蜘蛛の娘が語るには~ぶっちゃけさせて~





 最近、『妹達』が嬉々として一緒に暮らしているという人間の男について話すようになった。

 約一名は私よりも本来なら早く産まれているので『姉』のはずだが、現在幼子になってしまっている為私が『姉』となっている。



 園を守る、人類を愛する無邪気な『妹』は精神がすっかりぼろぼろになったアラフォーの男を拾ってきた。

 お前はダメンズが趣味なのかと小一時間問いたくなったが、頭がこういう方向には弱い彼女には無意味なので聞かなかった。

「れんお姉ちゃん、あのね隼斗さんね、隼斗さんがね」

 と、毎回律儀に報告してくる。

 可愛い『妹』なのだが、毎回律儀に報告するのは勘弁してもらいたい。


 お姉ちゃん一人身なんだよ、見た目は女子高生だけども年齢はとっくにお前が育児してる男性よりも上なんだよ、それでも誰も囲わず一人身なんだよ。

 寂しくなるじゃないか、勘弁してくれ。


 フエ姉さんが言うには、元々は対異形組織の長だったらしいが、人間には手に余る異形に目を付けられて組織は壊滅、生き残ったのはいいがその際蹂躙されて精神がぶっこわれかけたらしい。

 マヨイが居ないと廃人に近い状態になるらしく、精神面のぶっこわれ方もちょっとアレなためか外出しては売春行為みたいなのをやってるらしい。

 なんか強姦じみた感じにされないと気が狂ってしまいそうになるとのことだ。


 人間は本当に脆い、その脆さが羨ましい。


 マヨイがいると落ち着くらしい。

 マヨイは生活面を今まで使い魔に任せっきりだが、最近はその『隼斗さん』という相手が少しずつやっているのと、人間に擬態する際下着を履かせようとすると凄まじく抵抗するのに彼がやると大人しく履かされるらしい。


 今までの私達の苦労は何なんだちくせう


 マヨイも『隼斗さん』にぞっこんらしく、姉達の見立てだと『番』認定しているらしいとのことだ。

 ただし、『孕む』のは相手の方になりそうだとのことだ。


 ねぇ、うちら異形の性別って何なの? マジでなんなの?

 ……それ言ったらフエ姉さんもか


 私はその『隼斗さん』には会ったことはない。

 会いたい、という気持ちもそれほど湧かない。

 けれども――

 マヨイはが嬉しそうに話すから、きっと彼女にとって素敵な大切な人なんだろうと思う。




 もう一人の『妹』、マヨイとは異なり人を食う、悪人こそが主食たる、『悪』食な『妹』エルだが、彼女は元テロリストの青年と暮らすようになった。


 ちょっと待って、テロリストなら捕食対象なるんじゃないのか?


 聞けばその彼は『テロリスト』だけを狙うテロリストらしい。


 それ暗殺者というか殺し屋というか、傭兵というか……


 そんな元テロリストの青年を、エルは『お兄ちゃん』と呼んでいる。

 名前はあまり呼ばないらしい、でも聞いたところ「ジン」という名前だそうだ。

「お兄ちゃんね、いつも美味しいお料理つくってくれるの」

 エルは嬉々としてそういう。

 だが、彼女の主食は『悪人』だ。

 これから解るとおり、このジンという男は『悪人』を殺して調理しているということになる。


 ないわ――!! ぐろい!! 私はそんな趣味ねーわ!! 食うときは頭からひと思いに食ってるわ化け物の姿で!!


――私の主食は人間ではないが、主食が人間なエルはどうしても他の食物では我慢できなかったのだ。

 元々私よりも年上で、見た目が同じ彼女だったが、何十年も飢餓に苦しみ、結果今の姿、今の精神状態になっている。

 前よりも飢えはなく、その上ジンという男が悪人の肉をメインに様々な料理を作るようになってから他の食材でも少しずつお腹を満たせるようになってきた。

 食いだめができるのもいいが、こういう風に別のもので腹を満たして飢えをしのげるというのは私達にとってありがたいこと他ならない。

 それを考えると、ジンという男の料理も悪い訳ではないのだ。


 でも、人間的に考えてどん引きだわこれ


 ――ジンという男に、会ったことはある。

 人目でわかった、エルに依存していると。

 エルを盲信していると。

 きっと、エルが彼を食べたいといったら、彼は喜んで自分を食材にするだろう。


 まぁ、それは絶対ないんだろうな。エルは彼を食材と見てないし。


 私達への対応は別に普通だ、ただ紅姉さんは警戒されている。

 色々あったらしい。


 紅姉さん、どこかしらでなんかしてるからなぁ


 彼はエルを盲信していてて、エルは彼を慕っている。

 何処か歪さえ感じるのに、本人達はソレを気にしていない。

 この関係がどう変わっていくか、少しだけ気にはなっている。



 私の大事な二人の『妹』。

 彼女達は大切な『人間』がいる。

 でも、私はいない。

 私はこれからも一人なのか、それとも誰か傍にいてくれる人を見つけるか、予想も想像も、予知もできない。

 でも、もし私と一緒にいてくれる誰かがいるならば――


 私の孤独を、理解してくれる人がいいな







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