18:伝説の種族

女の子を下敷きにしていることに気が付き、俺は反射的に飛び跳ねる。




ボロボロな様子を見て、始めは俺のせいかと思ったが、そんな生易しい状態ではなかった。


服はビリビリに引き裂かれ、露出した肌も傷だらけで痛々しかった。


俺の脳裏に犯罪の二文字が浮かぶ。




俺が今の状況に動揺していると、女の子は鳴き声をあげながら俺に抱きついてきた。


力いっぱい俺にしがみつき、わんわん泣く。


どうやらおれのせいではなさそうだった。


すごい怖い思いをしたのだろう。俺はつい頭をなでてしまった。




辺りを見渡してみる。


すると、ササッと草むらに消えていく影を見た。


後ろ姿だけだったが、トゲトゲしい気味の悪いモンスターだった。それも数匹。




少しの間女の子に胸を貸していると、落ち着きを取り戻し、俺からゆっくり離れた。


とてもかわいい顔をしていた。子供だからというわけではなく、絵画でも見ているような整った顔だった。


それよりも驚いたのが、あの尖った耳。


冒険小説好きの俺が真っ先に思いついたのは、あの種族だった。




「あ、ありがとう…」




か細い声でお礼を言われる。




「えと、大丈夫?」




女の子はコクリと頷く。




おそらくだが、モンスターに襲われている所を、俺が上から助けた形になったのかもしれない。


確認したかったが、わざわざ怖い事を思い出させるのも気が引けた。




「おーい、ハリネー、助けてー」




ちょっと離れた所からフレンさんの救助要請が聞こえる。


俺は上着を女の子に着せてあげてから、腕に巻いている紐を辿る。


茂みの中で身動きが取れなくなっているフレンさんを見つけた。


今までスマートな姿の彼女しか見ていなかったので、つい吹き出してしまう。




「笑うな!」




怒った顔もかわいくて困る。


俺は手を貸して、中から引きずり出してあげる。




「いや本当にびっくりしたよ。なんであなたが狙われるわけ!?」




さすがのフレンさんも怖かったようで、声を荒げる。


それは、ギガオウルの目がたしかだったからだ。


俺が冒険者をやれているのはすべて魔具のおかげで、その正体はただのおっさん。




「ギガオウルも間違えることがあるんじゃない?」




俺は適当にとぼけておく。




「おっと、そんなことよりも」




フレンさんは腕に巻いた紐をほどくと、ギガオウルが落ちたであろう方向へ走って行った。


しばらく待っていると、手に大きな羽を数本と赤い何かを持って帰ってくる。




「あぁ、そういえば羽がどうとかって言っていたな」




「ギガオウルの羽はね。ただ風に乗るだけじゃなくて、マナにも反応するの。


ドラゴンアイはマナの溜まり場にあるって話だから、この羽が案内してくれるってわけ」




「まさに一石二鳥な依頼だったわけか」




「そうそう」




「それで、その赤い物は?」




「あーこれ?ギガオウルの舌。退治したっていう証拠だよ」




「うげっ、通りでなんか湿っているわけだ。


っていうか、生きていたら危なかったんじゃないか?」




「ふふふ、完全に気絶していたから、ちゃんとトドメをさしてからやったよ」




俺もいずれはこの逞しさが必要になるらしい。ちょっと気が遠くなる。




「今度はこっちが質問。その子は?」




フレンさんが俺の足元を指差す。


気が付くと、あの女の子が俺の近くに寄ってきていて、フレンさんに指をさされて後ろに隠れた。




「えーと、どうやら危なかったところを俺が助けたようです…たぶん」




「なにそれ?」




フレンさんは首をかしげたが、女の子の傷を見てある程度の状況を察する。




「ってその子!」




「そうなんだよ。傷もひどいし、近くに人がいるなら連れていって…って、なんで子供がこんなところにいるんだ?」




不思議に思い、俺は女の子の方を向くと、目線を合わせるために膝をつく。


ついでにターバンを取って紳士っぽく振舞おうとすると、フレンさんが飛んできて俺の頭を押さえた。




「な、なんだよ?」




俺がびっくりしていると、耳の中から突然声がする。




(ターバンを取っちゃダメ!)




なんだトークレスか。二重でびっくりした。




(この子の耳。気づいているでしょ?)




(…もちろんだけど?)




横目でフレンさんを見る。


声からも伝わってきた通り、真剣な顔をしていた。


何か重大なモノを目の当たりにした人の目。


その視線が、女の子にまっすぐ注がれていて、女の子が怯えている。




(ちょっと、怖がっているよ)




「大丈夫だよ。この人は俺の仲間、悪い人じゃないよ」




俺が女の子をあやすと、フレンさんがようやく手を離してくれた。




(いい。これから先、絶対にターバンを取らないでよ)




(なんで?)




(耳を隠す理由がわかったの)




ゴクリ。


こんな所で謎解きの答えが聞けるとは。場違いながら俺は少しワクワクする。




(きっと、ここにエルフの里があるのよ)




………。




はい?


なに?その夢溢れる推理は?


いや、たしかに俺もこの子を見てエルフっぽいなって思ったよ。


でも、ちょっと耳がとがっているだけだし、そもそも、エルフって架空の種族じゃ…。




しかし、先輩冒険者のフレンさんは真剣そのもの。


その雰囲気に、俺は再度唾をのんだ。




(ほ、本当に?)




(まだ確証は無いわよ。でも、この地域にはエルフの伝説が多い。


こんな小さい子が、こんな危険地帯にいるのもおかしい。


あと、なんかこの子、雰囲気が変。あなたは何も感じないの?)




雰囲気と言われても…、冒険者の直感みたいなやつでしょうか?


俺にできそうなことはー…。


とりあえず、ライフサーチを開いてみる。




すると、俺らの3倍くらい大きい存在が目の前にあった。


俺は驚いて辺りを確認する。


何もいない…。ということは本当に…。




この子がエルフだというのか?

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