
「わ、わたしは…」
気のせいかな?あのフレンさんが泣きそうな顔をしている。
そういえば、あの老婆はフレンさんの名前も口にしていた。ミーヤさんとゴルデさんだけでなく、フレンさんも関係者なのだろう。
状況から考えれば、俺とウパにとってフレンさんは裏切り者になる。
だから、こうやって一緒に行くことを躊躇っているのかもしれない。
フレンさんとの付き合いはまだ三か月も経っていない。
だからこれは俺の単なる希望だろう。
でも今はそれで構わなかった。
フレンさんがいなかったら、今の俺は存在しない。
俺はフレンさんの手を取ると、強引にこちらへ引っ張った。
「ちょっと!」
俺は話を聞かずに手を引いたまま、ウパに先導されながら奥へと走る。
だってそうだろ。
本当にただの敵だったら、あんな顔で俺たちを逃がさないよな?
先が見えないと思っていた廊下だったが、次第に奥の方から光が漏れだす。
「外なのか?」
そう思ったが、ここは海底神殿。上へ行かない限り海の中なのでは?
「うん」
ウパはそう答えた。
赤髪のウパが言うなら間違いないのだろう。
とりあえず出ていく先はどこであれ、あの三人からは逃れなくてはならない。
ただの冷気が風に変わっていき、ただの光が太陽光だったことがわかってくる。
ずっと暗がりにいたので外がどうなっているのかまったくわからないが、俺たちは走っている勢いのまま、外へと飛び出した。
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