東京怪獣害から十年
笠井 野里
石見純インタビュー記事(1/2)
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記者:石見さん、今日はよろしくお願いします。
石見:こちらこそ、よろしくお願いします。
記者:早速なんですけど、今日は東京怪獣害から十年ということで、石見さんにインタビューをするんですけど……
石見:(笑)僕、本当はこの話断ろうかなって思ってたんですよね。僕なんてあのとき北海道で大学生してただけだし、あんまり思い入れがないから話すことないと思ったんですけど…… 金がないから受けましたよ。
記者:(笑)……受けてくれて良かった(笑)さっき少し話してくれていましたけど、あの七月二十九日は何をしていましたか?
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石見:北海道で大学生してました。ラーメン屋で、味噌ラーメン食ってたら、テレビのニュースであの騒ぎを報道してて、最初は怪獣映画だと思ってましたね。しかもチープな。映画じゃないってわかって、不謹慎なんですけど、興奮しちゃったんです。「あ、本当に怪獣が出たんだ!」って。あのメルトダウン騒ぎも二年前にはあったわけですし。被害が拡大してくと、流石にそうも言えなくなってきましたけどね。
あの日だけで死者行方不明者八十二万人(編注:実際は八十九万人)って深夜に文字で見ちゃうと、凄まじいものがありますね。
記者:最終的には二百十四万人ですから、こう改めて…… ケタ違いの災害ですね。
石見:あんなカラスのでかくなっただけみたいな動物が、あの世界都市で日本の首都である東京を突如、そして一夜、まあ正確には三日かけてですけど、滅ぼしたんですから……
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記者:石見さんの、災害時に印象的だった出来事はなんですか?
石見:色々ニュースがありましたけどね。スカイツリーが折れたのは生で見ていたので凄い印象的です。あとは、怪獣の名前がネット世論の影響で「ガララ」になっていった様子なんかも、僕は掲示板の中の一人として、ナマで参加していたので、頭に残っています。明らかに
記者:ネットの影響が色濃く出た災害でしたね。これは東日本大震災でもよく言われることですが、こっちもなかなか。ネット発のデマで虐殺が起こるとは……
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石見:あの板橋虐殺は関東大震災で起きた朝鮮人虐殺とも被って最悪ですね。しかもすぐに広まって、全国で同じようなことが起きた。「反日勢力がガララに餌付けしている」というデマは当時のネット、あるいは普通に一般感覚で常識としてありましたからね。政府は未だに被害者の総数をカウントしていないですけど、こういうところもしっかりして欲しいと思っています。
記者:当時の政府対応、石見さんはどう見ますか?
石見:評価のしようがないですね。前例ないし(笑)他に同様の災害が起こったわけでもない。自衛隊が出たのが三十日になってからだとか、避難指示の混乱と渋滞で被害が増えたとか、核兵器を使うべきだったとか、未だに議論は絶えないですけど、結局結論はない。
僕的にはあの災害の直後にほとんどの国会議員が京都まで逃げたこと以外、どうでもいいとさえ思っています。ただあんな逃げ方されたら旧都民が反感を持つのは当然ですよ。東京は捨てられたマチです。十年前のあの日から今までずっとね。
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記者:捨てられたというのは?
石見:そのままの意味です。今の
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記者:統計上でも東京の衰退は手に取るようにわかりますね。東京都の人口は七百万人を割って、旧都心にあった駅は再編事業で四割も減っています。その中には六本木なんかも含まれている。山手線は十七駅しかなくなった。
石見:恐ろしい話です。同じく被害を受けた横浜は、そんなにダメージを受けているわけではない。関東圏は東京への集中から脱却して各々の都市圏を築き始めた。しかし東京府だけはそれが上手く出来ていない。誰もおのぼりしてくる人がいないからです。唯一、人が集まるのは
ただ――東大生は新しい東京に新しいカルチャーを作ってくれるでしょうか?
