【短編】理想

o0YUH0o

理想

「ねえ、あんた『三度目の初恋』っていう映画知ってる? 偶然、ほんとに偶然、鑑賞券が二枚あるんだけど、えっと……一緒に、観ない? ……かっ、勘違いしないでよね! あたしは一人で観たかったんだけど、余ってるんだから……その、可哀想じゃない! この券が! もう、つべこべ言わず来なさい! 授業お昼までだし、生徒会終わったら行くわよ」


「お待たせ! じゃあ行きましょ。……ちょっと、あんまり近付かないでよ。他の生徒に変な目で見られるじゃないの……もう! 離れすぎ! あたしに失礼でしょうが!」


「結構早く着いたわね。隣のショッピングモールでも見る? あ、あたし夏服見たいから、付き合いなさい」


「へえ、たしかに、そっちも可愛いですね。でもあたしに似合うかどうか……そうですか? え、えへへ……え? いや! いやいや違うんです! 彼氏なんかじゃないです! その、あの、……そう、荷物持ち! パシリなんですよ。ははは……」


「だってあんなに勧められたら、買うしかないじゃないの。……悪かったわよ。パシリとか言い過ぎましたゴメンナサイ。あたしが謝ってるんだから機嫌直しなさいよ。あ、ついでにこれ持って」


「やばいやばい! 走れ! 映画始まっちゃう! 男でしょ! 荷物のせいにするな! もう……少し持つから。はい、急げーっ!」


「ふぅー間に合ったわね。携帯の電源切った? もう一回ちゃんと確認しなさい。鳴らしたら絶交だから。ねえ、ドリンクホルダーどっちがあたし?」


「……うん。良かった。すごい良かった。恭子だっけ? 彼女の気持ち、すっごい分かる。……ねえ、あんたは、恭子と絵美、どっちが……ううん、やっぱいいや。ちょ、今顔見たら殴るから! ちょっと待って、あーもう、携帯の電源入るの遅すぎ! ミラー持って来れば良かった……あれ、ハンカチ無いし……落としたかな……え? あ……ありがと……こっち見んな!」


「楽しかったわ。すっきりした。……その、まあ、あんたは使いやすいし、また今度映画を観ましょう。……あんたに拒否権なんて無いんだからね!」




*   *   *




「お、おはようございます、先輩。その……いいんですか? せっかくのお休みの日に、私なんかと……そ、そうですよね! すみません! あ……はい、がんばります」


「この公園、小さい頃からよく来ていて、好きなんです。幼稚園の時、弟とボールで遊んでいて、私、あんまり必死にボールを追いかけるものだから、気付かずに池に落ちちゃった事があるんです。あはは……ドジですよね、私。でも今は、しっかりお姉さんやってますよ」


「あの……ただ公園を歩くだけって、つまらなかったでしょうか……私、こういうの初めてで、行きたい所ってすぐ思いつかなくて……そ、そうですか。良かったです」


「あ、ここです、ここ。……え? あ、ごめんなさい。私が落ちた所です……って、そんなことどうでもいいですよね、ごめ……そうでした。ごめんはナシ、でしたね! すみません。……あ」


「お弁当、男の人はどのくらい食べるのか分からなくて、少ないよりは良いかと思って、たくさん作っちゃいました。なので、無理して全部食べなくて良いですからね! お口に合うと良いのですが……あ、おしぼり持って来てるので、大丈夫ですよ」


「わあ、良かったです。ありがとうございます。そうそう、このハンバーグ、チーズを挟んであるんですよ。流行ってますよね。どうですか? ……ふふ、良かったー」


「え? 厚焼きたまご、甘くないですか? 私の家も先祖代々お砂糖派なのですが……ああ! お砂糖とお塩、間違えました! わあごめんなさいごめ……ああごめんはナシでしたごめんなさ……あぁ……」


「おそまつさまでした。どうぞ、温かいお茶です。……いいですよね、こういうの。とっても静かで、遠くで子どもたちが元気に遊んでて、その、……二人っきり、で……ゆっくりお茶を飲んで。それに、風がすごく気持ちいいです。先輩は、……こういうの、好きですか?」




*   *   *




「やっほーおまたせー待ったー? そっかーよかったよかった。んじゃ、帰ろっかー」


「今日さー国語の授業で先生がブチキレてさ、マジ授業になってなかったっていうか、あの先生の授業で居眠りするとかマジあり得ない! すぐキレるの分かってるくせに、ほんと、バカだよねー!」


「昨日のテレビ、ほら、何だっけ……そうそれ! 観た? ウケたよねー中学生の正答率八〇パーセントなのにハズすとか、どんだけ! って感じだよね! まああたしも分かんなかったけどさ!」


「ねえ、明日用事ある? 駅前に新しいカフェできたじゃん? 行ってみよーよ。……ええ! 明日だっけ? そっかーしょうがないな。明後日は? おっけ、じゃあ明後日の、十一時、駅前集合ねー」


「おっそーい! 五分遅刻! ……あれ? あーごめんあたしの時計が進んでたわ、はっはっはまー気にしない! 行こ! ……いーじゃん腕くらい、誰もあたしらの事なんて見てないよ!」


