第52話 対決

 傭兵隊は王城の本丸以外の守備兵をほぼ一掃し、王城を出て、王都の北門の守備兵に襲い掛かった。


「あー、奥方様―。あっちもっと片付けて下さいますかー」

「なによー、シャーリンちゃん。あなたもっと活躍したかったんでしょー」

 最初の勢いと違い、シャーリンとビヨンド様が手柄を譲り合っている。

「だって、余りに歯ごたえが無くて……これじゃ弱いものいじめですよ。寝覚めが悪いったらありゃしない。えーい面倒だ! こらー、お前ら! 死にたい奴だけかかってこい! 死にたくなければどっか行っちまえー!」


 シャーリンが大声で叫ぶと、門を守っていた守備兵の前衛が我先にと逃げ始めた。

 もうこうなっては士気を維持出来ないだろう。後ろにいた兵士達も蜘蛛の子を散らすかのように逃げ始めた。

 そうして十分後、北門は解放され、外に詰めていた諸侯連合軍の兵達が王都内に侵入を開始した。


「さあて奥方様。私らの役目はここまでですが……どうします?」

「やーね。シャーリンちゃん。分かってるくせに。

 やっぱり王城の後宮とか、女だったら一度は見物したいわよねー」

 ビヨンド様もノリノリだ。

「そうですね。では参りましょう!」


 ◇◇◇


「おい、新王はどこにいらっしゃる! 

 敵が王都内に侵入して来ているではないか」

 ナスキンポス将軍が本丸の作戦会議室でわめいている。


「それが……後宮で例の人間と乳繰ちちくり合っているようで……」

「なんだとーーーーーー! 

 ふっ、ふふっ……もう終わりだ……くそ、あんな馬鹿王子に賭けた私がおろかだった。こうなったら……よし、ゲートを使うぞ。命あっての物種だ。いいか副官。

 私が人間界に亡命したあと、速やかにゲートを破壊し、誰も後を追ってこられないようにしろ!」

「了解しました!」


 そしてナスキンポス将軍は、副官を伴い、ゲート室を目指した。


 ◇◇◇


 後宮の奥の部屋で、俺達は星さんを発見した。

 いや正確にいうとアロン新王と寝床を共にしている星さんを発見した。

 

 俺は怒りで我を忘れそうになったが、プルーンが俺を制した。

「ゆうた、落ち着いて。あかりママは人質よ」

 星さんは全裸のまま、新王に剣を突き付けられている。


「動くなよ。誰か一人がちょっとでも前に出てみろ。こいつの首は胴体とおさらばするぞ。世の破壊の加護付き名剣の威力を舐めるなよ……ゆうたってのはお前か? 

 それじゃ、ゆうたを残して、後のおまけは部屋の外へ出ろ! 直ぐにだ! 

 ああ、あの幼児は向かいの部屋にいるから勝手に連れていけ……」

 新王に言われる通り、俺だけを残して近衛の者たちが退出した。


「くそ、卑怯だぞ」

「なに、心配するな。世はあかりを気にいっている。お前がちょっかいださなければ世の妻にしてもいいと思っている。どうだ、世に譲らんか? お前にはともりとかいう思い人がいるのだろう? それを、たまたまこっちにあかりと二人で流されたんだか知らないが、ふしだらにも恋人の母親に手を出して、子まで作って……本当に人間ってやつはあさましいよなあ!」


 くそ、こいつどこまで……いや、それは問題じゃない。

 星さんだって必死だったんだろう。


「ふん、お前なんかになにが判る。俺と星さんは、こっちに流されてきてずっとギリギリのところで助け合って来たんだ。それでお互いを認めて愛し合う事の何がふしだらであさましいと言うんだ! 世間の評価とか人の判断なんかどうでもいい。

 俺は俺の気持ちにまっすぐでありたい。ただそれだけだ!」


「よく言った! 

 だが、お前は今、こうして私に手も足も出ん。さぞやくやしかろうなー。

 もう一度言う。星を助けたかったらお前が手を引け! 

