そうでなくともいい

海乃 翔流(ウミノ カケル)

晴れた休日

目が覚めた。今日から二日間の休みだ。

カーテンを除ければ即座に太陽の熱を感じる。

窓を開ければ涼しい風が入って。

街の雑多な様子が目や耳や鼻から伝わる。

いや、そんなことはわざわざ気にするでもない。

良い休日にしよう。


さて、朝は勢いが大事だ。

気分が優れなくとも、とりあえず動いてしまえばあとは勝手に身体が何とかしてくれる。

先ずは着替えて、それから朝ごはんを作ろう。

そんなに空腹でもないから軽めに、トーストが一枚、目玉焼きを一つ、サラダは少々、それらをコーヒーで流し込むとするか。


決して面白くないニュースの記事も、優雅な朝食とであれば少しは読み進めやすい。

これから何をしようか、なんて考えたら今度は逆に目が滑ってしまうけど。


それじゃあ歯を磨いて、洗顔をしてと。

よし、この清涼感と共に散歩へと出かけよう。

扉を押せば、爽やかな空が出迎えてくれる。

休みだからと気を利かせてくれたのかしら。


汗がじんわりと出てきたし、そろそろ切り上げたいのだが。

ただ、先ほどから肩に乗っている蜻蛉。

この方は私より高くを、それも追いつけないほどの速さで飛ぶ。

きっとそちらの方が景色も楽しめるだろうに。

ならばこれを反故には出来まい。


なんて思った矢先、あの方は何処かへ飛んで行ってしまった。

なに、まだほかにいい景色があるってかい。

いいさ、見るだけが散歩でもない。

だから少し、遠回りして帰ろう。


シャワーで汗を流す。

この瞬間に、さっきまでの行為は報われる。

終わったあとの爽快感に変わるエネルギー。

これを溜めるというのが運動ではなかろうか。


一息ついたなら、次は本を読むとしよう。

図書館で借りていて、もう期限は間近な。

紙同士がこすれ合う音ばかりで、静謐な空間。

もっとも私の中では大勢の言葉たちが行き交っている。


またはなにもせず、目をつむってみる。

外の世界に疲れた時、飽きたときにはこうする。

あれ、これ、なぜ、なに、それ、こう、ああ、ふふっ。

どこまでも、どこまでも潜っていくように没頭する。

つい息を忘れてしまいそう。


そこで濡れるは無二の色に。

この世界はきっと、みんなで作り上げる一枚の絵だから。

余白を塗ればいい。

色をつなげばいい。

重なっても、ズレてもいい。

ただ、良い絵であれば。


気付いたらもう夕方になっている、というのが休日の常。

お腹が鳴った、そういえばお昼をとっていない。

材料は用意してある、腕によりをかけて作ろう。

切って、入れて、煮て、混ぜて。

そうして出来上がったのはビーフシチュー。


嗚呼、空腹の反動で食べ過ぎた。

苦しいし、このまま寝てしまおう。

最後にこれでは今日という日が台無し。

なんてことはない。

良い日だった。


たとえ明日に雨が降ろうと。

世界の色は薄らいだりしない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る