第2話 領地へ
「セドリック、今日はお招きありがとう。」
その日、アリエルは婚約者のセドリックの屋敷に招かれていた。
美しく手入れされた庭の花々が満開で、そこにお茶会の用意がされている。
テーブルにはアリエルが好きなお茶とお菓子が並んでいた。アリエルを喜ばせようとセドリックが選んでくれたのだろう。
「明日から領地に行くのだろう?大丈夫かい?叔父上と・・・いや、今は侯爵か。」
「ええ、叔父様はずいぶんと領地に戻ってないからあちらの使用人の顔も知らないからね。お父達様は領民にも使用人にも慕われていたから・・・叔父様にもそうなって欲しいから皆に紹介しないとね。事業や執務も全く分からないからすべて引き継がなきゃならないから大変だわ。」
そう言ってアリエルは溜息をつく。
「・・・アリエルも領地のために頑張っていたのにな。」
「・・・うん。でも叔父の手伝いをしてこれからも領地に関わりたいと思っているわ。それよりもセドリックに申し訳なくて。」
「それはいいんだ、心配いらないよ。ほら、侯爵に・・・アリエルの父上に勉強させてもらったおかげで、王宮の文官の道にも進めるし、二人で幸せになるのは変わりはない。」
そう言って笑うセドリックの顔には、誠実さしかなくアリエルは嬉しく思った。
「ありがとう、セドリックと出会えてよかった。」
「僕もだよ、侯爵が僕を婚約者に選んでくれたことに本当に感謝してる。この休みはいろいろ一緒に出掛けたかったんだけどな、嫌なことが続いているし気晴らしにさ。それに心配だし・・・」
「・・・たしかに。・・・でもセドリックがいるから私は大丈夫。それに領地へはクロウが護衛についてくれるから心配ないわ。」
クロウはアリエル専属の護衛で、昔から側についてくれている。
アリエルが幼少のころから側にいるから少々馴れ馴れしかったりするが、実力は折り紙付き。
おまけに、全ての事に通じており、アリエルのお世話から、情報収集、料理など何でもできる頼りになる護衛兼侍従だ。
「ああ、彼が。じゃあ安心だね。寂しくなるけど気を付けてね。」
「うん、最終日には会いに来るから待ってて。」
「ああ、楽しみにしてる。」
そう言ってセドリックはアリエルの手に口づけた。
そして次の日、アリエルは領地へと旅立った。
アリエルは領地の使用人たちへ叔父を紹介し、支えてくれるように頼んだ。
そして領地の事業所や漁業・農業に携わっている領民たちにも引継ぎを伝え協力を頼み、急遽侯爵になった叔父へ領民たちへの不服が向かないよう尽力した。
そんな健気な姿に領民たちは陰で涙を落とし、アリエルの為に協力をすることを約束したのだった。
執務、事業は一朝一夕に伝えきれるものでなく、想像以上の大変さを理解したらしい叔父からこれからも手伝って欲しいと頼まれた。
アリエルとてこれまでは父と一緒に行っていた事。いずれセドリックとともに侯爵家を継承するからと勉強してきたが、そのアリエルでさえ一人でするのはまだまだ難しい。
だからこの領地を大切にしていた両親のためにも、叔父の願いを快く引き受けた。
思い描いていた将来を閉ざされたと思っていたアリエルだったが、将来は領主代行としてセドリックと領地で暮らすのもいいと、新しい未来に思いを馳せたのだった。
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