 替わりに娘は返してやっただろう」

「そ、そんな算数みたいな理屈で、人の心を図るな!」


 俺はもう迷わなかった。星さんと心中してもいい……本気でそう思って、腰に隠していたグレゴリーナイフを手にとり、新王に斬りかかった。

 新王も腕に覚えはあるのだろう。こちらの攻撃を予期していたかのように、持っていたソードで受け流す……はずが、ソードがパキンと折れた。


「なんだと! 破壊の加護付きだぞ!」

 はは、またグレゴリーさんに助けられちまった。


 俺は新王から星さんを引きはがすと、思い切り顔面にこぶしを入れ、新王はベッドの陰に吹っ飛んで転がっていった。


「ゆうくん……」星さんが心配そうに俺を見ている。

「星さん。大丈夫。もう勝敗は決した……」


「ふっ、それはどうかな!」

 突然ものすごい頭痛が俺を襲った。くそ、体が全く動かない……。


「これは、貴族の護身用でな。多くの貴族がベッドの下に置いてあるものだ。

 神官が他種生物と念話出来るのは知ってるだろ? 

 あのエネルギーを特定の相手への攻撃用に増幅する装置さ。

 だから、どんな種族にも効くのだよ!」

 そう言いながら、新王は、小型の装置と別の剣をベッドの下から取り出した。


「ああ、王様……おやめください。ゆうくんは私が説得しますから……どうかご慈悲を!」星さんが新王にすがりつくが、振り倒された。


「もう遅い! 思いだけではどうにもならんのだ!」

 新王が剣を振り上げ、俺に振り落とそうとした瞬間、突然、部屋のドアが吹っ飛び、それに続いて、新王の剣と護身用の装置が手からはじき飛ばされた。


 ああっ、シャーリンさんだ! 

 シャーリンさんは手を緩めず、続けざまに新王に向かって大上段に切りつけた。


「だめー!」星さんが新王に飛びつき、危うく新王と一緒に真っ二つにされるところだったが、シャーリンさんがギリギリで止めた。

「つがい殿……なんて無茶な事を……」


 外にいたクローデルさんやプルーン達、近衛の連中も花梨をつれて部屋に入ってきた。


「おい、ゆうた。こいつが新王か? それじゃこいつの首とったら大手柄だな。

 一生遊べる位の報償貰えるんじゃないか?」シャーリンさんが吼えた。

「だめよ、殺しては。このまま姫様のところへ連行します」

 クローデルさんが新王を拘束しようと近寄るが、星さんが離れようとしない。


 すると、新王が口を開いた。

「ゆうた。世の負けだ。お前のさっきの啖呵たんかよかったぞ。俺は俺の気持ちにまっすぐでありたい……か。世もそのはずだったんだが、どこかで間違えていた様だ。

 父上も母上も姉上も、みんなお互いを本気でなりふり構わず好きになって……か。

 それで俺が生まれた……。

 だが俺は……自分と母上が、花梨とあかりのように皆に愛されているようには思えなかったのだ……みんな、いろいろお立場もあったであろうに、それを顧みる事もなく俺は…………。

 ゆうた、ゲートを使うがよい。世が許可する。

 だが、早くしないとあのポンコツ将軍に先を越されてしまうかもしれんぞ」


 星さんが新王をいつくしむように抱きかかえ、頭を撫でている。何があったのかはまだ分からないが、星さんなりに新王に共感するものがあるのだろう。


「ゆうた。やったじゃん。ゲート使っていいって。すぐに灯とシステンメドルとエルルゥを呼ばなくっちゃ。私、呼んでくるね」

 そう言ってプルーンが駆けていった。


「それじゃ、私たちはポンコツ将軍を打ち取りに参りましょうかね。

 ビヨンド様は、新王の降伏を姫様にお伝たえいただけますか?」

 そう言ってクローデルさんと近衛達、そしてビヨンド様がその場を離れていった。


 そして、新王と星さんと俺と花梨、そしてシャーリンさんがその場に残った。


「王様。王様は本当は心お優しい方だと思います。

 ですからちゃんと反省して、あっちゃん姫様と仲良くなさって下さいね」

「ふっ、ありがとう、あかり。本当に最初からお前が妻だったらよかった……」


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