42話 閉館

「さっきリリアならあっち見に行くって言ってましたよ」

ヒヨルは一階階段付近を指差す


「あぁそうか」


人混みの中少女は一つの展示品に目を奪われる

それはただのチェストプレート

特別な装飾はなく一目では市販品との区別すら難しい代物

下には商品を説明文がある

「勇者の胸当て」

ガラスに手を置きまじまじと見る

「これが……もっと目立つものだと思ってた」

「がっかりしたか?」

後ろからくせっ毛が声をかける


「いや別に…でも………ぽいなって思っただけ」

「ぽい?」

「うん…ここの展示品はみんな絢爛豪華けんらんごうかなのにこれだけ本当に攻撃を防ぐためだけに作られたって感じがね」

「……そうだな、勇者は魔王征伐以外はあんま興味なかったかもな」

「そうだね…私もそう思う」

「ねぇエリック」

「このまま行ったらどうなると思う?」


「また雑な質問だな」

「別に真剣に答えなくてもいいよ」

「ここは真面目な会話する所じゃないでしょ?」

「そうだな……」

「お前らいつまで一階にいるきだよ」

アンスが声をかける


「あぁすまん、つい見入ってな」

「お前らどんだけ勇者様が好きなんだよ」

「まぁ程々にな…」


2階は宝石エリアとなっており色によって部屋分けされている

全部で5部屋に分かれており緑、黄色、紫色、青色、赤色となっている

階段を上がると一本の大通りから右に2部屋、緑、黄、左に3部屋、紫、青、赤がある

それぞれに入り口があり部屋の中は宝石と逆の色彩「補色」で装飾されている


カツカツ

階段を上がり目的の部屋を見物する四人

右手最奥の部屋

部屋は全体的に青がかった配色が施されており

展示品は全部で8つある、その中央に真紅のアミュレット


「わぁ〜きれいですね」

ガラスに近づこうとするヒヨル

「ちょっと待ちたまえ!」

突然の男の怒号

「えぇ!……なんですか」


「君この線見えないの?」

下には黄色い点線が引かれている

「これはね、展示品を防犯する線だからこれを超えるとアラートがなったちゃうから」

「柵の前1mに引かれてるから気をつけてね」


「あぁ…すみません」

「怒られちゃいました」

戻ってきたヒヨル


「あたりまでだろこのバカ!」

「えぇ…でも1階ではなかったのでつい…」


「あぁそうか」

「この博物館はな、1階では展示品の切り替えはないんだよ」

「逆に2階は季節ごとに展示品の切り替えが行われるから防犯システムもガラス強度も1階と2階じゃ段違いなんだよ」

「だから2階には距離を一定に保つことで補ってるわけ」

「知ってるなら先に言ってくださいよ」

「言ってなかったっけ?」

うなずくヒヨル

………すまん

ポーン

店内アナウンスが流れる

「この度は帝英博物館にご来館頂き誠にありがとうございます」

「本日の閉館時間は予定より2時間早く閉めさせていただきます」

アナウンスを聞くエリック

「ふむ……なんかあったのか?」

アンス

「どうする、侵入ルートは大方決まったか?」

「それとももう少し見て回るか?」


「そうだな……入る場所は見つかったが……ちょっと二人を見ててくれ」

「確認したいことがある」

「なんなら近くで飯でも食っててくれ」


エリックは3人と離れ一人1階相談カウンターまで戻る

「少しいいですか?」

「はい、何かご不明な点がありますでしょうか?」

「今のアナウンスで閉館時間がどうとか言ってたけど」

「なんかあったんですか?」


「申し訳ありません」

わたくしどもにもただ時間変更するという連絡があっただけでしたので、詳細はご返答致しかねます」


「そうか……じゃあここ最近でなんか変わったことありましたか?」

「……変わったこと…ですか?」


「あぁ…ここだけの話でさ、俺の展示品が2階に飾られてんですよ」

「早いはなし、あんま時間短縮されるのもね…今後この博物館に展示品を流さないようにってね……わかるでしょ?」

「この博物館ってさアトロス帝国領内だけの出土品で補えるの?」

「特に2階はさ……」


「すみません……私ではお答えできかねますので責任者に取り次いでもよろしいでしょうか?」

バッ!

