第16話

「くっ!」


「ははっ!ようやく読めてきたぞい!」


 セレスは危機感知を駆使してなんとか老人の攻撃を凌ぎ続けてはいるが、綺麗な肌にかなりの数の切り傷がつき始めた。しかしそれでも僕は静観したまま動くことはなかった。


「お主の仲間は薄情じゃのう!」


「……っ、うるさいですっ!」


「おうおう、若い若い!剣筋が鈍っておるぞ!」


「……」


 僕が出した防御シールドも結構な数割られ、空中での足場が無くなってきた。このままでは彼女は負けるだろう。


 そしてついに


「……っ!?」


「これで終いじゃ──っ!?」


「よく気づいたね」


 僕は彼女と老人の間に防御シールドを張李、無理矢理老人の進行を防いだ。


「……邪魔するのか?」


「一言も邪魔しないとは言ってないよね?」


「……」


 僕がそう言うと老人は露骨に嫌そうな顔をした。


「剣士同士の蜜月に水を差すか」


「蜜月て」


「どうやら死にたいらしいな。先にお主を殺すとしよう」


 老人は剣先を僕の方に向けてきた。もうセリスのことなどどうでもいいのだろう、彼の目には既に僕しか映っていなかった。

 

 そして老人は一息吐いて、一瞬で僕との間にあった距離を縮めた。


「はぁっ!」


「っ」


 振り上げられた刃は僕が逸らした体の丁度真横を通り過ぎていった。その間に僕は一度下がり、魔法を発動させる。


防御シールド


「ふん!」


 襲いかかる刀を防御シールドで防ぎつつ、また別の防御シールドを生み出し、老人に放った。


「効かんわ!」


「──待ってた」


「っ!?」


 老人が防御シールドを自信満々に斬ったところを狙って僕は新たな防御シールドで頭上から追撃した。


 しかしそれも間一髪で避けられたが、それも織り込み済み。


「はあっ!」


「むっ!?」


 避けたところを先周りしてセリスが袈裟斬りを放つ。それに対応しきれずに片腕を斬ることに成功した。


「ちいっ!こんなもので腕を切られるとは……!」


「タイマンがいつでも成立すると思わないことだね」


「……そうじゃな。すっかり目が曇っていたわい。確かにお主らは冒険者……いつまでもタイマンが成立すると思うことがそもそも間違いじゃったな」


「このまま殺したくないんだけどねぇ……」


「儂を殺す気でいかないと、儂を捕まえるなんて無理じゃぞ?」


「はぁ。だったら、しょうがない。尋問用の人間はもう確保したんだ。こいつは瀕死まで追い込むとしよう」


「……サフェトさん」


「……っ、サフェト、じゃと……?」


 老人が僕の名前に何か反応を示したが、どこかで僕の名前を聞いたことでもあるのだろう。あんま僕の名前は有名じゃないんだけどね。物好きなのかな?


「まさか、ルカの弟に会えるとはのぅ……これは運命か」


「運命……どうやら姉さんを知っているらしいけど……僕の姉さんの名前をそんな軽々しく言わないで貰えなかな」


 僕は怒りと共に静かに魔力を昂らせる。それを感じたのだろう、老人は頬に一筋の汗を流した。


「むぅ、まさかこれほどとはな。タンクだと思っておったが……」


「タンクだよ。それは今も昔も変わってない──あぁ、そうか」


 僕は自分の中で点と点を結ぶことができた。今まで点だった情報がここに来て一気に繋がっていく。


 どうして僕ら兄弟のことを知っていたのか。いや、名前だけ知っていたんだったら別に問題はなかったが、僕の役職、そして“まさかこれほど”という言葉。


 盗賊討伐による情報だとしても、かなり限られてくるはずだ。しかしそれ以上のことをわかっている節がある。


 と、なるとそれから予測できることは一つ。


「──ゴルド」


「……」


「はぁ……」


 ほんの少しだけ反応した老人。どうやら腹芸は苦手なようだね。だがこれで確信した。僕ら姉弟を狙ったのは──こいつらだ。



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