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記者:それは……(笑)未来に期待ですね。
石見:この十年で、大阪がカルチャーの中心になりました。実はこれ、学生たちの力の影響が凄いある。インターネット同人がいまだに流行ってますけど、これの元は大体が学生です。しかも大阪のね。
シン・阪神間モダニズムなんて流行らせたのも大阪芸大に無数に存在するマンガサークルの一つですから。
記者:シン・コミケが本家の二倍の来場者を集めたのもサブカル業界では記憶に新しいですね。
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石見:今の大阪はまさしく大大阪で、阪神間モダニズムの再来です。ただこれ、あのガララという怪獣が出て東京ががれきの山になったときに、「今なら東京を大阪は抜けるんや!」と直感した大阪人が圧倒的な勢いで大阪を「
日本中が死にそうな空気だったあの時期、日本を盛り上げるぞ! なんて息巻いた大阪都民は、どんちゃん騒ぎ、バカ騒ぎにしか見えなかったですよ。……ただそれが有効だった。大阪の明るさはジャパン・カルチャーを助けました。シン・コミケなんか、学生たちのムーブメントで、元あった大阪版コミケを吸収している。面白いことに、吸収と成長がこの十年のシン・大阪文化なんですよ。明治期の日本みたいだ。
……アレ、これなんの話だっけ?
記者:(笑)もうそろそろ大阪文化論はやめにしときます?(笑)
石見:そうですね(笑)別の特集になっちゃいそうです(笑)
記者:東京怪獣害はクリエイターに大きな影響を及ぼしたとは思うんですけど、石見さん個人はどうですかね?
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石見:ないとは言えないですけど、盛大に影響があるかと言われると
元都民の人達なんかは派手に影響されてるでしょうし、文化の中心になった大阪都民も広く見たら影響を受けているのでしょうけど、僕はそこまで行かない。
結局、北海道で見ていただけですし、地元は静岡でなんの被害も受けていない。あの災害を題材に取ることもないですし、それはあの災害をトラウマから書けないんだというわけじゃなくて、書く動機も何もないんですね。あと書けるかもわからない。僕は僕の書きたいものを書くしかない。怪獣害にはいい材料がいっぱいあるのに、もったいないです(笑)
記者:もし怪獣害関連の作品をなにか書くってなったら、どんな題材を取ります?
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石見:やるなら多分、怪獣が来なかった世界の日本と東京都が題材になるかな?
で、なんか経済小説を書きたい。怪獣がいない世界なら、経済は強いはずで、丸の内あたりのサラリーマンを主人公にした日常を描きますよ。
記者:今の時代にないロマンがありますね(笑)
石見:そうです。経済立国ニッポン。マルノウチ、ロッポンギ、ザギン。ロマンです。
記者:この十年で経済も様変わりしましたね。
石見:大阪中心なのに、
記者:それだけ経済面は東京に集中していたんだなって考えちゃいますね。でも冷静に考えると文化だけですよ、十年前より華やかになったのって。
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石見:そう考えると薄暗いですね。
記者:私が勝手に注目しているのは、ほとんどの旧東京都からの移住者が文化的にも経済的にも生活水準が下がったと感じていることで、彼ら移住者の消費者としての活力が、全然ない。
石見:五百万人は出て行ってるわけですし。あの東京から。その人たちが幸せな移住を出来ているほど甘くはないですよね。
記者:だからといって、東京に戻っても「東京都」はもうない。
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石見:東京都だけがアイデンティティだった人もいる。そういう人たちはもうどこにも住む場所がないですよ。恐ろしいことに。
記者:移民問題のようなものですね。
石見:見方を変えると移民問題より移民問題かもしれない。どちらかと言うと難民ですよね、やっぱり。
記者:ガララの影響は、一生続くんですね。
石見:それに対するカウンターとして、文学や文化が存在出来ているのは、今の時代に一つ
記者:コロナのときもそうでしたね。
石見:世界的にはアフターコロナですけど、日本はアフターガララがいまだに続いている。いやポスト・ガララかな。そういう点では今の日本は世界より強いですよ。……こんな感じでどうですかね。綺麗に終わりそうじゃないですか?
記者:そうですね(笑)ありがとうございました。
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