「いやいやその必要はない」


「え?」


「責任者のビスカにはもう言ってあるんだけど…どうも何か隠してるっぽくてね」

「従業員の君から些細な事でもいいんだ……教えてほしい」

「別に君には責任はない、ただ相談カウンターで客から相談を受けてるだけだ」

「それは君の仕事だろ?」

受付嬢は考える

………………

たしか…

「たしか…この前に開館作業中に従業員全体に聞き取り調査がありました」


「聞き取り調査?」

「はい…別に変な質問ではなかったので関係があるかどうか」

「どんな質問だったんですか?」

え〜とたしか


―――最近同僚との会話中違和感を覚えたことはあるか―――


帝英博物館近辺 飯屋

「お、キタキタ」

手を振るリリア


3人はテーブルに広げられている料理を食していた

「もう少し俺を待てなかったのか」

呆れるエリック

「何言ってんですか、私たちの仕事は夜なんですから」

「今はエリックさんに頑張ってもらわないと」


「質問に答えられてないんだが」

「まぁまぁ落ち着けよ」

「お前の分も頼んであるから」

アンスは肉が挟まれた長パンを渡す

「で、どうだった」

むしゃ

「あぁ……面倒なことになった」

「面倒?」

「そうだよ…なんでこう……タイミングが悪いのかってな」

「ムカつきすぎて今なら暴飲暴食でこの店を食い尽くせそうだ」

「やってみなさいよ」

鼻で笑うリリア

「モノのたとえだ」

「まぁ何はどうあれ計画は崩せない、準備に妥協したら本番で死ぬだけだしな」

「なぁ、明日じゃなくて明後日になんねぇかな全部」


「現実逃避はみっともないわよ」

「言うだけだ…許してくれないもんかね」

むしゃむしゃ


宿へ戻る4人

アンスは椅子に座る

「で…どんな面倒なことが起きたんだ?」

「俺たちとは別に真紅のアミュレットを狙ってるやつがいる」

「まじか……」

「それってどんな人たちなんですか?」

「まぁ…詳細はわからないが博物館の対応から怪盗だと思う」

「怪盗?」


「ここ1年で名が売れてる奴らだ」

「そいつらはご丁寧に盗むものには事前に予告を出してるらしい」

「なるほど…それで予告があったから準備のために閉館時刻を早くしたのか」

「あぁ、それに従業員同士の意識確認があったことから変装とか潜入も警戒してる」

「しかも奴らに盗まれる前に盗まなきゃいけない」

「事は一刻を争う」


頭を悩ませるエリック

リリア

「ねぇ、一ついい?」

「なんだ?」

「最初から思ってたけど」

「私一人じゃダメなの?」

リリアの突拍子もない意見に唖然とするエリック

「一人ってお前、まさか全員を相手にするきか?」


「いやそうじゃなくて」

「私の魔術で潜入してその魔石を取ってくればいいでしょ?」

「そう簡単にいうがな、魔術感知の結界もあるし万が一見つかったりしたらな…」

魔術感知引っかからないよ私

「………へ?」

愕然とするエリック

「だから」

「私の魔術、魔術感知に少しだけなら引っかからないんだってば」

理解が追いついていないエリック

「どういう事なの?」


「いやなんか魔術の精度を高めよーってしてたら一時的に魔力感知系を無力化できることに気づいてさ」

「ここ来る前にも師匠が言ってたでしょ?私の魔術が役に立つって…」


「あぁ」

思い出すエリック

アンス

「なぁそれって結構とんでもない事言ってないか?」

リリアは平然と話す

「やっぱそうかな?」

「師匠にもあんま他言するなって言われてるし」


「…でどうなんだエリック」

「リリアがいう魔術ならいけるんじゃないか」

「いけるどころかそれが本当なら今まで頭を悩ます必要がなかったんだがな」

「じゃあいけるんだな」

「そうだな……頼めるかリリア」


「まっかせといて!こっそり盗んで派手に成果を上げましょう!!」


ウキウキのリリア

エリックは先行きが不安でたまらなかった


「じゃあ私とアンスは何すれば?」

「う〜ん、ヒヨルとアンスは…非常時に備えて近場で待機かな」

「じゃあ俺から一ついいか?」

「どうしましたアンス?」


「俺から恩を返すって言ったのおぼえてるか」

‥‥‥‥‥‥‥

3人は顔を見る

「「「ごめんなさい」」」

「まぁ…別にいいが、俺にできんのは武器を作ることだなので……」

ジャーン

アンスは布から2本の武器を取り出す

一つは長い布で覆われている

一つは短い布で覆われている


「長いのがリリアで短いのがヒヨルだ」


受け取る2人

「これ……すごい」

「ありがたく使わせてもらうわ」

リリアが手にしているとは長剣

剣身は薄紫色でつばが横に伸びていて剣全体が十字になっている


「すごいです!本当にアンスは鍛冶職人さんだったんですね」

ヒヨルが持っているのは3本の短剣

剣身は青く光っておりつばはなく握りに布が巻かれており先端は丸く穴が空いている


アンスは自慢げに

「この剣は高級な魔石を使っていてだな魔導伝達率が78%を誇っている」

「へぇ…すごいな」

感心するエリック


「これでリリア達には今後の任務を頑張ってほしい」

「これ…すごい馴染むよ、ありがとアンス」

よし

「じゃあ今夜の潜入ルートって言ってもまぁ下手に監視を避けるより」

「リリアの魔術でいける最短ルートを行こう」


「うん」

「今夜狙ってんのは俺たちだけじゃないってことを常に考えて行動しろよ」

「わかってる、いざとなったら…戦うから」

「まぁいざとなったら2人もいるし逃げながら応戦してくれればいい」


「任せてください!全力で援護します!」

「俺も少しは力になるって所見せててやるぜ!」

意気込む2人


「うん、頼りにしてるよ」

「じゃ、夜に向けて作戦を伝える」


――――――


帝英博物館閉館後―真紅のアミュレットを狙いリリアが忍び込む

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勇者が死んだ罪と罰 @takaihikui

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