第11話こうして今に至る



 最初にピクシーと出会った時、魔物と見抜けなかったのは、ひとえに見た目が蝶々だったから。


 人に化けた魔物ならば絶対に見分けられるのに、か弱い生き物に擬態しているとどうにも目が曇ってしまう。


 人間不信をこじらせていたアメリアだったが、動物は好きなのだ。なぜなら動物は喋らないから.

人間同士と違い、分かりあえるはずだという前提がない。たとえ動物に好かれなくても見ているだけで楽しい。もしも触れ合えればそれだけで嬉しいし、どんな生き物でも癒される。

 だから相手が人間でなく動物に化けていると警戒心が薄れてすっかり目が曇ってしまうという弱点があった。

 蝶々もトカゲも猫も、つい見た目の可愛さに騙された。


 もし相手が、悪意のある魔物だったら問答無用で魔法でぶっ飛ばすこともできるのだが、『恩返しにきましたー』という相手に暴力をふるうわけにもいかず、言葉巧みに入り込まれてしまった。

 恩返しなんかいらない、恩に着てもらうほどのことをしていないと強く主張するのだが、人の話を聞かない魔物たちは『まあまあ遠慮しないで!』と、親切の押し売りをしてくる。


 結局、コミュ障のアメリアではうまく反論できず、今に至る。


 出て行ってくれないのならいっそ引っ越すか……と、面倒事から逃げ出す考えが頭に浮かぶが、せっかく買った家を手放すのは惜しい。


 それに、居候の魔物たちは、人間のようにアメリアに何かを求めたり期待したりしない。彼らは個人主義でそれぞれ好き勝手に過ごしているので、一緒に居てもかつて屋敷で過ごしていたような窮屈さは感じなかった。


 まあいずれ彼らも飽きるだろうから、それまでちょっと我慢すればいいだけだ。

 そもそも、魔物と言えどもこんなボロ家で貧乏生活をしていて楽しいはずがない。

 今は恩を感じてくれてここに留まっているが、そのうちこんな生活にも根暗なアメリアにも嫌気がさすに違いない。


 そう、だからこんな騒がしいのは今だけだ。

 それまでちょっとの我慢だ。

 アメリアはそうやって自分に言い聞かせてこの不本意な生活を我慢していた。


 ……だが、もう一つの可能性があることを、アメリアはまだ気が付いていなかった。

 誰も飽きることもなく嫌気が差すこともなくずっと居座り続ける未来があるかもしれないと、この時にもっと考えるべきだったのである。



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