09:魔法道具

俺は客室に案内されると、紅茶と軽いお菓子をいただいた。


ハーブのいい香りがして、少しだけ気持ちが落ち着く。


正直、おいしいかどうかはわからなかった。




「よく来てくれましたハリネさん」




出て行って一日しか経っていないのに、この人は本当によくしてくれる。


これから、そのやさしさにつけ込むのかと思うと、良心が痛んだ。


しかし、手段を選んではいられない。




「すみません、こんな急に来てしまって」




「構いませんよ。ちょうど休憩しようと思っていたところですから」




この器のでかさよ。こんな大物が俺なんかに気を使ってくれる。


男として、俺はこの人に勝てるところがあるのだろうか?




「それで、今日はどういったご用件で?」




「はい、実は…その…相談というか、お願いしたいことがありまして、無理を言うのは承知しているのですが…」




俺が口ごもっていると、オラウさんはすっと静かに紅茶を飲むと、穏やかにこう言った。




「なんでも言ってください。男に二言はありませんよ」




やわらかい笑顔に頼れる男気。


はい、俺の全敗でいいです。むしろ、そうあってください。




「ありがとうございます。では、お言葉に甘え、率直に言います」




「はい」




俺は失礼を承知で包み隠さず話した。


取り返しのつかない約束をしてしまったこと。


オラウ山へ女性を連れていかなくてはいけないこと。


モンスターと戦える力が必要であること。


そのために、魔具を貸してほしいこと。




「どうか、力を貸してください!」




俺は膝に手を置き、大きく頭を下げた。


しんと静まり返る客室。


あまりに無礼な話。俺は顔を上げることができない。




「わかりました」




俺のほしかった言葉だった。




「顔を上げてくださいハリネさん」




俺はゆっくりと上体を起こす。




「あなたの願いを叶えると同時に、一つ提案があります」




「提案…ですか?」




「はい、場所を変えましょう。話はそちらで致します」




俺はオラウさんに連れられて、かなり深い地下へと案内された。


そして、大きな鉄の扉を開けると、想像を絶する光景が広がっていた。


そこは魔道具の研究施設。


誰もいなかったが、どこに目をやっても、まったく見たことがない物ばかり。




「すげぇ」




脳をかえすことなく、感情が声となって発せられた。




「これらはすべて、カンパニーで作っている魔道道具です。


ご存じの通り、まだ試作品ですが」




「まず、あなたの願いを叶えるために、ここにあるすべての魔道具をお貸しします」




「えっ!?ここにあるものを、すべてですか?」




「はい、持てる数に限りがあると思いますが、きっと依頼を達成するのに必要な物が揃います。


例えば…」




オラウさんは、少し離れた所に置かれていた銃のようなモノを手に取る。




「これは、魔法を放つ銃とでも言いましょうか。様々な属性の魔法を込めた弾丸を撃つことができ、状況に合わせて使い分けることができます」




オラウさんに手渡され、俺は銃を持つ。


ごつい見た目に反して軽い。手に持ちやすく、至近距離でなら俺でも当てられそうだ。




「森を歩くための魔道道具もあります。


モンスターを検知する物、地形を把握する物、崖を登り下りする物」




すごすぎて言葉にならない。


魔具があれば、本当に俺でもフレンさんの依頼をこなすことができるかもしれない。




「いかがですか?」




「正直、まだ実感が湧きませんが、お話が本当なら、なんとかなりそうな気がします」




気持ちが高揚して、ひさしぶりに胸が躍った。


真似事だけど、憧れていた冒険ができる。




カチッ




また、頭の中で何かが鳴る。




すると、手にした銃が光だし、振動を始め、キーンと機械音を発する。




「これは!」




オラウさんも驚いていた。




「ハリネさん、あなたは魔法使いだったのですか?」




「はい!?」




わからない事を同時に発生させないでほしい。


裏返って変な声が出た。




「ハイネさん、銃のスイッチを切ることをイメージしてください」




銃のスイッチを切る?銃のスイッチってなんだよ?


俺はやけくそになり、ランプのスイッチを想像して、銃が止まることを願った。




その瞬間、銃はゆっくりと停止していく。




「これ、どういうことですか?」




俺は泣きそうな声でオラウさんに聞いた。




「魔法道具は魔力を流すことで起動します。本来ならスイッチを動かして、中の魔石と回路を繋ぐのですが、魔法使いなら己の魔力でも起動できるのです」




「いや、でも俺は…」




「わかっています。魔法使いかどうかは生まれてすぐ検査される。


あなたは普通の人なのでしょう。


しかし、魔力を持っているのも事実。ちょっと検査をしてみませんか?」




オラウさんは大きめの結晶を持ってきた。


結晶には二本の線が繫がれ、その先端には持ち手があり、俺はそれを掴まされた。




「ハリネさん、この結晶を光らせようとしてください」




俺はさきほどの要領で強く願ってみる。




なんと、結晶が俺に答えるように光り始めた。


奥の方で小さくだが。




「たしかに魔力をお持ちのようですね。その…あまり大きくはないようですが」




オラウさんは申し訳なさそうに事実を述べる。




「でも、なおさら、これから提案することはあなたにぴったりだ」




「その提案って、なんでしょうか?」




オラウさんは結晶を片付けると、姿勢を正して、真っすぐ俺に向き合った。




「ハリネさん。ゴーガンカンパニーをスポンサーにして、冒険者になりせんか?」

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