第4話 留学生

隣国から留学してきたサンドラ・ハルメ。


 公爵令嬢だが気取ることもなく、すぐに学生たちと仲良くなった。

 しかし、身分が高く美しい高嶺の花である公爵令嬢の、友人というには近しい距離の取り方に令息たちは惹かれていき、行動を共にすることが増え、それぞれの婚約者をないがしろにする事態が続発した。

 しかし相手は他国の公爵令嬢、騒ぎ立ててその令嬢を咎めることもできず、泣き寝入りで関係がぎくしゃくしたり、婚約破棄をする者たちまで出たのだ。


 当時、まだ父が健在で、当人も優秀な侯爵令嬢のアリエルは皆から頼りにされていた。

 令嬢たちに懇願されたアリエルは、公爵令嬢の立場も慮りつつ、配慮を願い出た。

 すると、

「そんなつもりはなかったの。ただ異国の地で心細くて不安で不安で・・・皆が優しく手助けしてくれるのに甘えてしまってつい・・・ごめんなさい。早く馴染みたいとただ必死で周りが見えておりませんでした。・・・これからはアリエル様がご不快にならないように気を付けますのでお許しくださいませ。本当に申し訳ありませんでした。」

 サンドラは涙をハラハラと落としてハンカチで押さえた。

 アリエルは何も不快になど思っておらず、サンドラのためにも婚約者がいる令息とは二人きりで出かけない方が良いのではと、提案をしただけだった。

 しかしその儚く心細げに泣く姿は、身分が自分より上の令嬢に対してアリエルが言いがかりをつけたような印象を周囲に与えてしまった。


 そういうことがあり、当該の令息たちの中には、心細い思いをしている留学生に対して薄情・冷淡だとか、自分より身分の高い令嬢に文句を言うなど傲慢ではないか、嫉妬ではないかなどと陰口をたたく者も出始めた。

 人など単純で、ずるいものであり、当事者でもないのに日頃のやっかみや面白半分にそれに同調するものも出てくる。

 国で重用されている立派な侯爵家で、アリエルが優秀であればあるほど些細なことをあげつらうことで留飲を下げる愚か者たちのせいで、大げさに歪んだ噂として広まってしまった。

 あまり積極的に言い返したり、もめ事を好まない性格も災いしたのか、留学生とほとんど接触していないにも関わらず噂が消えることはなかった。


 ただ父のワトー侯爵の地位のおかげで、アリエルは直接表面だって口撃されることも嫌がらせをされることもなかった。

 そして婚約者のセドリックも噂に対して反論し、もう少しこの国を背負う貴族としての矜持を持った品性のある行動をとれと諫めてもくれていた。

 それでも高位の貴族令息ほど耳を貸すことなくサンドラの取り巻きになり、学院の外でも親しく付き合うようになっていった。


 そんなか、アリエルの父が死去し、母親が行方不明。叔父が家督を継ぐとくだらない噂だけでは済まなくなってきたのだ。

 ワトー侯爵の威光がなくなり、爵位を将来受け継ぐこともないと判ると、アリエルと関係を結ぶ必要がないと、特にサンドラの取り巻きの令息たちが中心となって、アリエルと距離を置き始めた。

 するとそれに同調し倣う者たちが出てきてしまい、アリエルは学院内で孤立し始めた。メリットのない者との付き合いをする必要がないとみなされたアリエルは自分自身が何も変わっていないにも関わらず、周りの容赦ない言動に深く傷つけられた。


 辛いことばかりが続いて酷く落ち込んでいたアリエルだったが、セドリックが嫌な言葉が耳に入らないよう気を配り、孤独にならないよう常に側にいてくれるようになった。

 彼がいなければ学院に通い続けることが出来なかったかもしれない。


 セドリックだけがアリエルの味方、心の支えになっていたというのに。



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