第13話美味しいご主人様

***



 くうくうと規則的な寝息をたてているのを確認してから、ピクシーはアメリアの柔らかな頬に口づけた。


「ああ、可愛い。うちのご主人様は本当に可愛いわ」

「おい、お前だけ食いすぎだ。交代しろよ」

「うるさいわね。抜け駆けしたのはどこのどいつよ」


 ピリッと火花を散らして、ピクシーがサラマンダーのおでこをはじいた。ビチッとはじける音と共にサラマンダーが壁際まで吹っ飛んでいく。

 ピクシーは元々、相手に触れて静電気のようにビリっと痛みを与えることができた。妖精が見えない人間を驚かす程度にしか使い道がない力だったはずなのに、アメリアと暮らすようになってから力が増して、弱い魔物ならば消滅させられるほどの威力を持つようになった。


「ルールを守れないなら出て行ってもらうわよ。最初の約束を忘れたの?」

「わ、分かった。俺が悪かった。風呂上りにアメリアが寒そうにしていたからつい……抜け駆けしたわけじゃないんだって」

「どうだか。アタシたちが気付くまで、お腹いっぱいんでしょう?」


 魔力を見れば一目瞭然だわ、ともう一度サラマンダーのおでこをはじいた。


「……すまん。溢れていたから、勿体ないと思って……」


 しおしおと項垂れるサラマンダーに呆れていると、その横でこっそりケット・シーとヘルハウンドがアメリアの頬に吸い付いている。


「あっ、こら! まだあたしが食べてる途中なのによだれつけないでよ! アンタは足でも舐めてなさい!」


 ポイっと放り投げられた二匹は、名残惜しそうにしていたが諦めてアメリアの足元でおとなしく丸くなる。

 邪魔者を追い払って、ピクシーはすやすやと眠りこけるアメリアに向き直る。ぱちりと瞬きをして魔物の目で見ると、薄い膜が揺らめくようにアメリアから漏れ出た魔力が彼女の体を包んでいるのが可視化できる。


「アメリアは知らないでしょうけど、寝ている時は魔力が駄々洩れになるのよね……ホントごちそうさま」


 ふんふんと鼻歌を歌いながら、アメリアの体から漏れ出る魔力を食むように体内に取り込んでいく。とたんに体にみなぎっていく感覚がして、高揚感から自然と笑みがこぼれる。


アメリア本人は、こうして毎夜魔物たちに魔力という名のご飯を提供していることを全く知らない。


アメリアは無自覚に魔力を体外に放出しているのだ。


魔力量が多すぎて、小さな体に収まりきらない分がどばどばと溢れ出ている。

 普段からたくさんの魔力を身にまとっているが、寝ている時は更に力が増して、体内から溢れてしまっている。

 だから彼女の近くにいるだけでも魔物は力が増す。直接触れれば更にその魔力を取り込める。最も効率がいいのが、こうして口から食べる方法である。

 あくまで体から漏れ出た分だけをいただいているから、アメリアの魔力が削られるわけではないので本人は全く気付いていない。



 ……こんな風に夜な夜な魔物たちが群がってきていると知ったら、アメリアはどんな反応をするだろうか。ピクシーは時々それが気にかかるようになっていた。


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