「ん? この服? ふっふーん実は昨日買ったんだーいいでしょ? 似合ってる? ……そこは冗談言うところでしょ! そんなストレートに言われるとこっちが照れるっつーの! ……けど、まあ、……うん、ありがと!」


「結構良い雰囲気じゃん。あ、あたし、オリジナルブレンドコーヒーね。初めてのお店は、まずオリジナルを飲んでみるのがあたしの流儀なんだ。……ねえ、このメニュー超気になるんだけど、ねえねえ、頼んでみてよ。あたし? あたしは美味しそうだったら少しもらう」


「すっげー本当におっきいな! それ食べきれる? 無理でしょ? 仕方ない加勢してやる」


「もうちょっとがんばってよ、男子でしょ……あたしこれ以上食べたらヤバいよ……ダイエットしてるのに……お世辞とかいらないし! ほらここまで食べて! こっち食べるから」


「おいしかったねーたまにはここも良くない? ……ちょっと、だめ、あたしも出すから。もう! ほら! 奢られるのイヤなの! はい、受け取らないとこのままポイするぞ」


「ふいー……さて、次どうする? なんか、食べたら体動かしたくなったな……お、いいねボウリング! やろやろ! 負けた方が勝った方の言う事ひとつ聞く! ……ねえ、なにイヤらしい顔してんの?」


「んっふっふー! なーにしてもらおっかなー! 洋服買ってもらう? 靴にする? アクセも欲しいなー……分かってるって。冗談だよ」


「……よし、決めた。……けど……これ、ふつーに言うの、恥ずい……かな。ね、ちょっと、耳貸して」


「……」


「……わ、わかった? 聞こえた? あたしの言う事、聞いてくれる? ……ほんと? えへへ、良かった……うん。良かった! よーし! じゃあ次! どこ行こっか!」




*   *   *




「土曜日か? まあ、予定は無いが。……分かった。私で良ければ、付き合うよ」


「悪い、待たせた! いや、あまり人と出掛けないから、どんな格好すれば良いのか迷ってしまって……ほんと済まない」


「……そ、そうか? ありがとう。姉に、ぜったいスカートにしろとどやされて……変じゃないか? 私がスカートなんか……ん? ギャップ萌えって、何だ?」


「なるほど、妹さんは動物が好きなんだな。分かった。それなら心当たりがある。ついて来い」


「ほら、いたぞ。可愛いな……あーすごく可愛いなあ。あ! こっち見たぞ! おい見たか! ほらほら! ……え、あ、そうか……さすがに誕生日プレゼントにペットは無いか……あ、ほら、こっちも可愛いぞ!」


「そうなると、やはりあのお店か……え? まあその……実は、私も動物は好きなんだ。小さいのだけだがな。大きい犬とか、鳥とかはちょっと怖い。……失礼な! 私にも怖いものくらいあるさ」


「ほら、このお店の小物は、動物柄が多いんだ。このお箸、わんちゃ……こほん、子犬の足あとが描かれていて可愛いだろ? このマグカップとセットにできるな。……あ! これはあのサイトで紹介されていた新作アイテム……はっ! いかんいかん、君の妹さんのプレゼントを探すんだったな」


「ゲームセンターか……入るのは初めてだ。……なんか、騒々しいな。みんなあの台に向かって何をしているんだ? あの人、あんなに素早く指を動かして、大変そうだな」


「なななな、なんだこれは! 透明のケースにウサた……ウサギのおっきなぬいぐるみがたくさん入ってるぞ! ……ほう、あの菱形の鉤爪で摘めばいいんだな? 分かってる。深追いはしないさ」


「……くっ、もう一回だ。……待ってくれ! もう少しで獲れそうなんだ! 頼む、やらせてくれ! ……分かった。次が最後だ」


「……なんだこのひ弱なアームは! ……悪い、今のはナシだ。機械のせいにするのは良くない。何かコツでもあるのか? ……無理しなくて良いぞ? お前まで散財しては目も当てられん……」


「……すごい、すごい! いけ! よし! きゃあ! やったやった! 獲れた! 君は天才だな!」


「……え! いやいや、それは君が獲ったんだ。さっきのお弁当箱セットと一緒に、妹さんにあげると良い。きっと喜ぶ。……お礼なんて、そんな、私は……うう……本当に、良いのか? ……そっか、なら、その、お言葉に甘えて……ありがとう」


「ああ……フカフカでフワフワで、気持ちいいなーこのウサギは。改めて、ありがとう。このぬいぐるみは大切にするよ。今日はとても楽しかった。……その、君が、もし良かったら、だが……また何かあったら、誘ってほしい」




*   *   *




「いかがでしょうか。お客様の”理想の性格”はございましたか? ……かしこまりました。では準備いたします。ええ、このチップをインストールするだけです。すぐ終わりますよ」


「では次に、理想のお顔と、それから身長、体型を選択していただきます。こちらのブースにどうぞ。ご希望であれば細かな数値も変更できますよ」


「先に外見を選ばれるお客様もいらっしゃいますが……人間もAIも、大切なのは中身だと私は思うのです。当店のオススメといたしましては、やはりまず理想の性格をお選びになったほうが、外見も想像し易くて宜しいかと存じます。はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編】理想 o0YUH0o @o0YUH0o

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