第1部 第1章
心地の良い振動に揺さぶられていた。
しかし、駅到着のアナウンスによって眠っていた意識が戻されていく。
どうやら電車内で眠っていたようだ。
目をこすりながら体を伸ばしていると、アナウンスが再び流れた。
『次は神薙ショッピング前。お出口は左側です。』
目的地の場所にもうすぐ着くようだ。
眠って通り過ぎることがなくてよかった、と思いながら窓の外を見る。
窓から人口太陽の光が夜勤明けの目に容赦なく刺さる。
夜通しの仕事明けは、憂鬱な気分にさせられる。
僕が住んでいる都市は、人口7万人からなる地下都市【コロニー3】だ。
人類はこれまでに環境の汚染を繰り返し、また外敵との遭遇を回避するためこのようなコロニーを建設した。
そして生存している人類のほとんどは、地下に住むようになった。
この【コロニー3】は、数百年もの間形成と再構築を繰り返し、今では地下数キロ、東西南北と中央の5ブロックにわたり、それぞれの分野ごとに分かれて独立した都市構造をとっている。
コロニーのもとになったのは、今から1000年前に使用されていた地下鉄線を利用して作製されたと言われている………らしい。
正直、歴史的空白期間があるため真偽はわからないが………。
あと、講義中に眠っていたから覚えてない。仕方がない。だって、眠かったから。
他にもコロニーは現存し、今ではコロニーは世界各地に点在している。
その中でも【コロニー3】は、古くから現存する大きな都市である。
しかし問題も抱えていた。
都市部の人口が多くなるにつれ、住む場所の確保が難しくなるのは目に見えていた。そこで今からおよそ百年前に【コロニー3】では、リステージ計画が出され地上でも生活できるようにコロニー近郊の砂漠エリアで緑地化に成功し、70度を超えていた気温が、今では平均気温も25度に戻りつつある。
これに倣い、各コロニー地区でも緑地化計画が進行した。それでも、住む人数はごく少数で、経済的に困窮している人たち、もしくは緑地化計画を振興する人たち、コロニー内部での住民権がもらえない者たちが主である。
電車の減速時に座っていた席から立ち上がり、停車した電車のドアからホームへと降りる。
地下都市ではあるが、四季を再現しているせいで、秋始めの冷たい空気が頬を裂くように吹き付ける。防寒着であるコートの襟首を絞めて体温を冷まさないように急ぎ足で目的地に向かう。
目的地の神薙ショッピングモールは、この【コロニー3】内で最も大きいモールで大体の物はここで買うことができる。また、この【コロニー3】で働く人の時間帯がバラバラであることから24時間年中無休なので利用客が絶えることがない。実際、夜勤明けの自分に対してもうれしい場所である。
そうはいっても………めんどくさい。
姉さんたち、買い物くらい自分で行きなよ………。
内心、自分の身内に文句を言いつつ目的の場所で送られてきたメッセージの買い物リストを開く。そこには何行にもわたって必要な物品の数々が羅列していた。
「かなり量あるじゃん………。」
口から不満が漏れていく。
僕が夜勤明けだというのに、問題の姉たちは容赦なく大量の物品を買ってこい、とのご命令だ。
魔法を使えば問題ないのだが………。
寛容さを学んでほしいものだ。
いくら僕がリミッター無しの人間だからって使うかは個人の判断だ。
買わなければいけないものは消耗品がほとんど。
これならモール内の日用雑貨コーナーで事足りそうだ。
愚痴っていても仕方がないので指定された物を棚からカゴに詰め込んでいく。
いつもメイドのシュガーに買い物に行ってもらってたからなー。今日は休みで友達と遊びに行くって言ってたっけ………。)
家に住み込みで働いているメイド兼僕の保護者の有能性を実感させられる。
住んでいるとは言っても、僕は捨て子。
本来なら、このコロニー内部ではなく地上地区に住むべきなのだろうが、姉一号とメイドの交渉術のおかげで内部での生活が認められている。
感慨に耽ながら、メモの商品をあらかた詰めたときに、見計らったタイミングで新たなメッセージがとんできた。
『最新のゲーム、予約しといたから受け取っておいて。場所:いつものとこ』
これは姉さん二号からの要望だと一発でわかった。
姉二号は基本、家から出ない。
でも、一企業の社長である。
むしろ、家にいる方が効率的とのこと。
………いや、家にいるのなら荷物くらい自分で取りに行ってよ。
でも、姉二号の命令は絶対である。
「これだけ荷物あるのにさらに荷物増えるのか………。」
すでに、両手いっぱいの買い物袋を抱えている状況なのだが―——。
ため息が出る。
背負っていた仕事用のリュックに入れられそうなものを詰め込んでいく。
仕事用の着替えとセキュリティーカードしか入っていないのが幸いした。
ショッピングから出て駅前近くのコンビニへ向かう。
コンビニでは不真面目そうな店員同士でおしゃべりに更けていた。
聞き耳を立てていると先日発売されたゲームの話をしているようだ。
そちらをほっといてコンビニにあるマルチメディア端末に左手をかざす。
今のコロニー市民には、左手にマイクロチップが埋め込まれており、買い物関係は手を見せる・かざすだけで終わる。
決済終了のレシートをもってレジに行くと先ほどまでしゃべっていた一人が鬱陶しそうにレシートを読み込み、店奥から小さな段ボール箱を持ってきた。
(脇に抱えながらなんとかできるかな………。)
予想外の荷物を抱えながらもまた駅ホームに戻り、電車で家のある最寄り駅を目指す。
時計を見ると時刻はすでに9時を回っていた。
買い物をするだけで、二時間も時間をかけていた。
———明日が、振休でよかった。
だけど、本心は貴重な時間が無くなったことを嘆いていた。
僕は、ため息を吐きながら帰路についた。
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