カラフルパレット
@yukirot
第1話 灰色
桜が舞い散った後の入学式を終え、僕を待っていたのは油絵の具の匂いが充満する部室へと向かった。ここへ来るのは何度目になるだろうか。僕は推薦をもらう前からこの教室へは何度も来ていた。
「やあ。今日は早いんだね翔くん」
「・・・蓮華さん」
部室に来ることは慣れていてもこの人には未だに慣れることができない。今どきの美術部なんてパソコンやらタブレットやらでデジタルで描いている人のほうが多いのにこの人はいつも油絵の具で描いている。僕の嫌いな匂いだ。ここの美術部は珍しい。中学校で賞を獲った人だけでなく、オープンスクールで描いた絵を評価されて推薦をもらえるなんてこともある。そんなだから、部員は30名近くいる。
カッ、カッ、シャッ。
色んな音が響き渡るこの教室は僕の癒やしになっていた。
「翔くん、そろそろお茶してくれてもいいんじゃない?それともこのまま付きあっちちゃう?」
この人を除けばね。
「だから、何度も言っている通り、あなたとお茶をするつもりはありませんし、ましてや交際をしたりなんてありえません」
「なんでよー。つれないなー」
彼女はそう言って部室の外へと出ていった。
春になったとはいえ、まだまだ夜が冷えるこの季節は苦手だ。僕はマフラーを巻き帰路についた。
一般的な家庭は玄関を開けると明るい部屋があって、いい匂いのするご飯が作られているのであろう。アパートの2階のドアを開けると、真っ暗な部屋が僕を出迎えた。薄暗い電気を付け、買いだめしていたカップラーメンに湯を入れた。僕の日常なんてこんなもん。母親は僕が幼いときに大きな病気で亡くなり、その後酒に明け暮れていた父は暴走運転で大事故を起こして死亡。周りからは犯罪者の息子と罵られ、転校を余儀なくされた。親戚からの援助を受けながら一人暮らしをしている。
僕は幸せになっちゃいけない人間だ。父の罪を背負い、一生罵られて生きていくのが定めだと自分に言い聞かせていた。罵られて生きていくほうが楽だ。
「翔、この絵はねお父さんが大切に描いてきた絵なんだ。絵はな、誰にも同じ絵を描くことはできないんだ」
そう言った父さんは微笑みながら緑色の草のように染められた、キャンバスに目を向けた。
唯一無二の絵。
ここ数年過去の思い出が夢に出てくる。声や姿ははっきりしているのに、顔を見ようとすると、白いモヤがかかってしまう。
ー消えてしまえばいいのにー
唇を噛みながら、家を出る支度をした。
学校での生活はいつもと変わらない。登校して、席に着き、何事もなく一人で。友人なんていない。
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